ハリー王子、「意味深な」メッセージTシャツで登場。
Culture 2022.05.16
何気ないメッセージTシャツだが、そこからさまざまなことが読み取れる。単純なメッセージのなかに、時にはひとつの社会現象まで隠されているのだ。
ハリー王子が「Girl Dad(娘の父)」のメッセージTシャツを着てトラベリストのプロモーションビデオに登場。(2022年5月9日)
5月9日、ハリー王子は、あるYouTube動画に登場した。動画で着ていたTシャツには、グレー地にグレーの文字で「Girl dad(娘のパパ)」と書かれていた。メーガン夫人との間に2021年6月4日、娘のリリベットが誕生していることもあって、好感の持てると評判も良かった。もっともこのTシャツをハリー王子はたまたま着ていたのではない。この動画は「Travalyst(トラベリスト)」という旅行業界におけるサステナビリティの実現を推進する団体のプロモーションビデオで、ハリー王子も同団体を支援している。一見無邪気なTシャツには、次世代へバトンをつなぐ強い思いがこめられていた。しかしさらに掘り下げればもっと色々なことが見えてくる。
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フェミニストのメッセージ
そもそも「Girl dad(娘のパパ)」という表現が注目されたのは、2020年1月に起きたアメリカのバスケットボールのスター選手、コービー・ブライアントと娘ジアンナの事故死がきっかけだった。ハッシュタグの形で、娘を思いやる愛情深い父親としてのコービー・ブライアントへの賛辞として使われた。やがて、娘との写真をSNSに投稿し、「#girldad」をつける父親が続出した。それはある種のフェミニズム的な主張であり、ハリー王子も家族を守るために王室を離脱したという点で同じようなスタンスだ。もちろんハリー王子の立場は極めて特殊だが、その思いは広く共有できるものだ。
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人生を選びとる
メッセージTシャツはこの10年でまさに「識別因子」となり、例えば子供を持っていることをアピールする手段の一つとなった。「クールなママ」、「二人のママ」「過保護パパ」などのメッセージがついたTシャツはSNSでもよく見かけるし、若い親世代の間ではすっかり定着している。アデル・ブニーヌはフランスのファミリーブランド「émoi émoi(エモワエモワ)」の共同ファウンダーだ。同ブランドは2014年にこうしたメッセージTシャツをいち早く打ちだしている。アデルは、「昔のように、親になるのが当然ということはなくなりました。どんな家庭を作りたいのか、自分が選びとった意志を表明したいという思いが存在します」と言う。要は自分の価値観をはっきり示したいということだろう。そして、この傾向は一向に衰える気配がない。
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父親であること
「émoi émoi(エモワエモワ)」ではパパやママ向けの服の売り上げが伸びている。特に好調なのがメンズものだ。「昔は、父親であることが男性のアイデンティティの一部であるとは、あまり意識されていませんでした」とアデル・ブニーヌは言う。こうしたジェネレーションギャップは、ハリー王子の父親批判に通じるものがある。「あなたが苦しんだからといって、あなたの子供も苦しむ必要はない 」と、ハリー王子は2021年に制作されたメンタルヘルスに関するドキュメンタリーシリーズ、『あなたに見えない、私のこと』に出演した際、語っている。アデル・ブニーヌは、家族の概念が劇的な変化を遂げた結果、多様な形の家族の絆や愛情を讃えるアイテムとしてこうしたTシャツが誕生した、と解釈している。しかしながらこの流行を批判的に見る人もいる。
こうした風潮は親になることへの先入観をもたらし、子供を産まなくてはならない気持ちを強要するものだと考える人もいる。カナダの「トゥデイズ・ペアレント」誌の論説記事で、作家のケリー・クレアは#girldadムーブメントに異を唱え、「身近に女性がいるという理由だけで、一部の男性を好意的に見る風潮」と切り捨てる。いずれにせよ、メッセージTシャツを着ていても父親かどうかはわからないが、このビデオに出ているのが王子であることは確かだ。
text: Mitia Bernetel (madame.lefigaro.fr)