ティモシー・シャラメ出演『フレンチ・ディスパッチ』第2章! 若者はいつの時代も美しい。

Culture 2022.01.26

ファンタジックな物語と色彩あふれる映像で観客をときめかせる映画作家ウェス・アンダーソン。最新作は、雑誌「フレンチ・ディスパッチ」に掲載された記事の裏話を4編のオムニバスにまとめるという映画×雑誌の夢のコラボ! 第2章はいまをときめく映画界の王子さまことティモシー・シャラメと、人気急上昇のフランス女優リナ・クードリが競演。パリの五月革命をモチーフにした学生運動に身を投じる役を演じたふたりのインタビューと、カンヌでの大人気ぶり&ファッション性について注目します。


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Timothée Chalamet
(ティモシー・シャラメ)

1995年12月27日、ニューヨーク生まれ。『君の名前で僕を呼んで』(2017年)でアカデミー賞主演男優賞ノミネート。『インターステラー』(14年)、『ビューティフル・ボーイ』(18年)などにも出演。

Lyna Khoudri
(リナ・クードリ)

1992年10月3日、アルジェリアのアルジェ生まれ。『Les Bienheureux』(2017年)でヴェネツィア国際映画祭女優賞受賞。新作は「三銃士」の映画化でコンスタンス・ボナシューを演じる予定。

ティモシーとリナにインタビュー!

2019年、セザール賞有望若手女優賞を受賞した新進実力派女優リナ・クードリは、ハリウッドから世界中を魅了するティモシー・シャラメの到着を待っていた。21年7月12日、カンヌ国際映画祭中に、JWマリオットのホテルのインタビュールームで、ふたりはアメリカ流のハグを交わす。意外にもエージェントや広報担当者が同席することなく、インタビューはフランス語で行われた。ティモシーは子どもの頃から父親の実家のあるオート=ロワール県のル・シャンボン=シュル=リニョンでヴァカンスを過ごしていて、流暢なフランス語を話すのだ。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の超大作『DUNE/デューン 砂の惑星』が公開され、ルカ・グァダニーノ監督作『君の名前で僕を呼んで』以来、彼は「同世代から選ばれし者」あるいは「アメリカで最もセクシーな映画スター」と呼ばれている。一方、リナ・クードリも最近は社会問題を扱った映画を中心に、難役に挑戦してきた。いまの若者に特有のエネルギーと聡明さ、茶目っ気たっぷりな陽気さも併せ持ちながら、時代に沿って彼らの世代特有の社会運動にも積極的に携わる21世紀の申し子たち。エコロジストで、フェミニストで、コスモポリタン。『フレンチ・ディスパッチ』でそれぞれが演じる役柄に通じるところもある。

── 本作のどこに惹かれましたか?

リナ・クードリ(以下LK):ウェス・アンダーソンは現代の最も偉大な映画監督のひとり。彼の美学や世界観は独特で、断るなんて考えられなかった。彼は大のシネフィルでもあります。この映画ではトリュフォーの『大人は判ってくれない』やジャック・リヴェットの『北の橋』がインスピレーション源になったそうです。ジャック・リヴェットはそのおかげで初めて知りました。撮影の雰囲気も広大な合宿所のように刺激的で楽しかった。世界観を創り出す天才よ。

ティモシー・シャラメ(以下TC):ウェス・アンダーソンの撮影現場が一風変わっているというのは聞いていました。彼は魔法の力を持っていると。今回、撮影が行われたアングレームで実感しました。スタッフも俳優も同じホテルに滞在して、毎晩みんなで一緒に夕食を食べるんです。リナや僕のような若い俳優にとって、こんなにクリエイティブな家族の一員として、ビル・マーレイやティルダ・スウィントンやフランシス・マクドーマンドといった大先輩と一緒に仕事するなんて信じられないほどラッキーです。みんなとてもリラックスしていて、家族連れの人もいました。ウェスの要求の厳しさも好きでしたね。自分の中にあるアイデアを正確に再現するために、ひとつのシーンを40回やり直させることさえある。でも、とてもおもしろかった。

── ふたりとも活動家の役を演じています。実生活ではどうですか?

