あいち2022に参加するグレンダ・レオン、潘 逸舟、AKI INOMATAにインタビュー。

Culture 2022.08.25

大きく変わりゆく時代の中で、独自の眼差しで世界を見つめるアーティストたち。自然、環境、国境、戦争、セクシャリティ、身体性……私たちが日々考えていることの深淵や未来をアートは照らし出してくれる。「あいちトリエンナーレ」から「あいち2022」と名称を変えた国際芸術祭に出品する3人のアーティスト、グレンダ・レオン、潘 逸舟、AKI INOMATAにインタビュー。

自由を求める思索、囁きかける詩性。

グレンダ・レオン

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GLENDA LEÓN
1976年、キューバ・ハバナ生まれ。現在はマドリードを拠点に活動する。2011年、ヴェネツィア・ビエンナーレ参加。2021年には、個展『Música delas formas』をスペインのビーゴ現代美術館で開催した。

 

世界の醜さに耐えられない時、一輪の勿忘草を買うのです

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キューバを代表するアーティスト、グレンダ・レオン。ちびた石鹸やガム、つけまつ毛、古いタイプライターやカセットテープといった既製品にシニカルな着想とデリケートな詩性を吹き込み、社会や政治に広がる抑圧や対立、人間性に宿る微細な矛盾を抽出するコンセプチュアルな作品を発表。長年にわたるアメリカの経済制裁による物資不足のため、キューバの作家は日用品や廃品の素材使いに長けているが、とりわけ彼女の手つきには機知とエレガンスが際立つ。「12歳から美術とともにバレエや音楽を習いました。直接的なメッセージやドキュメントよりも、音や詩を通して、抑圧の歴史と現実を脱する思考を囁くことを選んだのです」と語る。ミラン・クンデラの小説『不滅』の一節に触発された初期の写真シリーズの抑制された表現は、彼女の手法を象徴する。

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「物語の女性は世界の醜さに耐えられなくなった時、花屋で一輪の勿忘草を買い求めます。細い茎に小さな花をつけた勿忘草のその美しい青い一点だけを見つめ、愛せなくなった世界で自分のために残しておく最後のものだと思うのです。2000年頃、キューバで展開された革命のスローガンを前に、私はカメラのレンズを小さな青い花に向け、ぼやけた背景にステイトメントを潜ませました」

表現の自由が脅かされることが社会主義国に限らない現在の世界で、グレンダの姿勢は、非力だが決して無力ではない一個人の思考の尊さを鼓舞してくれる。

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生身の身体を通して、社会に対峙する視点。

潘 逸舟(ハン イシュ)

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ISHU HAN
1987年、上海生まれ。現在は東京を拠点にする。東京都現代美術館、ボストン美術館、上海当代美術館などで展示。日産アートアワード2020グランプリを受賞。

 

自分の経験を作品に落とし込むこと、身体がそこに存在することへの思考でもある

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9歳で上海から青森に家族で移住した潘は、アイデンティティの問題をテーマに作品を発表してきた。海や雪原、トウモロコシ畑といった広大な自然に彼自身の身体を投じるパフォーマンス表現は鮮烈だ。「私のパフォーマンスは役者に置き換えることは難しく、自分自身の経験を作品に落とし込むことを意識しています。初めてその場所に出合った時の感覚を作品の中に取り入れたい。それは身体がそこに存在することへの思考でもある」と語る。なかでも近年力作が続く、大海原に単身で立ち向かうモノクロの映像作品は骨太で力強い。海は、彼にとって社会を反映する鏡のような存在だ。仄白い生身の身体が黒い波間にかろうじて見え隠れする映像は、時代のうねりに翻弄されながらも個人の物語を生きようと足掻くすべての人に追体験を促す。一方で、休憩中の自由の女神や掃除ロボットに自ら扮した作品は、独特のリリカルなちゃめっ気に心掴まれてしまう。

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「見えないものを見るためにユーモアが必要な時があります。ふと現れたユーモアは思考の蓄積であり、わからなさをわからないまま維持するための時間でもある」

個人の体験と生きた感覚をさまざまな角度や距離で見つめ直そうとする潘の視点は、虚実の境界で惑う私たちを勇気づけ、余分な力を抜いてくれる。

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生きものの創造力を人間社会の手引きにして。

AKI INOMATA

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AKI INOMATA
1983年、東京都生まれ。生きものとの関係性をテーマに作品を制作。主な個展に、2018年ナント美術館、2019年十和田市現代美術館、北九州市立美術館など。

 

ミノムシが持つ自然のテクニックから、職人の技術や、洋服、住居を考える

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ヤドカリやミノムシ、ビーバー、インコ、真珠。アーティストAKI INOMATAの作品に欠かせないもの、それは“生きもの”だ。生きものが持つ特性をリサーチし、人間ではない彼らと協働することで、常に自身の考え方がアップデートされ、作品世界も発展していくのだという。国際芸術祭『あいち2022』では、ミノムシとコラボレーションした作品『彼女に布をわたしてみる』を展開する。展示場所は、江戸時代から染め物が盛んな街・有松。有松・鳴海絞りという絞りの手法で染められた布をミノムシに渡し、ミノ(巣筒)を作ってもらうという。

「生きものが本来持つ創造力に興味があります。ミノムシは口から吐き出す糸で落ち葉などの素材を縫い合わせて、自分の身体の大きさに合わせたミノを作ります。ミノムシが持つ自然のテクニックから、この土地の職人たちが培ってきた技術について考えたり、洋服のようなシェルターのようなミノという存在について考えたりする場にしたいと思っています」

生きものが本来持つ習性をまったく違った形で提示した作品は、人間社会、そして現代に生きる問題とも重なり、深く考えさせられる。

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『アぺルト16 AKI INOMATA Acting Shells』
会期:開催中〜9/11
金沢21世紀美術館(石川・金沢)
営)10:00~18:00(金、土は~20:00)
休)月
料)入場無料

●問い合わせ先:
tel : 076-220-2800  
www.kanazawa21.jp

 

国際芸術祭『あいち2022』
会期:開催中〜10/10
愛知芸術文化センター・一宮市・常滑市・有松地区(愛知)
営)各施設による
休)無休
料)一般¥3,000(フリーパス会期中販売券)

●問い合わせ先:
tel:052-971-3111
https://aichitriennale.jp

*「フィガロジャポン」2022年9月号より抜粋

text: Chie Sumiyoshi(グレンダ・レオン/潘 逸舟) Keiko Kamijo(AKI INOMATA)

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