でしゃばり、嘘つき、贅沢好き......ボリス・ジョンソンの妻が「キャリー・アントワネット」と揶揄される理由とは?

Culture 2022.02.24

2022年3月29日発売予定の辛辣な伝記本で、英国首相の妻から夫への影響力が痛烈に批判されている。本の内容をちょっと覗いてみよう。

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キャリー・ジョンソン(ロンドン、2019年11月10日)photo: Getty Images

「嘘ばかりが書かれている」と2022年2月13日、「タイムズ」紙のコラムでキャリー・ジョンソンは、広報官を通じて反論した。英国のファーストレディの憤りは彼女を酷評した伝記本『First Lady Intrigue – At the Court of Carry and Boris Johnson(ファーストレディの陰謀-キャリーとボリス・ジョンソンの宮廷で)』(3月29日刊行予定)に向けられている。著者は実業家のマイケル・アシュクロフトだ。

保守党の大口献金者でもあるマイケル・アシュクロフトはこれまでに数々の著作を上梓しており、デービッド・キャメロン元英首相の伝記『Call Me Dave(デイブと呼んでくれ)』もそのひとつだ。新著のターゲットはイギリスのファーストレディ。嫉妬深くて陰謀好き、コネ重視の強欲な女、などとなんとも不名誉な人物像に描かれている。2022年2月5日から「メール・オン・サンデー」に抜粋連載されているが、そのなかで著者はキャリーを非難しまくり、夫に「悪影響」を与えるばかりか、最近、ジョンソン首相が見舞われている一連のスキャンダルも裏で糸をひいている、首相が行ったいくつかの政治的な意思決定に関与することさえあったと書き立てている。裏で政治を操る手強い女性のイメージに拍車をかける内容だ。

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なりすまし

本の中で著者はキャリーが自分の立場を利用し、夫ボリス・ジョンソンが率いる保守党の戦略に口出したと繰り返し糾弾し、シェイクスピアのマクベス夫人になぞらえている。とりわけ2019年の党首選においてひどかったそうだ。キャリーは夫の電話を使い、夫になりすまして部下に指示を出したと書かれている。

著者によると、何人かのアシスタントは彼女を排除しようと試みたという。たとえば、タクシーの運転手に頼んで遠回りしてもらい、イベントに間に合わなくなるといった小細工をしたようだ。この新著でキャリーは強欲で人を操るような人物に描かれており、いびつな夫婦関係や、26歳年上の夫に33歳の妻が及ぼす心理的な支配が示唆される。ボリス・ジョンソン首相が何人かの従業員にこうこぼしたという話も紹介されていた。「家に帰ってから責め立てられるようなことはしないでくれよ。悲惨な家庭生活なんだから」

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嫉妬と人事への口出し

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2020年6月9日の英連邦記念日にウェストミンスター寺院で行われたミサでのキャリーとボリス・ジョンソン。photo: Getty Images

また、キャリー・ジョンソン(旧姓サイモンズ)の独占欲や嫉妬深さも指摘されている。ボリス・ジョンソン首相との間に子どもが2人、ウィルフレッド(1歳)とロミー(2ヶ月)がいるが、キャリーは夫を周囲の人間から孤立させようとしている。まずは前妻マリナ・ウィーラーとの間に生まれた4人の子供たちとの関係を断ち切り、次いで彼の友人や、忠実な部下でさえも遠ざける。

人事にもキャリーが裏で関わっていたと著者は非難する。中でも、保守党元特別顧問のエリー・ライオンズは、「魅力的で賢すぎる」という理由で遠ざけられた。本の情報源によれば「当時の保守党のリーダー候補は『キャリーに利用されて汚い仕事をさせられ』、ライオンズ氏の政治的キャリアは突然断ち切られた」と「デイリー・メール」紙の記事にある。

2020年には保守党の元広報責任者のリー・クレイン、そしてその参謀のドミニク・カミングスも同じ運命を辿ることになる。ドミニク・カミングスから「Princess Nut Nut(頭のおかしいお姫様)」のあだ名をつけられたキャリー・ジョンソンは、どんなに有能な人物であっても自分を中傷する人物は追い払うべく、陰で動いた。たとえそれが2019年にボリス・ジョンソンに勝利をもたらした立役者であっても。いっぽう、「ガーディアン」紙は昨年4月、「首相官邸の重要ポストはすべて(キャリー・)シモンズと親しい人たちで占められている」と書き、首相の副主席補佐官のシモン・フィン、特別顧問であるヘンリー・ニューマンの名前を挙げた。

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贅沢好き

キャリーのあだ名は多々あるが、最近登場したのが「キャリー・アントワネット」で、彼女の顕著な贅沢趣味を指している。マイケル・アシュクロフトは本の中でこの2年間、イギリス首相の評判を落としてきた夫妻の豪勢な生活を巡るスキャンダルをもちろん取り上げている。。たとえば、首相官邸の夫妻の居室改装にかかった莫大な費用に関する「ウォールペーパーゲート事件」がある。改装費用は112,549英ポンドに達し、政党の資金から支払ったのではないかと言われた。この改装は、その豪華さだけでなく、ロックダウン中の工事だったことも論議を呼んだ。

 

 

そして「パーティーゲイト」疑惑。2020年から2021年にかけてのロックダウン期間中に首相官邸でパーティーが何度も開かれていた問題で、昨年12月に発覚するとイギリス国民の怒りは爆発、首相の辞任を求める騒ぎに発展した。現在、ボリス・ジョンソン首相は内部調査報告書の一部も公表されて、追い込まれた状況だ。追い込まれているのは首相だけではない。彼の影には常に妻キャリーの姿がある。キャリー自身は、2020年6月19日に夫の誕生日パーティーを企画した疑いが持たれている。若い妻がいることがパーティー開催の遠因となったのだろうか。少なくとも、この本の情報源の一人はそう考えている。「優れた首相になれたはずが、自律心の欠如からキャリーと関わることになり、大きな犠牲を払ってしまった。この国を変える力を潜在的に持っていた彼がダメになったのは私が思うに、彼女のせいだ」

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動物愛護の代償は?

キャリー・ジョンソンは、もうひとつのスキャンダルにも夫を巻き込み、その際に重要な役割を果たしたようだ。2021年8月にアフガニスタンでタリバンが権力を掌握した時、英首相は国外脱出を図る現地の人々の生存よりも犬猫を中心とした動物の救助を優先したと言われている。実際、首相は妻の友人で元英国海軍のポール・"ペン"・ファージングが運営するNowzad協会の保護する動物の避難を自ら許可した。キャリー・ジョンソンは動物愛護運動に強い関心があり、2018年に保守党の広報部長を退任後、動物保護を行うアスピナル財団にも関わっている。

 

 

こうした非難の声に対してキャリー・ジョンソンと親しい情報筋は、「未練がましい元政府関係者」による「性差別的で女性蔑視に満ちた」攻撃だと憤慨している。「キャリー・ジョンソンを糾弾するのは品位に欠ける不当なことだし、間違っている。政府内で公式な役職に一切ついていないのだから」と、イギリスの保健・社会介護大臣のサジド・ジャヴィドはニュース専門局、スカイ・ニュースのインタビューに答えている。

ボリス・ジョンソン首相は「インデペンデント」紙が報じるように出版前でも著者を訴えると脅している。著者と出版元の「Biteback Publishing」はそれを聞いて大喜びだ。「売り上げアップに最大の後押しをしてもらえた」と予想外の宣伝効果に皮肉たっぷりのコメントを寄せた。

text: Léa Mabilon (madame.lefigaro.fr)

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