ミレニアル世代をも虜にする、ダイアナ妃の魅力とは?

Culture 2022.09.23

悲劇的な死から25年。ハートのプリンセスはミレニアル世代も含めて人々を魅了し続けている。ドキュメンタリー『プリンセス・ダイアナ』の公開や、ドラマシリーズ「ザ・クラウン」シーズン5の配信開始も間近に迫り、ダイアナ妃を賛美する声は止まない。

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photo : Getty Images

1997年8月31日、パリのアルマ橋下での自動車事故で、当時36歳のダイアナ妃が急死した。それから25年を経たいまも、ダイアナマニアの熱狂ぶりは衰えを知らない。日本で9月30日に劇場公開されるエド・パーキンズ監督のドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』では、再び彼女の声を聞くことができる。また、11月にはドラマシリーズ「ザ・クラウン」の待望のシーズン5がNetflixで配信開始。ダイアナ妃を演じるのはオーストラリア人女優エリザベス・デビッキだ。

クリステン・スチュワートが離婚前夜のウェールズ公妃を演じた映画『スペンサー ダイアナの決意』を筆頭に、ポップカルチャー界ではアイコン的存在であるダイアナ妃へのオマージュが後を絶たない。ドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』でオーストラリア訪問の際のアーカイブ映像に収められた大勢の人々の様子を見ると、「ザ・クラウン」シーズン4を観ているような錯覚に陥る。いまや、現実の方がフィクションを思い起こさせているのだ。

そしていま、ダイアナ妃を礼賛しているのが、新しいミレニアル世代だ。TikTokインフルエンサーのローズ・ノラ・アンナはダイアナ妃のおなじみの髪型を誇らしげに取り入れ、インスタグラムアカウント@ladydirevengelooks開設者のエロイーズ・モランは、6月にイギリスのミッチェル・ビーズレー社から出版された『The Lady Di Look Book』で、プリンセスが服装を通して送っていた「メッセージ」を読み解いている。

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「真の現代性」

なぜ25年経ったいまも、彼女はこれほど人々を魅了するのだろう? 確かに、いまの30代は、ロマンチックに脚色された結婚式の写真に彩られたマグや食器のような「ソー・ブリティッシュ」なグッズを収集するのが大好きではある。しかしそれだけでない。波乱に富んだ複雑な物語の光を、若い世代はフェミニズムのプリズムを通すことで、インスピレーション豊富なヒロインが貫いた不服従の姿勢を再解釈しているのだ。「女性たちにとって、彼女はまさにアイコンです。浮気された妻という立場を拒絶し、打ちひしがれた寂しい女性になっていたかもしれないところを、自分の心の赴くままに進み、王室のシステムに新たな力学を刻印したからです」と、『夢を思い出せなかった女性』(オディール・ジャコブ出版)の著書がある精神分析家のフロランス・ロトレドゥは指摘する。「その点で、彼女は真の現代性を体現しています」

1981年、頬を紅潮させた恥ずかしがり屋で不器用なうら若い貴族令嬢が、おとぎ話のような結婚式でチャールズ皇太子と結ばれたとき、当時の女性蔑視の風潮がさっそく彼女を直撃している。『プリンセス・ダイアナ』の中で、イギリス人コメンテーターが厳かな口調で「父親や叔父、その他親族も彼女が処女であることを請け合っています」と発言するのを聞くといたたまれなくなる。

後に、集まった大勢の人たちがおのずとダイアナ妃に夢中になり、チャールズ皇太子の影が薄れてしまったオーストラリア公式訪問では、主役の座を奪われて苛立ちを隠しきれないチャールズ皇太子が性差別的な冗談を言って会衆を笑わせる場面がある。「妻がふたりいて、通りの両側を担当してくれたらもっと楽でしょうね。私は監督して真ん中を歩きます」

【関連写真】エロイーズ・モランが読み解く、ダイアナ妃の最高の「リベンジ・ルック」。

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真実は自らの口から

カミラ・パーカー・ボウルズと臆面もなく交際を続けた夫と離婚すると、ダイアナ妃は衝撃的なインタビューや写真を自らが有利になるように利用し、自分が公に受けた侮辱に対する復讐を果たすことになる。「メディアの利用方法もとても現代的です」と精神分析家は続ける。「バッキンガム宮殿の助けはまったく得られなかったため、彼女は自分が使える武器をすべて利用しました。それがメディアだったのです。彼女がメディアを必要としたのは、まず生きるため、その次に王室から自分を守るためでした」。メディアがなければ、宮殿で「狂女」と呼ばれた彼女は、自分にとっての真実を話すことはできなかっただろう。1995年の有名なBBC放送のインタビューで、英国の1500万人の視聴者が見守る中、自ら語ったように。

