30代で脳卒中を経験した女性たちの真摯な証言。

Culture 2022.07.14

フランスでは女性の死因第1位に上がる脳卒中。40歳以下で発症した女性たちが自らの体験を率直に語り始めている。医師の支援を得て、彼女たちが社会を動かしつつある。目指すのは、診療体制の改善だ。

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フランス国内の調査によると、55歳以下の女性の脳卒中罹患数は30年間で2倍に増えている。photography : Getty Images

2018年11月17日。「もしもし。あなたのお父さんから電話がありましたが、どうしましたか?」「ええ、とても気分が悪いんです!」

その日の朝、電話を切ったマルゴ・チュルカは何かおかしいと感じていた。目覚めても具合が悪く、めまいがする。SAMU(フランスの公的救急医療サービス)はなかなか来てくれず、結局緊急往診サービスを手配してもらった。往診に訪れた医師は、威厳に満ちた様子で偏頭痛と診断した。「年齢のせいで重症だとは思われなかった。薬剤師の父が強く訴えたから大学病院に搬送してもらえた」とマルゴはいま考えている。

病院で診断が下った。彼女は33歳の若さで脳卒中を起こしたのだ。心房の間にある卵円孔が開いたままになっているPFO(卵円孔開存)が原因だった。この穴を介して流入した血栓が、脳動脈の一部をふさいだのだ。「危険因子は何もありませんでした。こんなことが自分の身に起きるなんて思いもしなかった。確かに産褥はつらかったし、仕事で大きなストレスを抱えていた頃ではあったけれど」

この時の脳卒中によって、造形美術教師の彼女は突如、ハンディキャップと無理解の世界に放り込まれた。話すことも、読むことも、歩くこともできなくなった。発症から3カ月経った頃、まだ入院中だった彼女は、17カ月になる息子に絵を描き、リハビリセンターでの毎日の出来事を伝えるためにペンを握った。失語症に対抗するための生存本能だったのかもしれない。「イラストを公開するためにインスタグラムにアカウントも開設しました。それが『Mon petit AVC(私のプチ脳卒中)』(1)というグラフィックノベルになりました。大きな前進です。編集者によれば、このテーマの一般向けの本はこれが唯一ということです」。2万5000人のフォロワーを持つ彼女はそう語る。

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原因不明

一般的には、脳卒中は高齢者に多い疾病というイメージがあるが、フランスでは若い女性の罹患数が徐々に増えている。2016年3月にディジョンで実施されたフランス国内の調査によると、55歳以下の発症数は30年間で2倍に増加している。「予防対策の普及のおかげで高齢者における脳卒中の有病率は減少しましたが、若年層では効果が出ていません。比較的稀なため、若い人のほうが診断が難しい。その結果、治療開始までに時間がかかってしまう場合もあります。一般の人々や医療従事者に初期症状に関する情報提供を行うことは、チャンスを失うことを防ぐには不可欠です」とパリのピティエ=サルペトリエール病院の神経科医ソフィ・クロジエは強調する。

若い女性では、喫煙、偏頭痛、避妊薬の摂取、妊娠、産褥、更年期によるホルモンバランスの変化が主要なリスク要因だ。しかしこのテーマに関する研究は少なく、原因が特定されない場合も多い。

脳卒中の発症から5年経ったものの、ジェシカ・ジャックはいまだに原因がわからない。31歳になったばかりの頃、ふたりの子どもを持つ彼女の日常は一変した。「ろれつが回らない、ふらふらする、視野の左半分が欠ける、頭の右側の激しい痛みといった前兆が突然生じたにもかかわらず、MRI検査を受けるまでに53時間も待たされた。その上、薬のひとつも処方されずに帰宅させられました。12日後に2度目の卒中を起こしました」

退院後、ジェシカはひとりでいくつもの後遺症と向き合わなければならなかった。医師からは何の説明もなかった。ハンディキャップを抱えながらも、リハビリのために自ら発音矯正士や視能訓練士や精神運動指導士の予約を取った。「母親や妻としての役割を果たすこともできず、仕事も失いました。倦怠感がひどく、歩くことも集中することもできませんでした」と彼女は嘆く。

それでも5年間、彼女は毎日自分に目標を課した。数メートルから始めた歩行訓練が数キロに伸びた。やがて彼女はふたたびランニングを始めた。万歳! 今年の1月、彼女は10キロを走り通した。脳卒中の発症からその日でちょうど5年だった。「自分自身への挑戦でした。人によって状況は違いますが、不可能なことは何ひとつありません」。仕事も見つけた。数カ月前から、在宅介護支援センターの受付責任者を任されている。

それでも彼女はまだ満足していない。ジェシカはいま別の闘いを進めている。公的医療機関によるキャンペーンの実施を求めて、署名運動を始めたのだ。これまでに2万人以上の署名を集めた。なかにはギヨーム・カネやティエリー・レルミットのような有名人も含まれている。いまの彼女の目標はただひとつ、マルゴやほかの若い脳卒中体験者たちとともに保健大臣に面会すること。「何十人もの証言を集めました。オリヴィエ・ヴェラン(元保健大臣)は神経科医でありながら、これまで一度もこのテーマを検討したことがありません。どれだけ時間がかかっても私は闘うつもりです。予防のための闘いに私は勝ってみせます。みんなで力を合わせて勝利してみせます」

SNSでもマルゴとジェシカは注意を呼びかけ続けている。身体の一部あるいは半身の麻痺やしびれ、言語障害、視野の欠損が突然生じた時は、注意が必要だ。「患者の25%が55歳以下の若年層です。たとえほかの病気と診断されても、若い人の場合は、必ず脳卒中の可能性を考慮するべきです。なぜなら一刻も早く治療を開始する必要があるからです。診断の遅れは障害が残るリスクを高めてしまいます」と前述のクロジエは強調する。

 

 

 

一般の人々を対象とした啓発活動

数ヶ月後にはマルゴやジェシカのような患者たちと協力して、このテーマについて一般の人々や医療従事者を対象とした啓発活動を始めるつもりだと神経科医のクロジエは言う。「注意喚起は最重要課題です。情報提供や予防を目的とした本格的なキャンペーンが実施されているアメリカやカナダでは、診療体制に実際に変化が見られています。フランスでも市民や医療従事者の認識を改善するために、こうしたキャンペーンを定期的に繰り返し実施する必要があるでしょう」

発症から3年、マルゴはまだいくつもの後遺症を抱えている。その多くは目に見えないものだ。神経障害性疼痛、強い倦怠感……。彼女はそれでもリモートで仕事を再開した。いつかまた教室に戻れることを願いながら。そして、ほかの患者たちを支援するために、患者エキスパートの学位を取る準備も始めたい。「脳卒中を体験した人たちから毎日メッセージが届きます。受診した医療機関の対応の悪さを訴える人がたくさんいます。このようなことがもう起きないようにしなければなりません。ほかの人たちには私と同じ目に遭ってほしくない。行動しなければ!」

(1)Margot Turcat著「Mon petit AVC」Larousse出版。Instagramアカウント:@mon.petit.avc.
(2)署名サイト:Avaaz.org Pétitions citoyennes

text : Emilie Lopes (madame.lefigaro.fr)

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