社会格差に孤独感、不完全の男女が描く青春物語。

Culture 2023.03.18

『ノーマル・ピープル』

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サリー・ルーニー著 山崎まどか訳 早川書房刊 ¥2,860

前作『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』が日本でも話題になった作家サリー・ルーニーの長編2作目。すでに世界的なベストセラーとなり、映像化もされている本作は、アイルランドの小さな町で育ったマリアンとコネルの4年におよぶ恋愛関係を綴った青春小説だ。

富裕層の家庭に生まれたマリアンは友達もおらず、高校でも浮いた存在である。早くに父親を亡くし、冷淡な母親と暴力的な兄と暮らしながら、人知れず自己肯定感をすり減らしている。対して、コネルは労働者階級の生まれであるが、シングルマザーの母親に愛情を持って育てられた。高校ではサッカー部のエースで、ルックスも抜群という人気者。一見すると接点がないように思える二人だったが、掃除婦であるコネルの母親がマリアンの家で働いていたことから親密になり、恋人とも友人とも言えない、時としてそれ以上の関係が始まっていく。

物語はマリアンとコネル双方の視点で語られていくのだが、二人の間にはいつも格差が横たわり、それが不和を生んでいるのが分かる。高校のスクールカーストで上位にいるコネルは、はみ出し者のマリアンとの関係をひた隠しに、彼女を深く傷つける。だが、二人がダブリンの大学に進学すると立場は逆転。都会の裕福な学生たちに引け目を感じるコネルは目立たない存在となり、生活に困窮してもマリアンに打ち明けることができない。一方、マリアンは出自が近い富裕層の友人に囲まれ、高校では見向きもされなかった魅力を発揮していく。

二人は属するコミュニティの同調圧力や格差、また個々が抱えている問題によって何度も引き離されるが、同時にその反動としての安らぎや性愛も享受していく。様々な背景から織りなされる混乱と矛盾が甘美にスパークし、若い二人を唯一無二の相手として強く結びつけるのだ。

人間は誰もが不完全であり、だからこそ他者を必要とする。そんな普遍的な人の営みを、ものすごい説得力で描き出している。

文:岨手由貴子/映画監督
1983年長野県生まれ。監督・脚本を担当した『グッド・ストライプス』(2015年)で長編映画デビュー。監督作品に、山内マリコ原作の小説を映画化した『あのこは貴族』(21年)などがある。

*「フィガロジャポン」2023年4月号より抜粋

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