『フレンチ・ディスパッチ』序章、ウェスが造った架空の街を案内。

Culture 2022.01.24

ファンタジックな物語と色彩あふれる映像で観客をときめかせる映画作家ウェス・アンダーソン。最新作は、雑誌「フレンチ・ディスパッチ」に掲載された記事の裏話を4編のオムニバスにまとめるという映画×雑誌の夢のコラボ! 序章「自転車リポーター」は、ウェス・アンダーソン作品の常連キャスト、オーウェン・ウィルソンが、フレンチ・ディスパッチ誌編集部のある架空の街、アンニュイ=シュール=ブラゼを案内する内容。映画ができる場所と、盟友俳優との関係に迫ります。


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『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン』名物編集長アーサー・ハウイッツァー・Jrが急逝し、追悼別冊が編まれる。その序章を飾るのは、自転車レポーター、エルブサン・サゼラックによるアンニュイ=シュール=ブラゼの街案内だ。丘陵にある古い街にはいにしえの大聖堂や古びた階段、交差する陸橋があり、ブラゼ河が流れる。石畳の曲がりくねった隘路を赤い自転車で走るサゼラックの姿に、『ぼくの伯父さん』のムッシュ・ユロを見る人もいれば、風を切る爽快感にフランソワ・トリュフォーの『あこがれ』を思い出す人もいるだろう。彼は、職人の街だった名残が色濃いレンガ職人街、肉屋通り、スリの袋小路(スリって職業!?)の過去と未来を分割画面で表現し、街の変化や歴史を紹介してゆく。さらに「訪れた街の最も物騒な顔に惹かれる」彼は、歓楽街や闇社会、夕暮れ時に売春婦や男娼が立つ界隈にも分け行り、人の営みあるところ、光あれば影もあると語る。
「ニューヨーカー」の記者ジョゼフ・ミッチェルらをモデルにしたベレー帽のレポーターを演じるのはオーウェン・ウィルソン。ウェス・アンダーソンの学生時代のルームメイトで、ウェスの監督デビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』で共同脚本と主演を務めて以降、ほとんどのウェス作品に出演してきた盟友だ。

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そしてこの序章の、もうひとりの主人公とも言えるのが、アンニュイ=シュール=ブラゼという架空の街。ヌーヴェルヴァーグがカメラを街角に持ち出す以前、マルセル・カルネやルネ・クレールらがスタジオにパリの街をそっくり再現したように、ウェスもまた、シャラント県アングレームの街外れの工場に『赤い風船』や『ぼくの伯父さん』さながらの街並みを造り込んだ。リアルなフランスとはちょっと違う、異邦人の憧れとノスタルジーが詰まった街並みが、序章に浮き立つ興奮を呼び込んでみせる。

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序章でもある「自転車レポーター」の巻(記事)では、「フレンチ・ディスパッチ」編集部がある街をあらためて考察し、街の魅力を掘り下げる内容。キオスクや薬局のある日常感あふれる街だが、編集部内のインテリアも記者たちの風情もレトロで素敵なウェスの世界観だ。

 

『フレンチ・ディスパッチ
 ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』

●監督・脚本/ウェス・アンダーソン
●2021年、アメリカ映画
●108分
●配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
●1月28日より、TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ新宿、ホワイトシネクイント/シネクイントほか、全国にて公開
https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html

●執筆:久保玲子/映画評論家。映画館、映画配給会社勤務を経て、映画ライターに。1997年にフランスに滞在し、パリにて異邦人暮らしを体験する。

*「フィガロジャポン」2022年3月号より抜粋

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