契約打ち切りのカニエ・ウェスト、コラボスニーカーの行方は?
Culture 2023.03.22
カニエ・ウェストとのコラボレーション解消後、アディダスはラッパーと共同で開発したラインから生まれた製品の行方について検討している。
9年近くの間、Yeezyのプラスチックサンダルやスニーカーのおかげで、ドイツのスポーツメーカー、アディダスの業績は好調だった。しかしそれはカニエ・ウェストが反ユダヤ主義的な発言を度々繰り返すようになった2022年10月までの話だ。アディダスと協力してこのラインを立ち上げたラッパーは、アディダス側から即座に契約を打ち切られてしまった。雑誌「フォーブス」の試算によると、カニエは1日で15億ドル(約2000億円)の資産を失ったという。この経済的痛手によってビリオネア・サークルからも脱落している。
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数億ユーロ相当の売れ残り。
この破局によって、ラッパーとタッグを組んできたアディダスの業績も急激に悪化することとなった。フォーブスの試算によると、契約打ち切りまでヒットを飛ばし続けてきたこのラインの2019年の売上高は13億ドルに達していた。アディダスが発表した声明によると、Yeezyの在庫品を販売しないことにより、売上高は12億ドルの減少が予想され、営業利益は5億ユーロ減少し、2023年に同社は総額7億ユーロの事業損失を抱えることになるという。「現在、私たちは見込んでいたほどの成果を上げていない」と、今年1月にプーマから移籍し、アディダスの最高経営責任者に就任したビョルン・ガルデンは年明けに発表した財務見通しのなかで厳しい状況について触れた。それでも最後は「私たちはアディダスを再び輝かせることができると確信している」という前向きな一言で締めくくっている。
とはいえ、眠っている在庫をどうするかという重要課題を解決しなければならない。この山のような売れ残り品は金額にして数億ユーロ相当と推定されている。正確な内訳は不明だが、論争の巻き添えを食った商品の未来が気がかりだ。先の2月9日、アディダスは「Yeezyの在庫品の利用に関する将来の選択肢を検討している」ことを明らかにしていた。
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問題のコレクションの末路。
イメージはぼろぼろとはいえ、再販という選択肢もある。2022年11月にアディダスの財務責任者のハーム・オルマイヤーは雑誌「インサイダー」のインタビューに応じ、アディダスが「既存製品および、過去の製品や今後の業務提携から生まれる新製品に関するすべての意匠権の単独所有者である」ことを強調した上で、自社名義という形であれば該当するモデルを販売する意図があると述べていた。現在のところ、この解決策は実行されていない。であるならば、Yeezyのスニーカーはどこでひっそりと最後を迎えることになるのだろう? いくつかの可能性が考えられる。
世界で人気を誇っていたYeezyブランド、今後どうなる?
捨てる? 売れ残り品を廃棄することは環境保護の観点からすれば非常識だが、アパレル産業においては慣習化されている。しかし廃棄を行う企業にとってブランドイメージという点でこの手段はしだいに厄介なものになりつつある。また、廃棄処分に関する罰則が強化される傾向もある。多くの国が生産者の責任という概念の拡大を検討しており、アパレルブランドは衣類のライフサイクルの最後の段階まで責任を負うことが求められている。現在のところフランスはメーカーによる売れ残り衣類の廃棄を法律で禁止している世界で唯一の国だ。
それでは寄付をしなければならなくなるのだろうか? Casa93をはじめ、フランスのいくつかのファッション専門学校では、ブランドから寄付されたアイテムを素材として再活用している。非営利団体の中には、すでにアディダスと連携関係にある団体もある。受益者名は挙げていないものの、国際協力関連組織への寄付は主要な事業のひとつであるとアディダスは明言している。
ではリサイクルはどうか? アディダスはすでにこの方向に舵を切っている(2024年までに製品の再生ポリエステル利用率を100%にするという目的を掲げている)。海底に堆積したプラスチックごみを回収する事業を行うParley for the Ocean基金と協力してこの手続きを進めて行くという。
スニーカーのリサイクルに関しては、レーベル「Made to be Remade」の枠内で再利用可能な商品として開発されたモデルのみが対象となっている。経済的課題と倫理的課題が拮抗するこの案件には、世界第6位の環境汚染産業(The Eco Experts 2022による)のアクチュアルな問題が凝縮している。新たな模範的事例となるかもしれない。
text: Mitia Bernetel (madame.lefigaro.fr)