ハリー&メーガン エピソード2:メーガン聖人伝へようこそ。

Culture 2022.12.12

ハリー王子夫妻のNetflixドキュメンタリーの第2話では、メーガン夫人の子ども時代から女優時代、そして人種差別問題、なかでもイギリスのマスコミからのバッシングを取りあげている。

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公開された「ハリー&メーガン」を観る英国民。photography: aflo

 

ハリー王子との交際を嗅ぎつけたパパラッチに初めて尾行されたメーガン夫人は笑顔で礼儀正しく挨拶した。直後にハリー王子からこんな忠告を受けた。「話しかけちゃダメだ。さもないと、イギリスのマスコミから追いかけられて喜んでいると書かれてしまうぞ」と。ふたりがNetflixのために制作したドキュメンタリー「ハリー&メーガン」の最初の3話(全6話)が12月5日に公開された。エピソード2では、女優で活動家の心優しいメーガン夫人がハリー王子と恋に落ちる。そして理想に燃え、善意あふれるその自然なふるまいが貪欲で偏見に満ちたイギリスマスコミの餌食となる。

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幸せな子供時代

子供時代を語るにあたってメーガン夫人は公の場で滅多に発言しない母ドリア・ラグランドをカメラの前にひっぱりだした。母親は「この5年間は大変だった」とこぼす。娘がハリー王子とつきあいだしてからということだ。それまではなにもかもが順調だった。ドキュメンタリーの中で、母娘はロサンゼルスの一角にある、静かな通りにやってくる。娘はここで祖母や叔母ら「素敵な女性たちに見守られて」大きくなったのだ。未来のサセックス公爵夫人は、「とてもいい子で好かれて」おり、「共感力」があった。身内からの賛辞にメーガン夫人が訪れる小学校の校長も加わる。メーガン夫人との再会のハグの合間に「あらまあ」と感極まった声を発しつつ、女性の校長先生は「公爵夫人が訪れてくださった」ことを喜び、古い記録を取りだした。そこには11歳にして「すでにとてもしっかりした文章を書いていた」メーガン夫人の手で、「名声と富」を手にした暁に回想録を書くならば、小学校や「仲良しの校長先生」のことを書くつもり、としたためてあった。

少女時代の唯一の暗い影は、両親が離婚したことによる寂しさだった。メーガン夫人は父トーマスと多くの時間を過ごしたものの(これを裏付ける写真が映し出される。マスコミでの発言のせいで娘の結婚式に出席できなくなった父親のイメージは一時的にせよ、回復するだろう)、孤独感は拭いきれなかった。そして今日、彼女はカメラの前で遠くを見つめながら12歳のときに書いた詩を朗読する。「ブルースのない人生を送りたい/幸せな父親とその妻/塀と毛がふさふさした犬/薪がパチパチと鳴る暖炉/でもそれは夢で現実ではない/私は泣けないし叫べない」。なかなか感動的だが、見ていて少し気恥ずかしい。

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自分の人生

思いやりがあり、頭が良く、熱意にあふれる女性。「ハリー&メーガン」のエピソード2は親族の証言やアーカイブ画像などを用いてそんなメーガン像を描きだす。先日ポッドキャストでも語った通り、子どものころは「かわいい」より「かしこい」と言われて育ったことに本人も言及し、まだ11歳だった頃、性差別的な台所洗剤の広告をやめさせた(有名な)エピソードを披露した。

彼女がハリー王子と出会う前から充実した人生を送っていたことが強調される。『SUITS /スーツ』の撮影(もちろん、彼女はメインキャストのひとり)と人道的な活動で忙しい日々。撮影の合間に(ライフスタイルのアドバイスブログ『The Tig』を書く時間は確保しつつ)メーガン夫人は 「アカデミー賞を受賞しそうな素晴らしいインディーズ映画 」に出るよりもインドやルワンダに出かけ、あるいは国連から与えられた役目をこなした。

ハリー王子が彼女に惚れたのも、彼女がこのような国際感覚を持つ優れた女性だったからだ。プロポーズは電気ロウソクとローストチキンの前で。幸せいっぱいのメーガン夫人は自信に満ち、なにもかもがうまくいくと素朴に信じていた。確かに初めてエリザベス女王に会ったときに深々とお辞儀をしてしまったのは失敗だった(やや戸惑った顔の夫が見守るなかで、彼女はカメラの前でお辞儀を再現して見せた)。次はうまくやればいい。ただ、ウィリアム皇太子キャサリン皇太子妃の「とても格式張った」側面は予想外だった。初めてふたりに会ったのは内輪での夕食の席だったが、アメリカ流のあけっぴろげな態度はイギリス流の冷ややかな態度に迎えられた。こうして2人の公爵夫人の間に確執の種はまかれた。

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意地悪な記事

メーガン夫人がイギリスのマスコミからバッシングを受けた時、イギリス王室は「通過儀礼」と表現したことをハリー王子は語る。ダイアナ妃やセーラ・ファーガソン、キャサリン皇太子妃の映像が流れるなかでハリー王子はさらに、男性の親族からこんな風に言われたことを明かす。「自分たちの妻だってこういうことを体験してきた。なぜお前の彼女は違う? どうして守ってやらなきゃならない?」と。ハリー王子は「違いは人種問題だ」と答える。これがエピソード2の提示するもう一つのテーマだ。王室の一員である以上、メディアからの圧力は避けられない(メーガン夫人とハリー王子によれば、王室はこれを歓迎する傾向さえある)。それが明らかに度を越してしまったのはメーガン夫人が混血だったからだ。メーガン夫人がこの世に「自分の居場所」を見つけることの難しさや、子供の頃に経験した人種差別(母親が蔑称でののしられたことなど)について長々と語っていることはさておき、イギリスの作家兼歴史家のデイビッド・オルソガが、この新しいロイヤルカップルに適用されたタブロイド紙のメカニズムを的確に分析している。すなわち、この業界は「白人産業」であり、黒人記者は「ジャーナリストのわずか 0.2% 」しかいない。「何がやり過ぎで何が差別的か」を自分たちで決めていることになる。2016年(2人の関係がマスコミにリークされた年)はEUからの離脱である「ブレグジット」やイギリス国内の移民問題を巡る論議があり、その影響を受けてことさら意地悪な記事が出回った。

この視点こそ、このエピソードの(もしかしたら唯一の?)興味深い点であろう。それ以外は新しい情報や爆弾発言などもなく、単なるメーガン聖人伝でしかない。注目される運命にあるカップルが登場したその瞬間に、性差別や人種差別の問題がメディアの議論にどのようにして登場したのか。こうした対立関係が今の時代、あるいはセレブに対する関係において何を物語っているのか。「ハリー&メーガン」の中でその答えはふたりがいかに苦しんだかに集約されてしまう。正当な主張とはいえ、ふたりにとってはそれが唯一のテーマなのだ。

text: Pascaline Potdevin (madame.lefigaro.fr)

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