LK:当然だと感じられる社会運動なら、行動に迷いはありません。たとえば21年のいま、環境問題は避けられない。ただ、政治については公に自分の立場を表明して、候補者を支持するのは抵抗があります。自分らしくない気がして。

TC:自分が俳優だからではなく、絶対に必要なことだから行うんです。僕たちの世代は経済的にも政治的にも、そしてエコロジーの点でも分断された世界を引き継いでいます。だから結束しなくてはならない。人種、環境、経済、あらゆる分野の正義のために闘わなければいけないと思います。

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── 最もインスピレーションを与えられる現代の活動家といえば?

LK:マリオン・コティヤールが共同プロデュースしたフロール・ヴァスール監督のドキュメンタリー『Bigger Than Us』に登場する活動家たちに感銘を受けました。

TC:バイデン大統領就任式で、マイク・ペンスやミッチ・マコーネルといった邪悪な政治家たちの前で素晴らしい詩を朗読したアマンダ・ゴーマンのパワー。彼女はいま最も発言力がある若者のひとりです。ほかにも、僕より若い無名の活動家がたくさんいて、自分が信じるもののために、世界を変えるために、日の当たらない場所で日々奮闘しています。

00-1220126-frenchdispatch-chapter2.jpgアンニュイ=シュール=ブラゼで大規模な学生運動が勃発。グループのリーダー、ゼフィレッリ・B 役にティモシー・シャラメ、彼と恋に落ちる運動の会計係ジュリエット役にリナ・クードリ。若者たちの運動はいつもビタースイートで青く、切ないラストが待ち受けているのだった……。

── 自分たちの世代で最も評価できることといえば?

LK:『フレンチ・ディスパッチ』の撮影中に、アパルトマンを探していたわよね、ティモシー? どこに住みたいかと訊いたら、彼はこう答えたんです。「こだわっていない。いまはひとつの国ではなくて世界全体が僕たちの場所だから」って。この言葉に考えさせられました。彼の言うとおり、私たちの間にもう境界はない。みんな繋がっているんです。

TC:僕はミレニアル世代とZ世代のちょうど間の1995年12月27日生まれ。ジェンダーの普遍性にも関心を持っていますし、リナが言うように、いまはみんなが繋がっていると思う。ウェスの映画の後、撮影でブダペストに行きました。そこでも、若い世代がニューヨークやパリの若者たちといかに同じことを求めているかを見て衝撃を受けました。

── あまり評価できない部分は?

LK:世代というより、むしろ私たちが生きている時代についていえば間違いが決して許されないところです。ライトを浴びた瞬間から、すべて完璧でなければならない。私は不器用なので、それが怖い。意見が変わることもあればインタビューで変な発言をしてしまうこともある。レッドカーペットでも同じです。場違いなドレスを選んでしまったら、みんなから一斉に叩かれる。何でもないことでも、すぐに俳優を批判する傾向があるのではないかしら……。

TC:この質問には、もう少し自分の世代を客観視できるようになってから答えたいです……。

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── 同世代の俳優についてはどう感じますか?

LK:インスピレーションをくれる人はたくさんいます。たとえばグレタ・ガーウィグ監督の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』でティモシーが共演したシアーシャ・ローナン、フローレンス・ピュー、エマ・ワトソン。

TC:3人とも素晴らしい女優です。それから、ジョージ・マッケイ、ヨルゴス・ランティモス監督の『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』で注目されたバリー・コーガン、ルカ・グァダニーノ監督のホラー映画『Bones & All』で共演したばかりのテイラー・ラッセル。『EMMA エマ』『クイーンズ・ギャンビット』のアニャ・テイラー=ジョイも最高でした。僕たちの世代は頑張り屋だと思う。役をもらったら、みんな役作りに徹底的に打ち込むから。

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── リナはセザール賞を受賞しました。ティモシーはアカデミー賞にノミネートされました。あなたたちの年齢でこういう評価を得ることは、ステップアップの足がかり? それとも迷惑な贈りもの?

