ブックディレクター幅允孝が選ぶ、旅の気分を味わう6冊。

Culture 2022.01.19

ブックディレクターと写真家、活字と写真で世界を“巡る”ふたりが、「旅」をテーマに選んだのは、ページをめくるたびに新たな発見をもたらしてくれる、味わい深い12冊。多彩な生き方を実感できるユニークなコミュニティから時の重なりが育んだ、世界と日本の知られざる民俗の探訪まで、旅の視点はさまざまだ。旅することはもちろん、移動でさえままならないこんな時だからこそ、想像の翼を広げてまだ見ぬ世界を旅してみよう。


選者
幅允孝
Yoshitaka Haba /ブックディレクター、「BACH」代表。人と本の距離を縮めるため、さまざまな場所でライブラリーの制作をしている。安藤忠雄の建築による「こども本の森 中之島」ではクリエイティブ・ディレクションを担当。
近年は本をリソースにした企画・編集の仕事も多く手がける。

book_habayoshitaka-05-211010.jpg

『Amazônia 』
Sebastião Salgado撮影 TASCHEN刊 $150

サルガドが捉えた、圧倒的な神秘と美しさ。
ブラジルの巨匠、セバスチャン・サルガドが、アマゾン川流域の自然とそこに暮らす先住民の生活を捉えた写真集。先住民たちとジャングルで日々を過ごし、ピラニアが棲む川をボートで渡り、先住民たちが守り続けてきた「言葉や写真では伝えきれない」自然の神秘を記録し続けた。地球に残る、自分たちが想像もし得ない世界。その自然や文化をいかに尊重し、守っていくのか。アマゾン川上空に広がる荘厳な空を写した一枚を眺めながら、自問自答を繰り返している。

---fadeinpager---

book_habayoshitaka-04-211010.jpg

『都会の異界 東京23区の島に暮らす』
高橋弘樹著 産業編集センター刊 ¥1,650

ステレオタイプでない営みを、東京で発見。
著者は、ソロモン諸島や硫黄島などを取材してきた映像ディレクター。「東京の島」というと小笠原諸島あたりを想像するが、本書に登場するのは佃島や平和島といった「23区の島」と、そこに暮らすステレオタイプ化しづらい島民だ。ごく身近にも島があり、そこには個々のユニークな営みがあり、その何でもない出会いや時間を噛み締める著者の姿勢に共感する。近年、新しさや多様性が失われていると感じる東京で、自発的にそれを見つけるという気概に好感。

---fadeinpager---

book_habayoshitaka-01-211010.jpg

『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』
小川さやか著 春秋社刊 ¥2,200

タンザニア人ビジネスマンたちの痛快な生きざま。
文化人類学者の著者が本書で描くのは、香港に暮らすタンザニア人ビジネスマンたちの人間模様。現代的なテクノロジーとSNSを駆使したビジネスモデルと、彼らのゆるい暮らしぶりや人生観の対比がおもしろい。“勝手に助かっていく”開かれたコミュニティが痛快でもある。外界とリアルに接触する機会が失われつつあるこの時代に、もつれたものをほどこうともせず作用させていくたくましさを教えられると同時に、未来のコミュニティの可能性を実感する。

---fadeinpager---

book_habayoshitaka-06-211010.jpg

『THE LIBRARY OF TRINITY COLLEGE DUBLIN 』
Thames & Hudson刊 £12.95

「世界一美しい本」を擁する、ダブリンの図書館へ。
アイルランド最古の大学、トリニティカレッジ。この写真集の舞台は、「世界一美しい本」と謳われる装飾写本『ブック・オブ・ケルズ』を収蔵・展示する、大学併設の図書館だ。8世紀に作られた福音書の豪華な装飾はさることながら、映画『スター・ウォーズ』のジェダイ・アーカイブのモデルになったという建物内部も見もので、初めて訪れた際は壮大な空間や精緻なディテールに度肝を抜かれた。しかも、いまでも図書館として機能している点がいい。

---fadeinpager---

book_habayoshitaka-02-211010.jpg

『静寂とは』
アーリング・カッゲ著 田村義進訳 辰巳出版刊 ¥1,650

環境音、SNS……ノイズにあふれた現代に。
著者は、世界で初めて三極点(南極点、北極点、エベレスト山頂)到達を果たしたノルウェーの冒険家。極限の地の単独行で感じた、圧倒的な静けさはどこからくるのか、静寂は自分にどう作用するのか、なぜいま、それが大切なのか。本書では、自分の中にある静寂と向き合う術を多彩な事例で紐解く。2019年にダブリンで著者とともにフィールドワークに出かけ、本書の「静寂」のプロセスをフィジカルに体験した。そんな実体験からひときわ思い入れがある。

---fadeinpager---

book_habayoshitaka-03-211010.jpg

『小林秀雄 美と出会う旅』
白洲信哉編 新潮社刊 ¥1,540

本質ってなんだ、そんな視点を授けてくれる。
批評家・小林秀雄が、自身を突き動かす「美」の本質をいかにして見いだしたのか、その道程を辿るのが本書だ。 ヨーロッパ各国の美術館から日本の骨董を巡るまでの様子が描かれる。おもしろいのは、ゴッホの『烏のいる麦畑』の複製画に感動したくだり。オランダに本物を見に行った小林は、そのあまりの生々しさに、「僕は複製画でいい」と結論づける。複製か本物か、そこに宿る本質をどう見極め、どう考えるのか。旅にも必要な視点を授けてくれた一冊。

●1ドル=約110円、1ユーロ=約130円、1ポンド=約152円(2021年9月現在)

*「フィガロジャポン」2021年11月号より抜粋

illustration: Miso Okada editing: Ryoko Kuraishi

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

Business with Attitude
Figaromarche
あの人のウォッチ&ジュエリーの物語
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories