小松美羽の大作『ネクストマンダラ−大調和』が岡本太郎美術館で初公開。

Culture 2022.06.22

神獣などをモチーフに、祈りを込めて描くダイナミックな絵で世界から注目される現代アーティストの小松美羽。弘法大師空海が真言宗を開創して1200年後にあたる2023年、京都・東寺で執り行われる記念法要にて、『ネクストマンダラ−大調和』が奉納される。これは東寺の食堂に籠もって制作した一対の大作で、東寺に収められている元禄本両界曼荼羅と同じ約4m四方という大きさだ。完成を間近にしたある日、その制作現場を訪れて話を聞いた。

M1C_0212-2.JPG制作に取りかかる前に瞑想して、深い心理状態で自我をなくしたところからあふれてくるものを大切にしているという小松。

「昨年、高野山三宝院に滞在して描き上げたのが『ネクストマンダラ−魂の故郷』です。東寺の長者さまは高野山三宝院のご住職でもあられ、その制作風景をずっと見ていただいていたので、今回のお話をいただけたのはお導きだと感じています」。奉納画を手がけることになった経緯を小松はそう語る。制作をスタートしたのは空海が入定した21日に合わせた4月21日のこと。東寺境内の灌頂院(かんじょういん)で瞑想してから制作に取りかかった。

「空海さんが密教修行の地として開いた高野山には神社もキリスト教の石碑もあって、いろいろな宗教観を分け隔てなく、排除することなく育まれてきた背景があります。私自身もこれまでいろんな宗教観の方々に出会って学んできたことをここで落とし込んで、描いた作品がひとりでも多くの方の魂の拠りどころとなってほしい、観ていただいた方の祈りの一片が作品を通して共鳴し合い、天へとつながりますようにと、私自身の祈りを込めて筆を走らせていました。アートは魂や心の薬という思いで画業をさせていただいていて、そのシンボルともなるような大きな仕事なので、このマンダラを観た方々が少しでも自分の魂と共鳴できるように、という思いも込めました」

M1C_0215-2.JPGスペースが限られているため、1対の絵を入れ替えながら作業を進めた。

曼荼羅は密教の教えをわかりやすく表現したものだが、今回描いたのは小松美羽ならではのマンダラだ。
「東洋や西洋の神獣をはじめ、いままで学んできた聖書や各国の神話、世界中の訪れた先で積み重ねてきた神聖な存在も現れています。白と黒には、陰陽や生死や光と闇など、対局にあると思われる2つが1対になるからこそ『1』という意味を成す世界が表現されています。色彩には、聖書に出てくる神様と人間が約束を交わした時に出てくる虹がベースとなっていて、厳しく険しいけれども、我々が真に純粋に学びながら歩みを進めることで、少しでも清らかな大いなる世界に近づけるようにという祈りが込められています」

M1C_0198-2.JPG絵を描く上で苦労はなかったが、巨大な作品のため、絵を描く姿勢は試行錯誤したという。

今回の作品は、アーティスト人生で初めてとなる、絵を掛け軸の形に仕立てる軸装というスタイル。絵を巻いた時に絵の具がひび割れないように、リキッドのアクリル絵の具をメインで使うのも初の試みだ。京都の表具師や金沢の箔押師など、さまざまな職人の技に支えられて実現しているプロジェクトでもある。制作途中で葛藤や迷いはなかったか尋ねると、「一切なかった」と即答。

「最初からこういう絵を描くというような指針は決めず、下絵なしの状態のぶっつけ本番で自我を捨てさり瞑想状態となってから、1点に集中することで描くべきイメージの断片を拾い集めるように描いていきました。東寺のエネルギーが強いのか、自分でも信じられないくらい早く進んでびっくりしています。私が描いたんだけど私じゃない…そんな、不思議な感覚です」

M1C_0230-2.JPG1日10時間以上描き続け、そのはかどり具合は、様子を見に立ち寄った東寺の長者も驚くほどだった。

2023年10月8日に金堂で行われる奉納式にて、最後の「点」を入れて完成する『ネクストマンダラ−大調和』。その前に、6月25日より川崎市岡本太郎美術館で開催される「小松美羽展 岡本太郎に挑む−霊性とマンダラ」にて特別公開される予定だ。

「岡本太郎さんは絵も文章も素晴らしいし、日本各地の民話や伝承を学んでそれを作品に落とし込まれている。私自身、マンダラもそうですが、ネットで調べた民話や神話だけでなく、実際に現地を訪れて土地のパワーを感じ、そこで瞑想したりスケッチするなかで降ってきたものをそのままで表現するようにしているので、岡本さんから改めて学ぶ姿勢を教えてもらっているようにも感じています。個展では新作『神話は未来形』を発表しますが、多くの神話は、誰かが書かなくなったり、人々が見えなくなった、感じられなくなったなどの多くの理由から、語り継がれた神話のページがたまたまそこで終わっているからといって、過去のものではないと思うのです。実は、人間の想像以上に広大で、次元や時空を超えていまもこれからもずっと神話は続いており、だからこそ『神話は未来形』という作品を描きました。岡本太郎さんの『明日の神話』に共通するものを感じています。私がこの時代に生きて、この美術館で個展をやらせていただくのは絶対に何か意味があるのだと思います」

個展では5つの章に分けて展示され、マンダラを展示するメインの空間は、東寺の「両界曼荼羅」が展示される際の灌頂院の空間を意識して作り上げたものだそう。金箔で彩られた巨大な絹本にうごめく、東西の神獣たち。観る者の魂に訴えかけるような不思議なパワーを、この機会にぜひ体感してほしい。

M1C_0208-2.JPG小松美羽。1984年長野県生まれ。女子美術大学短期大学部在学中に制作した銅版画『四十九日』でプロへの道を切り開く。アクリル画、有田焼、ライブペインティングなどに制作領域を拡張し、神獣や神話をテーマにした作品を発表。2015年に有田焼の一対の立体狛犬『天地の守護獣』が大英博物館日本館に永久展示、2019年に台湾企業HTC VIVE ORIGINALS と共同制作した VR 作品『祈祷=INORI』が第76回ヴェネツィア国際映画祭VR部門にノミネートされるなど、国際的評価も高い。『ネクストマンダラ−大調和』は6月25日から川崎市岡本太郎美術館で初公開され、2023年に東寺灌頂院(かんじょういん)に奉納展示される予定。

『小松美羽展−岡本太郎に挑む 霊性とマンダラ』
会場:川崎市岡本太郎美術館
神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5 生田緑地内
tel:044-900-9898
会期:2022年6月25日(土)~2022年8月28日(日)
開館時間:9:30~17:00(入館16:30まで)
休館日:月曜日(7月18日を除く)、7月19日(火)、8月12日(金)
観覧料:一般¥1,000
www.taromuseum.jp/nextexhibition.htm

text:Natsuko Konagaya

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