マダムフィガロ誌エディターが辛口トーク! パリジェンヌ視点で。「エミリー、パリへ行く」はここに注目!

Culture 2022.05.18

シカゴからやって来たエミリーがパリを舞台に奮闘するNetflixオリジナルドラマ「エミリー、パリへ行く」。シーズン2も配信中の大人気ドラマには、フランス版マダムフィガロ誌のジャーナリストも登場。ビビッドなファッションから、あの人物のモデルはあの人!? なんて噂話まで、マダムフィガロエディター3人がぶっちゃけトーク!

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左:ファッションウィークを網羅し、連載「une série, un style」も持つチーフモードジャーナリストのマリオン・デュピュイ。中央:映画やドラマの記事やセレブのインタビューを多数手がける、ピープル、モード担当のマリオン・ジェリオ。右:ウェブサイトでピープルとファッションを担当し、Netflixドラマ関連の記事を多数執筆するクロエ・フリードマン。

ゴミひとつ落ちていない美しいパリの街。広々としたエミリーの「メイド部屋」、南仏に向かう夜行列車はオリエントエクスプレス並みの内装……Netflixオリジナルドラマ「エミリー、パリへ行く」は、ステレオタイプや偏見、虚構だらけ! と、配信開始してすぐフランス人の間で話題になった。フランス版マダムフィガロ誌でカルチャーやファッションを担当するパリジェンヌエディター3人が、ドラマについて率直に語ってくれた。


クロエ・フリードマン(以下CF) 最初は仕事のために見始めたの。ファッションが話題になりそうだったし、炎上するネタが出てきそうな予感もあったから。配信が始まったらこのドラマをネタにした投稿がどんどんアップされて、ウェブでさっそく記事にした。

マリオン・デュピュイ(以下MD) ドラマの制作者側からすると、期待どおりのリアクションだったはず。ダサい、キッチュと悪口を言われようが、問題ない。何より話題になることが重要だから。ただ、シーズン1はロックダウン中に配信されたから、美しいパリや鮮やかな服、楽しそうな登場人物たちを見るのは、気分をアップするドーパミン効果があったと思うわ。

マリオン・ジェリオ(以下MG) 恥ずかしいけれど、つい見ちゃうみたいな部分もあったんじゃないかな。あまりにステレオタイプの連続だから、胸を張って見ているとはパリジェンヌは言わないけれど、実はみんな見てる(笑)

MD 私が良いと思うのは、パリの美しいイメージね。絵葉書みたいなパリだけれど、現実に、いまも存在している。そんな景色を見るのはうれしかった。すっかり忘れたパリの姿だから。

CF そのとおり! このドラマには、基本的にリアリティの意識はまったくない。大事なのはパリを美しく見せて、夢を与えること。たとえば、パリのポンヌフを見せる代わりにトゥールーズのポンヌフが撮影されたりしているし、現実のパリを見せようという気はさらさらない(笑)

MG 海外に向けて、美しいパリのイメージが守られることは、私たちパリジャンにとっては良いこと尽くめ。たくさんの観光客を誘ってくれるドラマだと思う。

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シーズン2では、エミリーの新しい恋も見どころ。セーヌ川沿いの街並みを楽しめる遊覧船バトー・ムーシュにて。

パリは美しくて、パリジェンヌはおしゃれというイメージを守ってくれる作品は、フランス人にとって良いこと。実際は違うけど(笑)

MG
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パリジェンヌのリアルなファッションは?

MD 劇中のファッションが話題だけれど、いちばんパリジェンヌらしいのは、やっぱり事務所のボスのシルヴィだと思う。タイトスカートにシャツの胸元を開けて、セクシー、ミニマリスト、シックな装い。彼女のファッションはすべて、フレンチ「ヴォーグ」元編集長のカリーヌ・ロワトフェルドのコピーだと言われているの。エミリーは、アメリカ人から見たパリジェンヌ。いわゆるパリジェンヌはもっとエフォートレスだし、決してエミリーのようなカラフルなファッションじゃない。でも、フレッシュで前向きな彼女のキャラクターには合っているよね。カミーユはシックなパリジェンヌ風だけど、実はちょっと違う。あえて言えば、ファッションウィークにやってくるパリジェンヌのルックかな(笑)

