クリエイター自身が作り上げる、ビジュアルブックがトレンドに!

Culture 2022.01.17

本を手に取って手触りを確かめながら、ページをめくる。
言葉ではなくイメージが連なる本を通して、心躍る空想を膨らませる。
ビジュアルブックを通して、本という紙のプロダクトとの付き合い方を探ろう。


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Loose Joints 
次世代で注目される、気鋭の出版社。
https://loosejoints.biz
1. テムズ 川で生きる人々に焦点を当てたクロ エ・デュー・マシューズ。座標や日時と写真を配し、川の流れを思わせる 袋綴じ状に。
2. 中国人作家シャオペ ン・ユアンは、シュールな構成で商業写真における西洋主義を炙り出す。 3.クィアの憂鬱を表現するアーティス ト、パシフィコ・シラーノ。蛇腹式の製本で、ひとつのコラージュとしても楽しめる。
4. 日常風景を単純化して切り 取ったボビー・ドハティの写真集は、 キッチュな装丁も魅力。
5. シンプルな デザインで、ジャック・デイヴィソンの 情感あふれる世界観をより強く打ち出 した一冊。
6. 欧米広告の典型的な白人に扮したモデルなど、バック・エリソンは風刺的な構成で白人主義社会 を問う。
7. テクノロジーと写真を駆使 し、ミランダ・リヒテンシュタインが新境地を切り開いた作品集。

G/P + Artbeat Publishers
富士ゼロックスのオンデマントプリンターで、アーティスト自身が安価に高品質な本を出版できる企画。
https:// gpabp.official.ec
8. 鈴木親が撮影した90年代後半以降の東京風景。ウィリアム・エグルストンや篠山紀信など巨匠の姿も。
9. 上田義彦の写真と、後藤繁雄によるロバート・メイプルソープについての文で構成。

「海外では、クリエイター自身が版元になり本を作る例が多い。 2010年代は出版社を興す人が増えたが、いまは淘汰される時代。柔軟な発想を持つクリエイターが目を惹く」と、トゥエルブブックスの濱中代表は言う。

たとえば、ルイス・チャップリンとサラ・ピゲイ・エスピノンの若き夫婦が営むルース・ジョインツ。 離脱の影響もあり、昨年、ロンドンからマルセイユに移った。ルイスは大手出版社マックで経験を積んだ気鋭のグラフィックデザイナー。一方、写真家でデザイナーのサラはディレクションを担う。駆け出しの作家のヴィジュアルブックを中心に手がけ、 人種や宗教に関する、社会的メッセージが強いものも。

ヴィジュアルブックは作家と内容あってこそだが、本のデザインをどう消化するかも大事。フレッシュで現代的なセンスは、抜きん出ている」

彼らは今夏、マルセイユにブックショッ プギャラリー、アンサンブルもオープン。 本はリアルなプロダクトのため、場を提供するコミュニケーションが鍵となる。
「外出が減ったいま、インターネットの情報頼みでビッグネームは売れても、アップカミングなものは芽が出づらい。書店で話を聞きながら光るものを見つける。本来、ヴィジュアルブックは一期一会。 ルース・ジョインツのように場を持って発信することは意味がある」

偶然にも同時期にマルセイユに移転したのが、パリを拠点にしていたショーズ・ コミューンだ。ギャラリストのポワンブフ・ 小泉セシルさゆりと、写真家ヴァサンタ・ ヨガナンタンの若い夫婦が営む。パリの家賃高騰もあり、都市にいる必然性を感じなくなったことから移転したという。ココ・キャピタンなど、気鋭のアーティストとの繋がりも深く、コンセプチュアルな本作りを得意とする彼らの動向にも注目したい。

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Chose Commune
コンセプチュアルな企画で多くの話題作を生み出す。
https:// choseco mmune.com
10. 実家で手を振って別れを告げる両親を27年間撮った、ディアナ・ダイクマンの心温まる一冊。
11. ココ・キャピタンが 10年間ノートに綴ってきた手書きの言葉は、自由で感傷的で胸に突き刺さる。
12. オーストリアに移り住み、妻の写真を撮り続けた古屋誠一。出会いから妻の死まで、夫婦が互いを撮影した150枚の写真を2枚1組で見せる。
13. クレモンティーヌ・シュナイダーマンの初作品集は、エルヴィス・プレスリーのファンを通し、音楽の輝く時間を写し取る。
14. 柴田敏雄の未発表写真を収録。背に紐が取り付けられた蛇腹式で、掛け軸のように壁に飾って楽しめる。
15. 色褪せた写真にカラフルな刺繍を施す、イギリス人作家ジュリー・コックバーンの作品集。

Polychronic
ロー・エスリッジがコロナ渦で起ち上げた出版社。
https://the polychro nic.com
16. 昨夏ロッカウェイビーチで撮影。捨てられたビーチパラソルなど、季節性のある物の価値を問う。
17. 『. Beach Umbrella』に付属のステッカー(6点の2枚セット)は単体でも販売。
18. 故郷の荒廃したオレンジ果樹園が舞台。果実の腐敗について考察する。
19. 日常のありふれたものをクローズアップし、無機質なアイコンとして表現する。
20. 家庭と消費主義をテーマに、ロイ・マクマキンの依頼で生まれた写真集。

アメリカの写真家ロー・エスリッジは、 コロナ禍で働き方の意識を変えたひとり。アーティストは良い作品を作っていれば、ギャラリーが売ってくれるという既存の仕組みが揺らいでいると、自身のヴィジュアルブックを作る出版社ポリクロニックを設立。濱中曰く、「有名な写真家ながら、マネジメントから営業までひとりで行う。そのポリクロニックを楽しんでいる姿がいい」。アメリカ人はモノクロニック(一点集中)型だが、さまざまなことに柔軟に対応すべきいま、ポリクロニック(マルチタスク)を目指すというのが社名の由来だという。

こういった海外の状況に対し、日本ではクリエイターが出版社まで興すことは珍しい。だが、オンデマンド印刷機の発達で本作りの選択肢は増えつつある。 富士ゼロックスのイリデッセは、安価で高品質なオンデマンド印刷を実現。1部から印刷でき、在庫を持つ必要もない。 細やかな指示が叶うので、クリエイターがヴィジュアルブックを作るのに最適だ。 ジーピー・プラス・アートビート・パブリッシャーズが手がけるネオトーキョージンは、後藤繁雄の監修で写真家がイリデッセを使うプロジェクト。クオリティの高い印刷で、鈴木親や上田義彦の世界観を鮮やかに映し出す。日本のヴィジュアルブック市場にも、新しい風が吹くかもしれない。

濱中敦史 (twelvebooks)
2010 年、アートフォトブック専門のデ ィストリビューターのトゥエルブブックス を設立。海外出版社の国内総合代理店として、書籍の流通やプロモーショ ン、アーティストの展覧会企画やイベ ントなどを手がける。2020 年、表参道にスクワット/トゥエルブブックスの 店舗を構える。東京アートブックフェ アの運営にも携わっている。
https:// twelve-books.com

 

*「フィガロジャポン」2021年11月号より抜粋

photography: Satoshi Yamaguchi

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