「虚飾を生きる私たちの深いところに突き刺さる」小林エリカが激賞した映画『エル プラネタ』とは。

Culture 2022.02.04

虚飾を生きる私たちの、胸の奥に突き刺さる。

『エル プラネタ』

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スペインの海辺町、きらびやかに安らいだ娘と母の一挙一動が描かれる。目前に奈落が迫っているのに。虚像と実像の垣根を自在に跳ね飛ぶ日常感覚が涼やか! ©2020 El Planeta LLC All rights reserved

アーティストでもあるアマリア・ウルマンが自身の生まれ故郷の街でもあるスペインのヒホンを舞台に、実の母親を母親役に据え、人生の崖っぷちに立つ母娘を描く本作品。インスタグラムで如何にも典型的な振る舞いを装ってみせたアートパフォーマンス『Excellences& Perfections』にも通底するが、彼女の作品はフィクションと現実の境界線を限りなく曖昧にしながら、徹底的にスタイリッシュかつ批評的だ。

映画では、ロンドン帰りの主人公レオと、シングルマザーの母親はアパートを失いかけていわゆる貧困状態にあるのだが、お洒落なドレスを身に纏い、虚飾で日々を乗り切ろうと足掻く。その様はどこかスラップスティックのようにも見えるが、切実さと妙なリアリティに胸が締め付けられる。

実際、家を失ったこともあったという彼女は「苦難に遭っている人々に同情するのではなく、共感することが大切」とインタビューで語っている。

かつて日本では、貧困を扱ったドキュメンタリーテレビ番組で、少女が値段のそこそこ高いランチを食べていたとかなんとかで「貧困」ではないと炎上したことがあったが、彼女が描くこの映画は痛快にもそんな現実を根底から覆してくれる。

彼女は、目には見えない貧困や苦難を、メロドラマや他人事にすることなく挑戦的に描ききり、社会構造や皮肉な現実をユーモアをもってあらわにしてみせる。それは、社会の中で多かれ少なかれ虚飾を生きる私たちの深いところに突き刺さる。

FINに続いて挟まれるカラーのニュース映像に最後まで目を見開きながら、私は彼女のスマートさに完全に感服した。彼女天才。

文:小林エリカ/作家、マンガ家
著書はマンガ『光の子ども』(リトルモア刊)など多数。近刊は『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社刊)。弘前れんが倉庫美術館のグループ展『りんご前線-Hirosaki Encounters』にも参加し、2022年1月にはパフォーマンスも。
『エル プラネタ』
監督・脚本・プロデュース・衣装デザイン・出演/アマリア・ウルマン 出演/アレ・ウルマン、チェン・ジョウ 
2021年、アメリカ・スペイン映画 82分 
配給/シンカ 
2022年1月14日より、渋谷WHITE CINE QUINTO、新宿シネマカリテほか全国順次公開
https://synca.jp/elplaneta

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

 

*「フィガロジャポン」2022年2月号より抜粋

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