『イニシェリン島の精霊』ほか、人間関係のこじれを描く今月必見の映画3選。

Culture 2023.02.08

アメリカの高校で起こった、痛恨事を悼む極上の対話劇。

『対峙』

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瀟洒(しょうしゃ)な教会の穏やかな朝。準備された一室に装飾はない。軽食も不要という。だが、待ち人を招くための心遣いは怠りない。来訪者は2組の夫婦で、微笑を湛えた社交ムードはすぐに破れる。6年前、アメリカの高校の教室で少年が単独で銃を乱射して自殺した。その被害者の親が加害者の親を促し、対峙する局面と徐々に知れる。訴訟の場ではないから、検事のような詰問は控え、記憶を探ろう。そう決意したものの、我が子を奪われた意味を求めるや、言葉は刃と化し、非難と自責と喪失の淵に立つ相手を刺す様相に。それでも深傷の果て、意思疎通の「狭き門」にいたる対話を、回想シーンの挿入といった常套手段を使わず、新人監督がリアルタイムの迫真性で綴る。その豪腕に拍手。

『対峙』
監督・脚本/フラン・クランツ
2021年、アメリカ映画 111分
配給/トランスフォーマー 
2月10日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
https://transformer.co.jp/m/taiji

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

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ノワールな群像劇が辿る、つわものどもの夢の残り香。

『シャドウプレイ 完全版』

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地上げ反対の住民が多くて都市再開発から除外された「都市の村」。2013年、強制的な取り壊しが入り、騒乱のさなか、懐柔を図った市当局のタンが怪死する。広州市の高層ビル群の谷間に古い家がひしめく空間性、衝突と乱闘に紛れた事件の異様さ。国際派の反逆児ロウ・イエはここを起点にして、若い刑事ヤンが不動産会社トップと役人の癒着ぶりを追う捜査に肉薄する。中国の経済成長が不動産バブルを招く2000年代近辺、狂騒に踊る群像劇にカメラは分け入り、連関する怪事件を結ぶ核心へと、圧巻の機動力で突っ走る。「完全版」では検閲削除となった香港の探偵の挿話が復活。タンの妻リンに娘ヌオ、恋多き女たちが香港ノワール調の芳醇な時空に生動するのも見逃せない。

『シャドウプレイ 完全版』
監督/ロウ・イエ
2018年、中国映画 129分
配給/アップリンク
新宿K’s cinemaほか全国にて公開中
www.uplink.co.jp/shadowplay/index.html

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

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隣人間のこじれの本質を突き、切なくも喜劇的な現代の寓話。

『イニシェリン島の精霊』

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突然、「いい奴」が「どうでもいい奴」と親友に宣告されたら? コリン・ファレル演じる中年男は、フィドル弾きの友となじみのパブで酒を飲み、無駄口を叩き合う習慣を愛してきた。ある日、親友が彼をシカトする。余生を音楽に捧げるべく、彼との時間を「無駄」と断じて。時は1923年、沖合の本島アイルランドでは共存してきた隣人が争う、内戦の炎が絶えない。呼応するように、閑静な離島でも小さな火種が抜き差しならぬ事態へ雪崩を打つ。『スリー・ビルボード』の俊才が描くのは万物が張りつめ、響き合う黙示録的な小世界。バリー・コーガン演じる道化的な青年や名脇役の仔ロバは受難者の聖性を纏い、島に潜む精霊と融和する。今春の米アカデミー賞の有力候補の一角。

 

『イニシェリン島の精霊』
監督・脚本/マーティン・マクドナー
2022年、イギリス映画 114分
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン  
1月27日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開
www.searchlightpictures.jp/movies/bansheesofinisherin

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

*「フィガロジャポン」2023年3月号より抜粋

text: Takashi Goto

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