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シルヴィ(左)はカリーヌ・ロワトフェルド(右)のコピー!? やや深めに開けたシャツとタイトスカート、肩からジャケットを引っ掛けたスタイルがカリーヌの定番。

MG パリジェンヌは働いていて、メトロにも乗る。12センチヒールを履いて、あんな服は着られない。もちろんファッションウィークでは、細部まで完璧に目立つ格好をしている人たちはいるけれど。アメリカ人が見るパリのイメージってこんな感じなんだなとわかったのはおもしろいし、パリジェンヌはおしゃれというイメージを持ってくれるのはうれしい。でも実際、パリジェンヌである私たちはますますエフォートレス化していて、ヒールが減ってスニーカーが増え、デニムも多くなっている。今日も私たち3人ともデニムだしね(笑)。出かける時にはジャケット着るけど。

MD 黒か紺のジャケットね(笑)

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フランス人が総ツッコミを入れたという、なぜか夜行列車でサントロペへの旅に出るシーン(左)。グレース・ケリー(右)にオマージュを捧げたファッションで。

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セーヌ川での船上パーティの時のハート柄ドレスとカチューシャのスタイル(左)は、ブリジッド・バルドー(右)がインスピレーション源になっているそう。

CF カミーユは確かにパリジェンヌらしくないし、スタイルはクラシックだと思う。でも、ディテールが強いところは、パリジェンヌっぽいかな。たとえば、白いシンプルなブレザーに赤いサングラスをアクセントにして、控えめなルックのイメージを壊したりしている。

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バルマンのジャケットにパンタロンとパトゥのバッグで、パリジェンヌルックか疑惑のカミーユ(右)。エディターMGは、シルヴィ(左)のメゾン・ラビ・ケイローズのパープルのコートに注目。

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MG ディテールといえば、エミリーをはじめ、登場人物がよく被っているベレー帽も好きだな。いまどき、パリでベレー帽を被っている子なんていないのに!

MD 確かにあの鮮やかな色のベレー帽って、SNSで槍玉に挙げられたポイントのひとつだよね。

MG パリジェンヌはベレー帽なんて、おもしろすぎる!

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“パリといえばベレー帽”は古風な発想!? シーズン1では、ビビッドカラーから千鳥格子までド派手なベレー帽が頻繁に登場。

MD しかもビビッドカラー! 本当に思い込みね。でもシーズン2では、スターアクセサリーはベレー帽からバケットハットになった。少しトレンドを取り入れたよね。

MG&CF そうよね!

MD でもバケットハットなら、なんでもいいってわけじゃない。カミーユが被っているのはセリーヌよ。1月のメンズファッションウィークでは、KENZOとディオールでベレー帽が登場したの。古きよきパリジャン風で、このドラマがちょっと影響したんじゃないかと思ったわ(笑)

CF シーズン1の後、ハイブランドの通販サイトLYSTでは、ベレー帽の検索件数が急増したそうよ。

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シーズン2ではバケットハットが増えて、ややトレンドを意識。右のエミリーが被っているブロックチェックのハットはヴィンテージ。

エミリーのルックをそのまま真似したいと思うパリジェンヌはいないだろうけれど、アイテム各々はほしいと思う人も多いんじゃないかと思う。

CF
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カミーユが実家を案内するシーンで着用していたバケットハットはセリーヌ(参考商品)

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MD このドラマについては、フォーカスされているのが俳優だけじゃない。スタイリストへのインタビューも多いの。「セックス・アンド・ザ・シティ」シリーズを手がけたパトリシア・フィールドとフランス人のマリリン・フィトゥシなんだけれど、彼女たちの果たした役割が登場人物と同じくらい大きいということよね。「シーズン2ではもっとファッションはエスカレートする」と予告されていたけれど、つまり、よりカラフルに、より柄ものが増えて、悪趣味になるという意味。彼女たちいわく、「良い趣味は退屈だから」。そういう要素をエミリーのキャラクターに合わせたのね。

CF 逆説的だけれど、リリー・コリンズのヘアメイク担当者は「ビューティはその逆にした」と語っていて。つまりシーズン1では、彼女は強い色の口紅で、眉もきっちりと描きこんでいた。でもシーズン2では、もう少しミニマルなメイクになっている。

