年齢不詳のアジア女優の「お黙り!」が賞賛された理由。
Culture 2023.02.05
文/安倍かすみ
1月に開催された「第80回ゴールデングローブ賞」の受賞者で、一人のアジア人女性にスポットライトが当たった。
コメディ-ドラマ映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で中国系移民を演じ、コメディー/ミュージカル女優賞(Best Comedy/Musical Actress=主演女優賞)を獲得したミシェル・ヨー(Michelle Yeoh)氏だ。
ゴールデングローブでのアジア系俳優の受賞は、『フェアウェル』(2020年)のオークワフィナに続き、2人目となった。
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中国系マレーシア人のヨー氏は、20歳のときにミス・マレーシアに選ばれ、ミス・ワールド世界大会に進出した経歴を持つ。俳優のキャリアは1984年、香港でスタートした。サモ・ハン・キンポーによるアクションコメディ映画『デブゴンの快盗紳士録』(The Owl vs. Bombo)でデビューし、キャリアの途中でアメリカ進出を果たし、苦節39年でこの受賞までたどり着いた。
「40年の歳月がかかりました。ありがとう」。受賞スピーチでこのように謝辞を述べたヨー氏。「素晴らしい道のりだった。そして信じられないほどの葛藤もあった。でも価値のある経験だったと思う」。彼女の英語にはアジア独特の訛りが残るが、堂々としたスピーチだ。
「夢が叶い、米ハリウッドに進出したときのことを今でも覚えている」と振り返る。時は1997年。ハリウッドデビューを果たした映画『トゥモロー・ネバー・ダイ』の頃だ。当時のハリウッドと言えばブルース・リーやジャッキー・チェン、タムリン・トミタなど一部の有名人を除いて、アジア系が活躍する場はそれほどなかった。「あなたはマイノリティですね」。ヨー氏はハリウッドに到着し、このように言われたと言う。
「それで『英語を話します?』と言われたので『はい。(アジアからハリウッドへの)フライトが13時間もかかったのでそこで覚えた』と答えたの」と冗談を言い、会場の笑いを誘った。
「時は過ぎ、昨年私は60歳を迎えました」と言い、会場では大歓声が沸く。「女性ならわかると思いますが、年齢の数字が大きくなればなるほど、機会に恵まれることは少なくなる」。当時のハリウッドで体験した人種差別、そして年をとった女優の機会の減少について、ヨー氏はこのように述べた。
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還暦を迎えたと思えない若さ。
「でも私はこう思ったの。『ここまで良い調子で頑張ってきたよね。スティーブン・スピルバーグ、ジム・キャメロン、ダニー・ボイルなど最高の人たちと仕事してきたじゃない。それで手に入れた最高のギフト、それが『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でした」。
受賞スピーチの終了を告げるピアノ演奏が始まった。そうするとヨー氏は「お黙り!」と一喝。「私はあなたをぶっ飛ばすことができるんだからね。真剣よ」。これは自身が演じた役にかけたジョーク混じりのスピーチで、会場がドッと沸いた。
“Shut up please.” Golden Globe WINNER Michelle Yeoh pic.twitter.com/VwoicHTonj
— A24 (@A24) January 11, 2023
「お黙り!」と一喝するヨー氏。
NBCニュースは、「この『お黙り』はアジア人女性にとって感慨深かった」と報じた。「一般的にアジア人女性は小柄な見た目で控え目な性格とされているため、ゴールデングローブのような大舞台で、そのようなステレオタイプな捉え方への反撃とも取れる発言を目の当たりにし感慨深かった」とする、作家キャサリン・セニーザ・チョイ氏によるコメントを掲載した。
そして、リー氏はこのようにスピーチを締めた。
「この受賞は、私と共に立ち上がっているすべての人、私の先輩方、私のように見えるすべての人(=アジア人)、そして私と一緒にこの旅をしているすべての人のもの」
日本では、Travis Japan(トラビス・ジャパン)の世界進出が報じられたばかりだ。ほかにも、エンタメ界では有名人から無名なパフォーマーまで、さまざまな人がアメリカンドリームを夢見て次々に渡米している。アメリカや世界で一旗揚げたい彼らにとって、外国生まれのヨー氏の受賞は、夢と勇気を与えるものになっただろう。
text : Kasumi Abe