LK:素晴らしい贈りものです! 19年にセザール賞有望若手女優賞をいただいて出会いに恵まれ、役を選べるようになりました。俳優としてキャリアをスタートした頃は誰しも仕事を続けるためにどんなことでもするつもりでいます。つまらないプロジェクトを引き受けることになっても仕方がない、と。ノンと言えるのは特権。もちろん、決して間違いを犯さない、この先ずっといい映画にしか出ないわけではありませんが、少なくとも自分の選択に責任を持てます。

TC:『君の名前で僕を呼んで』でアカデミー賞にノミネートされたことはキャリアの大きな後押しになりました。デビュー当時は小さな舞台に出演していて、夢はショウタイムやHBOといったアメリカのテレビ局のドラマに出ることでした。それが僕の世代の若い俳優が目指す目標だと思っていた。アカデミー賞のノミネートはプレッシャー。でも、いまとなっては楽しい思い出です。授賞式に一緒に出席していたシアーシャは4回目のノミネートだったんですよ!

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── 今後、アメリカとフランスで映画の仕事をしたいとお考えですか?

LK:ハリウッドには素晴らしい監督がたくさんいますから、アメリカで仕事ができたら素敵だと思います。自分自身を乗り越え、快適ゾーンから抜け出すために努力する必要があるでしょうが、アメリカはそれらすべてを象徴する場所だと思う。

TC:フランス語の映画に出てみたいです! マティ・ディオプ監督(『アトランティックス』)や、ジャック・オディアール監督、フランソワ・オゾン監督の映画が大好きです。グザヴィエ・ドランのようなケベックの映画監督とも仕事をしてみたい。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『デューン』に出演しましたが、彼ともまた一緒に仕事をしたい。フランス語で役を演じることは挑戦でもある。パリに住んでいる姉のポーリーヌに比べたら、僕はフランス語があまりうまくないんです。姉も女優で、最近ロサンゼルスでドラマの撮影に参加したばかり。姉を誇りに思っています。

── 自分を成長させてくれるのはどのような役柄ですか?

LK:私はいま夢を実現しているところ。ムニア・メドゥール監督の次回作でバレエダンサーを演じます。ナタリー・ポートマンの『ブラック・スワン』の大ファンなので、うれしくて舞い上がっています! 稽古はとても大変ですが。

TC:僕は役柄より、新しい気持ち、恐れを感じるような何かを求めています。でも、成り行きに任せるようにしています。特定の役柄を求めると、絶対にその役は回ってこないから。とりあえず、ロンドンでまた舞台に立ちます。エイミー・ハーツォークの悲喜劇『4000 Miles』。この作品はパンデミックの前に上演予定だったので、演じるのが待ち遠しい。なんといっても舞台は僕の初恋ですから! ロンドンではポール・キング監督の『ウォンカ』の撮影にも参加しています。ティム・バートン監督による、あの『チャーリーとチョコレート工場』の前日譚ですが、ミュージカル映画なので歌とタップダンスにも取り組んでいます。リナも僕も、踊りながら夢を叶えているわけですね!

●執筆:Marion Géliot / Madame Figaro 本国版にて文化欄やエンターテインメント欄などのインタビューを手がけるジャーナリスト。特に映画やドラマに関する記事が得意。

ファッションアイコンとしても注目すべき存在。

コロナ禍により2年ぶりの開催となった21年7月のカンヌ国際映画祭。中止になった前年のオープニングを飾る予定だったウェス・アンダーソン監督の『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』もコンペティション部門でワールドプレミアされ、カンヌ名物である階段を利用した長いレッドカーペットに監督と豪華俳優陣が登場した。なかでもひと際大きな歓声を浴びていたのが、ティモシー・シャラメとリナ・クードリのふたりの若手俳優だ。

star-01-1220126-frenchdispatch-chapter2.jpgプレミア上映の際にウェス・アンダーソン監督と3人で。リナはシャネルの20年プレタポルテのノースリーブトップ&ショートパンツ。ティミーはピンクTとタイトな黒ボトムスで。
©Paul Smith/Alamy/amanaimages

