Netflixで猟奇殺人犯ドラマばかりが大当たりしている理由は?
Culture 2023.02.08
影に潜むサイコパスから、連続殺人犯は親近感のわくヒーローになった。心の充実感は味わえないが魅力を感じる。
「デクスター 警察官は殺人鬼」は、連続殺人犯でもあるマイアミ警察殺人課の鑑識官のデクスター・モーガン(マイケル・C・ホール)が主人公のドラマ。photography: photo presse
絶対的な悪、そして恐怖の存在。ハンニバル・レクター(『羊たちの沈黙』)、ノーマン・ベイツ(『サイコ』)、ミスター・カースド(『M』)などのカルト的なキャラクターと同様、人気となった連続殺人犯が愛の救済を求める姿を描いた「YOU―君がすべて―」のシーズン4が、2月8日に放送される。
数ヶ月前、10億時間の視聴時間を突破し、Netflixの歴史的な大成功を収めたのは、同じく再犯を繰り返す殺人鬼、ジェフリー・ダーマーを描いた「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」であった。
「連続殺人犯は、捕まることなく最も多く殺人を犯してきた人物であることから、人々を惹きつけます。その“成功”ゆえに、私たちは彼に全知全能の幻想を抱き、好奇心を刺激されるのです。私たちは想像できないことを行なっているのです」と、シリーズ書籍『L'Énigme des tueurs(連続殺人犯の謎)』の著者である精神科医のダニエル・ザグリー氏は言う。「動機がない以上、この超越的な姿は投影の源であり、死の天使、性的サディスト、殺人ロボット、復讐者など、様々に脚色し、フィクションの素材となります」。
犯罪ドラマやスリラードラマの人気を意識し、ヒット作を目指す脚本家や放送局にとって好材料となっている。仏AlloCiné(アロシネ)のストリーミング部門責任者で、仏有料テレビ局Canal+のコラムニストであるエミリー・セミラモスは、「2000年代のケーブルテレビの登場以来、「マッド・メン」のドン・ドレイパーのような苦悩するキャラクターがアンチヒーローというジャンルの人物を確立しました。そして、連続殺人犯が主役として受け入れられることに貢献したのです」と説明する。
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エヴァン・ピーターズはNetflixの「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」で、冷徹なジェフリー・ダーマーを演じている。photography: photo presse
エミリー・セミラモスによれば、連続殺人犯はかつて「今週のサイコパス」といった関心事ではあったが、主人公的な存在ではなかったという。「長い間、連続殺人犯はドラマ「メンタリスト」のレッド・ジョンのように、繰り返し登場する敵のような存在でした」と、フランス・インターとフランス2の朝の人気情報番組「テレマタン」のブノワ・ラガンは同意する。「しかし、誰もがアクセスできる無料テレビよりも、より攻撃的なコンテンツを提供することで注目を集める必要性に迫られたケーブルテレビやその後のプラットフォーム(Netflixなど)は、その他の視聴者層を意識したのです。2006年に「デクスター 警察官は殺人鬼」が登場した事で方向性が変わりました」。マイケル・C・ホール演じる主人公は、こうして血に飢えた衝動を満たしていたのだが、それは悪者を排除することに他ならなかった。「特にアメリカでは、ダーティハリー的な自警団への人気がいまだに根強いのです」とエミリー・セミラモスは分析する。
「デクスター 警察官は殺人鬼」は、長年にわたって、後継者的な作品を生み出してきた。新たなシチュエーションと感情移入できるような作品……。時には、嫌悪の対象を純粋な魅力の対象へと変貌させるほどの内容のドラマである。
「YOU―君がすべて―」では、4つのシーズンにわたって殺人犯から夫、そして父親になった主人公を親しみやすくしているのは、“救いの愛”という希望である。このシリーズの専門家はこう断言する。「殺人鬼の姿を通して、時代や社会を見つめるストーリーは、より興味深いものに思えるのです。「マインドハンター」や「アメリカン・クライム・ストーリー」シーズン2、ジャンニ・ヴェルサーチの殺人を描いた作品などがそうですね。しかし、「YOU―君がすべて―」の場合、主人公をロマンチックに描いています。彼の心理状態や強迫観念的な性格はあからさまに描かれているものの、何よりも、ハンサムで教養があり、魅力的な若者であることは間違いありません。理論上、理想的な夫なのです」。つまり、彼の犯罪衝動は、彼の人格の構成要素に過ぎず、大海の中の一滴にしか過ぎない、とも言える。
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1970年代最大の連続殺人犯のひとり、チャールズ・ソブラジをタハール・ラヒムが演じる「ザ・サーペント」をNetflixで配信中。photography: photo presse
ドラマの人気を博すため、ギャップで勝負することで活路を見出したクリエイターもいる。「「ハンニバル」では、ブライアン・フラーが自分の世界をアーティスティックに表現し、その美しさから、視聴者を惹きつけた」。シリーズの主役であるマッツ・ミケルセンが、魅惑的なことも影響している。他にも「ザ・サーペント」のタハール・ラヒムや「YOU―君がすべて―」のペン・バッジリーのように、”殺人犯”はますます魅力的になっているのだ。
「映画『羊たちの沈黙』では、アンソニー・ホプキンスが巧みに悪を演じ、人を操り、怯えさせ、目が離せませんでした。それに対して、「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」では、よりリアルな主人公を演じ、魅惑的にも描かれているのです。私たちはグレーゾーンに立ち入り、時に不穏な空気を感じるのです」とエミリー・セミラモスは述べた。
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アクセル・グランベルジェとアリゼ・コステスが、1970年代の連続殺人犯のカップル、アルベールとソランジュを演じた「黒い蝶」。photography: photo presse
フィクションの世界では、善と悪の境界線がますます曖昧になってきている。多くの人がその違いを見て善悪を判断することができる一方、これらのドラマの台頭は、救いを求める弱い人間が世の中に増えている証拠だ、と考える人もいるかもしれない。
有名になったことで、多くの殺人犯が刑務所の中でラブレターを受け取るようになった。「このような男性に恋をしてしまう女性は、かなり一貫した弱点を持っています」とダニエル・ザグリー氏は分析する。「彼女たちの思いは、“トランスフォーメーション”という考え方につながっています。残虐な行為を行う犯罪者と結婚したくはないけれど、愛の力で彼らの救済のエンジンになりたいと考えています」。こうしたフィクションドラマは、実際の人物像を軽く描き、時にロマンチックなファンタジーを生み出す一因となった。「“魅力的な商品”になることで、連続殺人犯はすべてを語ることができます。しかし、すべてのトレンドがそうであるように、このトレンドもそのうち終わりがきます。このトレンド以前は、テロリストでしたから」とブノワ・ラガンは述べる。
今日も新たな「悪役」がドラマに登場している。例えば、人食い鬼や、女性を襲う#MeToo以降の絶対悪の存在など。ハーヴェイ・ワインスタインは、イアン・ブレナンとライアン・マーフィーが手がけたNetflixのアンソロジーシリーズ『モンスター』のいずれかのシーズンに出演するのに最適だろう。
text: Marilyne Letertre (madame.lefigaro.fr) translation: Hanae Yamaguchi