さすが羽生結弦! その生き様の美しさ。

Culture 2022.11.29

2004年、初めての金メダルを手にした、あどけない9歳の少年。2022年、記者会見でプロスケーターへの転向を表明し、達観の境地すら感じさせる27歳の青年――羽生結弦の18年間にわたる競技人生を記録した本書は、全528点に上る膨大な報道写真とニュース原稿をもとにまとめられた、いわば歴史書。耽美的な視点で選ばれた写真ではないはずだが、1枚1枚からその時々の美が溢れ出しているのは、さすが羽生結弦と言うほかない。

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』303頁より ⓒ時事

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』301頁より ⓒAFP=時事

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端麗な容姿、華やかな衣装。そういった魅力的なヴィジュアル以上に、生き様の美しさに惹き付けられてきた。個人的な話になるが、2000年代、アメリカ代表選手として活躍していたジョニー・ウィアーに心奪われたことをきっかけにフィギュアスケートの世界にのめり込んだ私は、ジュニア時代の羽生を初めて観た時、どこか共通する部分を感じ、一瞬で興味を抱いた。次々と好成績を残していく姿を追い続け、インタビューなどオフアイスでの姿も見聞きするにつれ、その振る舞いや言葉の選び方から、彼が破格のスケール感を持っていること、とてつもなく大きな存在へと変貌していく未来を予感することになる。私は音楽家や俳優といった表現者を取材することを生業の中心としているのだが、多くの人々の心を長年にわたり惹き付け続ける大スターが必ず持っている資質を、羽生少年は備えているように見えた。

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』119頁より ⓒAFP=時事

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』71頁より ⓒ時事

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一言で言い表すのは難しいが、不可欠な要素は、二面性を持っていることと、それらが互いに大きく離れていること。どこか妖精のように見える佇まいで観る者を夢見心地にさせる幻想性と、自己を冷静に分析し、緻密なプランを立てて鍛え、磨き上げていく不屈のストイシズム。羽生には早くから、その両面があった。

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』139頁より ⓒAFP=時事

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』136頁より ⓒ時事

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2011年、羽生は故郷・仙台で東日本大震災を経験。「16年しか生きていない。自分の人生は短いと思った」という当時残した重い言葉が本書には記録されている。忘れられないのは、2012年、初出場した世界選手権のフリープログラム『ロミオ+ジュリエット』。転倒しても決して諦めず、自身を鼓舞するように咆哮して滑り切った、魂のステップ。こんなにも華奢な身体のどこにこれほどのエネルギーが宿っているのか、不思議な想いがすると同時に、理屈を超えた強い念のようなものが迸るのを感じ、気迫に圧倒された。羽生結弦とは、プログラムの枠を超えた大きな物語を体現し、その演技を目の当たりにした者の心の傷を癒すことのできる稀有な存在なのだと確信した瞬間だった。

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』35頁より ⓒ時事

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』274頁より ⓒ時事

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』119頁より ⓒAFP=時事

 

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ソチ、平昌、2つの冬季オリンピックで金メダルを獲得。2022年、3度目となる北京大会では惜しくもメダルを逃したが、五輪史上初の4回転半ジャンプに挑んだ。当時の記録に頻出する「皆さんの夢だから」という発言。その重みは想像を絶する。90分をたった一人でパフォーマンスする前人未到のアイスショーを『プロローグ』と名付け、プロスケーターとして紡ぎ始めた新しい物語。

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』269頁より ⓒ時事

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』287頁より ⓒ時事

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羽生の演技を観ていると、「あのアーティストのあの楽曲で滑ったら、さぞ美しいだろう」という音楽的イマジネーションをいつも激しく掻き立てられてきた。それは、ロックバンドのライブの理想的なセットリストを夢想するような密かな妄想だったが、一人で完結させるフォーマットのアイスショーを彼がこれからも開催するならば、セットリスト構成を提案してみたい、などという大それた夢が芽生えてくる。

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』163頁より ⓒ時事

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』182頁より ⓒEPA=時事

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』260頁より ⓒ時事

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光と闇、妖艶さと荒々しさ、激しさと静けさ。クラシックもロックも咀嚼して自分だけのBGMにしてきた彼の、様々な二面性を内包したエモーショナルなアイスショー。その内容は自由かつ多様であり得るし、可能性は無限大である。更なる高みに挑戦し続けること、自分を大切にすること。生き方においても2つの面を両立し、羽生結弦は孤高の美を更新し続けていくことだろう。

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『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』
CCCメディアハウス[編]

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text:Tae Omae

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