架空の雑誌のストーリーをオムニバス形式で映画化した『フレンチ・ディスパッチ』の第2章で恋に落ちる学生運動家を演じたふたりだが、知的で意志の強い映画の中のキャラクターと同様に、若手スターとはいえ、地に足が着いた印象を受ける。フランス人の父とアメリカ人の母の元、ニューヨークで育った26歳のティモシー、アルジェリア出身でフランス育ちの29歳のリナは、ダイバーシティ時代の感覚を生まれながらに持っている点でも共通点があるのかもしれない。

プレミア上映に先駆けて行われたインタビューには、ふたり揃って出席。ふたりとも英語、フランス語を話すが、英語が第三の言語であるリナが言葉に詰まると、ティモシーが流暢なフランス語で助け舟を出すなど、長年の友人同士のように和気あいあいとした姿が印象的だった。「もう会って3年くらいになるから」とティモシーは微笑む。「リナとの共演は、とてもうまくいったと思うよ。僕はフランス語を喋り、リナは英語を喋るけれど、ふたりとも“完璧”というわけじゃない。そういう言葉のバリアを超えたチャレンジという点でも、おもしろかったんだ」

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本作ではなく『DUNE』のプレミア時。作品の方向性に合わせてスペイシーな装い。
© Capital Pictures/amanaimages

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こちらもシャネル。マイクロミニバッグのアクセサリー的な使い方もおしゃれ。
© Jacques BENAROCH/SIPA/amanaimages

パンデミックのため公開が遅れに遅れたが、撮影自体は3年前なのだ。その間、映画界でのふたりの株は上がり続けた。ティモシーは、イタリアのルカ・グァダニーノ監督による『君の名前で僕を呼んで』で大ブレイク後、ドゥニ・ヴィルヌーヴのSF大作『DUNE/デューン 砂の惑星』では主役に大抜擢された。リナは、『パピチャ 未来へのランウェイ』で注目を浴び、今後も『GAGARINE/ガガーリン』、『オートクチュール』と主演作が次々に日本公開される予定だ。

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ボリューム感のあるホワイトドレスに黒いボレロ姿で。© ZUMA PRESS/amanaimages

ファッションに対して一家言あるふたりは、レッドカーペット上でも存在感を示した。ティモシーはスタイリストをつけないことでも知られているが、この日も、トム フォードのキラキラ煌めくスレンダーなスーツという彼しか着こなせないような衣装で、一際目を引いた。『オートクチュール』でディオールのメゾンのお針子役を演じた経験もあるリナは、シャネルのドレスを着こなし、ファッショニスタとしての潜在能力をアピールした。ビル・マーレイやティルダ・スウィントンなど大物スター俳優たちとハグしたり談笑したりと、物怖じしない姿まで頼もしいかぎりだった。フランスを拠点に活躍するリナはともかく、どこか文学青年的な知的な雰囲気が従来のハリウッドスターとは一線を画すティモシーに対するカンヌの歓声は凄まじく、その圧倒的な人気ぶりに驚かされた。

 

クロージングセレモニーでシャネル21年春夏オートクチュールのドレス。刺繍でストライプを描いている。

 

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リナはシャネル、ティミーはトム フォード。ふたり、色合いばっちり!
© ZUMA PRESS/amanaimages

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『フレンチ~』の醸すレトロなムードとも相性がいいシャネルのルック。バナルな着こなしも見事。

●執筆:立田敦子/映画評論家。フィガロジャポンをはじめ、多数のメディアで評論やインタビューを執筆。カンヌ国際映画祭には24年通い続ける。著書に『おしゃれ人生も映画から』他。エンターテインメントメディアFan's Voice 主宰。
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フランシス・マクドーマンド演じる記者ルシンダ・クレメンツと、ティモシー演じるゼフィレッリの恋愛関係も見どころ。骨太で知的な年上の女と、若き活動家のロマンスはおいしい。

 

『フレンチ・ディスパッチ
 ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』

●監督・脚本/ウェス・アンダーソン
●2021年、アメリカ映画
●108分
●配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
●1月28日より、TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ新宿、ホワイトシネクイント/シネクイントほか、全国にて公開
https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html

*「フィガロジャポン」2022年3月号より抜粋

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