MD ルックとバランスを取っているよね。シーズン2のポスターになったエミリーのライラック色のドレスは、パリの若手デザイナー、マガリ・パスカルのデザインで、シーズン2配信直後にLYSTで売り切れたそう。先日人気ルックを問い合わせたのだけど、エミリーが着ていたクレージュのパープルのブルゾンもランクインしていて、リサーチ数が194パーセント急増したとか……すごいよね。誕生日パーティに着ていた、ロテートの大きなピンクのリボンを結んだドレスも検索数が多かった。ヴァレンティノのベルトも、ウィメンズアイテムのベストセラーで7位。やっぱり、ファッション業界に大きな影響力を持っていることがわかる。

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サントロペでエミリー(右)が着ていたクレージュのブルゾンは、LYSTで検索数が194%もアップ!

CF シーズン2では、カミーユのルックも検索数が多かったらしい。特に、レザーブルゾンが人気だったそう。

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MG ドラマのために特別に作られたルックもあるのかな?

MD スタイリストはヴィンテージショップをたくさん回っていて、ヴィンテージとH&Mとプレタポルテのミックスだと言っている。でもマガリ・パスカルのドレスは、ドラマ用に特別に作ったものだと思う。プレスリリースには150以上のブランドの協力リストがあって、ザラからアライア、マヌーシュ、マージュ、エリー・サーブ、セリーヌ……あらゆるハイブランドやクリエイターの名前が勢揃いだった。ところで、登場人物の中で、私はミンディのファッションが苦手。キャバレーやサンミッシェルの噴水の前で歌っているけれど、服装が超派手で、すごく違和感があった。たとえば、キャバレーで歌うシーン。片側がマスキュリン、反対側がフェミニンという衣装にはびっくり!

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エミリー(左)のマガリ・パスカルのドレスは、ドラマ用に特別に作られたもの。白ジャケットに赤いサングラスがアクセントとなったカミーユ(右)のルックは好評。一方で、ミンディ(中央)はいつも不評……。

CF エミリーが誕生日の時に、ミンディが着ていた蛍光イエローのドレスもすごかったと思わない?

MG ほとんど仮装よね。

MD カーソルが極限まで触れているよね。スパンコールやプリント、フリルまで、やりすぎだった。

CF あそこまでだと、もう夢を与えるレベルじゃないよね。私がとても好きだったルックは、シルヴィが着ていたアレクサンドル・ヴォーティエのグリーンのドレス。半分が長袖でロング、半分がビュスチエのミニ。とても素敵だった。

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エディターCFがお気に入りだと語っている、シルヴィが着ていたアレクサンドル・ヴォーティエのアシメトリーのドレス。

MG 私はコートに注目していたの。個人的な意見だけれど、私がいちばん欲しいアイテムって、色鮮やかで個性的なコートなの。ほかにも、シルヴィのコートは素敵なものが多かった。それに比べて、やっぱり大きなリボンを結んだドレスみたいなものにはあまり親近感を持てない。

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自身の誕生日パーティでエミリーが着たビッグリボン付きドレスは、ジャネット・フリース・マドセンとソーラ・ヴァルディマールのデュオによるロテート。

MD シルヴィのワードローブがいちばん真似したくなるよね。ミニマルで、どのアイテムも上質で美しい。クオリティの良いアイテムを選ぶことこそ、パリジェンヌの真骨頂だと思う。

CF エミリーのルックをそのまま真似したいと思うパリジェンヌはいないよね。でも、個々のアイテムはほしいと思う人も多いんじゃないかな。小物やスカートとかね。

MG 確かに、良いものを着ているよね。ただ要素を盛り込みすぎているだけ。スタイリストにとっては、こんなに極端な要素を盛り込んだルックを考えるのはきっと楽しかったに違いないわ(笑)

>>後編 モデルはあの人!?「エミリー、パリへ行く」の噂話を大公開。

text: Masae Takata (Paris Office) photography: Olivier Bardina (portraits), ©amanaimages Alamy/SIPA/Sipa USA/Sipa Press/Netflix Everett Collection, ©LYST

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