彼女は初めて、産後うつ、神経性過食症、自傷行為、自殺未遂、チャールズ皇太子の不倫について率直に語った。「彼女はメンタルヘルスについてのタブーを破った最初の有名人のひとりでした」と、『ポップ&サイ』(プロン出版)の著書がある精神科医のジャン=ヴィクトール・ブランは指摘する。「そうしたことがまったく話題にならなかった時代、しかもゴールデンタイムに。彼女はパイオニアでした。ただ、その話に耳を傾ける人は多くなく、女性蔑視や精神病患者嫌悪がまかり通る社会状況のなか、日和見主義とかマニピュレーター呼ばわりされましたが」

しかし、前述のロトレドゥは、ダイアナ妃はこのインタビューで「非常に自分らしく」心情を吐露していると言う。「この点も彼女が非常に現代的な女性であることを示しています。彼女は自分の苦しみを打ち明ける一方で、自分には多くのエゴがあり、豪華な結婚式や特別な運命に憧れていたことも認めています。逆説的ですが、そうした過剰なナルシシズムや、脆弱なアイデンティティや、根深い愛情欲求ゆえに、彼女はとても現代的な人物といえるのです」

人道活動にも熱心に取り組み、価値観を貫く女性として知られているが、これもまた掟破りだった(結婚して間もない頃、アメリカに初めて設けられたエイズ患者専門治療センターの落成式に出席している。ドキュメンタリー『プリンセス・ダイアナ』によると、アメリカの大統領はひとりとしてこの病院を訪問していなかったという)。

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正真正銘のファッションアイコン

そしてダイアナ妃は正真正銘のファッション界のアイコンでもある。インスタ映えする彼女のストリートファッションを捕らえた写真がSNSには溢れている。「彼女はカジュアルなんてとんでもないという世界にカジュアルな装いをもたらしました」と、トレンド情報会社ペクレール・パリに所属するスタイリストのディナ・シュルタンは言う。「王室の最もリラックスしたルックといえば、完璧にコーディネートされた狩猟服でした。ダイアナ妃はそんな服装コードを壊し、サイクルパンツ、スニーカー、キャップ、ハーバードのスウェットなど、いま流行の中性的なアスレジャースタイルを持ち込んだのです」

【関連記事】世界が注目!ダイアナ妃のファッション変遷。

社会科学高等研究院博士課程でファッションを研究するサヴェリア・メンデラは、ダイアナ妃は「プレタポルテをシックなものにする」ことに貢献した、という。服によって、プリンセスが担う社会的役割に揺さぶりをかけたのだ。「彼女はなぜいまも人気があるのか?」とメンデラは続ける。「ポップカルチャー界ではドラマがリバイバルされ、シャネルモナコ公室の例が示すように貴族階層への関心が高まっていますが、それとは別に、エリート社会のなかでのダイアナ妃の振る舞いがパンク的だったからです」

ダイアナが破壊者? 「その通りです。離婚後、パパラッチがリベンジルックと呼ばれる彼女の装いを執拗に狙っていたときの彼女は破壊者でした」とシュルタンは言う。「身体の線に沿ったデコルテが大きく開いたミニ丈のドレスは、王室の服装コードと対照的でした。“ドラマチックな”黒のミニドレスで、脚を見せてレッドカーペットを歩く。これもそれまでの公式の場での装いとの断絶を明確に表しています」

【画像】夏を満喫する、ダイアナ妃の開放的なファッション。

ファッションの象徴である彼女に、セリーヌやオフ-ホワイトをはじめ多くのクリエーターが、彼女が亡くなった後も感動的なオマージュを寄せている。1995年にダイアナ妃のために作られたハンドバッグ「レディ・ディオール」は、それ以後カルト的人気を誇るアクセサリーとなり、アーティストたちによって定期的にリメイクされている。ダイアナ妃のワードローブを象徴するアイテムは、博物館に収蔵されているものもあれば、復刻されているものもある。オークションに出品されると、値段はあっという間に跳ね上がる(ヴァージン・アトランティックのスウェットは4万7000ユーロで売却された)。ダイアナ妃はとことんアイコニックな存在だ。

text: Justine Foscari (madame.lefigaro.fr)

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