セレブたちとのセルフィーで大ハシャギ! オスカー受賞のキー・ホイ・クァンがハリウッドに愛される理由
Culture 2023.03.23
現地時間3月12日に開催された第95回アカデミー賞で、「エブエブ」こと映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で助演男優賞を獲得した、ベトナム系アメリカ人のキー・ホイ・クァン。このカテゴリーを受賞するアジア人で、史上2人目という快挙だ。
そんなキーがオスカーを受賞したとき、プレゼンテーターのアリアナ・デボーズは涙ぐみながらキーの名前を読み上げ、会場中が温かい祝福ムードで彼を壇上に迎えた。受賞スピーチで「私の旅はボートから始まりました。私は1年間難民キャンプで過ごし、そしてどういうわけか、今、ハリウッドで最も大きな舞台の上に居ます。こんな話は映画の中でしか起きないと誰もが言いますが、私も、今自分に起きていることが信じられません。これはアメリカン・ドリームです」。
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そう、これは51歳のキーが起こした奇跡。1978年にベトナム戦争後のベトナムから家族と脱出して香港の難民キャンプで過ごしたあと、L.A.に渡り80年代に映画『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』や『グーニーズ』で一躍人気子役スターとなったキーだが、その後はアジア人のための大きな役がないハリウッドでキャリアは鳴かず飛ばず。一度は俳優を休業して南カリフォルニア大学に入学して映画を学び、スタント・コーディネーターと助監督として、裏方に回った。今回のカムバックまでは、俳優業はおろか、健康保険にも加入できずに居たと言う。
そんなキーに妻のエコーは「あなたならできる」と励まし続けた。「すべては妻のお陰です。この20年以上、来る日も来る日も妻は僕に言い続けました。『いつかあなたの時代が来る。あなたの夢を信じなきゃダメよ』」。しかし夢をあきらめかけていたキーは、イライラしてこう言い返したこともあった。「君はそう言い続けてるけれど、そんなことちっとも起きないじゃないか」。キーにとっても20年は短い時間ではなかったのだ。
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けれど2018年に、今回のエブエブの共演者が主演した映画『クレイジー・リッチ!』がアメリカでヒットしたのを観て刺激を受けたキーは再び俳優への情熱を取り戻す。そこから数年は、3ヶ月から6ヶ月おきにエージェントに連絡をして、何か仕事がないかを聞く日々が続いた。その度に答えは「ノー」。
今回の出演は、『グーニーズ』で共演した元子役俳優で、現在では弁護士となったジェフ・コーエンの交渉によって叶ったもの。キーは妻だけでなく、元共演者にも愛されているのだ。そして今回の授賞式の壇上では、エブエブが最優秀作品賞を受賞した際、プレゼンテーターを務めていたハリソン・フォードと、インディ・ジョーンズでの共演以来、約40年ぶりのハグを果たし、観る者の感動を呼んだ。インディ・ジョーンズの監督、スティーブン・スピルバーグには客席で、「君はいま、オスカー俳優になったんだよ」と声をかけられたと言う。
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そんな奇跡を果たした今の喜びを味わい尽くすかのように、キーのインスタグラムにはアカデミー賞で出会った様々なスターたちとの記念セルフィーが並ぶ。まるで一般人のように、トム・クルーズからジェームズ・キャメロン監督まで、スターたちとのセルフィーではしゃぐキー。そんな彼にニコニコ顔で写真に応じるセレブたち。キーがハリウッドから愛されていることがわかる。同業者だからこそ、アジア人のキーがハリウッドという未だ白人優位の業界で30年ぶりに復活を遂げたことがどんなに大変なことだか、みんな理解し、リスペクトを送るのだろう。一度はエージェントに薦められて、アメリカ人風に「ジョナサン・キー・クァン」と改名したキーが、ベトナム名に戻してこの賞を受賞したことにも意味があるのだ。「アリアナが封筒を開けて僕のベトナム名を読んだことに、とても心を動かされました」。
しかしオスカー俳優となったいまも、キーはこの成功が一度限りで終わってしまうのではないかと不安に思っている。授賞式翌日に行われた米ヴァニティ・フェア誌のインタビューでは、授賞式で隣りに座っていたケイト・ブランシェットに「次に何をしたらいいかわからない」と相談したと言うのだ。
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「僕をサポートしてくれる人たちを失望させたくない」というキーに、ケイトはこう答えた。「あなたのハートに従って、無責任になっていいのよ。他の人々がどう思うかなんて心配しないこと。あなたが信じるものを選び、あなたが愛するものを選ぶこと。そうすれば上手く行くわ」。
「ディズニープラス」制作のマーベル作品に出演が決まっているキーだが、まだまだ仕事を探しているところだ。「明日真っ先にやることは、エージェントに電話をかけることです。願わくば、彼がノー以外の返事をくれるといいのですが」。30年ぶりに掴んだ成功。しかしキーの挑戦はまだまだこれから。
「夢は信じなければ叶わない。僕はほとんどあきらめかけていました。すべての人たちに伝えたいのは、あなたの夢を追い続けてということです」。
text: Moyuru Sakai