30余年ぶりにCDの売り上げを上回る、レコード盤の魅力とは?
Culture 2023.04.01
音楽のストリーミング配信が主流となっている中、レコードの良さが見直されているようだ。アメリカレコード協会が今年3月に発表したデータによると、2022年のアメリカ市場での売上枚数において、レコードがCDを上回っていたことが明らかになった。
photography: iStock
3300万枚を売り上げたCDに対し、レコードは4100万枚となり、大きな差が付く形となった。1988年にレコードがCDに抜かされて以来、初の快挙となる。もっとも、収益ベースでは音楽市場全体の84%をストリーミングが占めており、デジタルへの移行が依然として主流となっていることも浮き彫りになった。
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本物のサウンドがここにある…レコードに入れ込む熱心なファンたち
レコード人気の大きな要因のひとつは、その独特のサウンドにあるようだ。米テックメディアのヴァージは、主観によるところが大きいとしながらも、「多くのオーディオマニアたちは、レコード盤はデジタル盤に比べて温かみがあり、より本物らしいサウンドを奏でると口をそろえている」と解説している。
同記事は、レコードの黄金期を生きた人々が再びノスタルジーに駆られていることに加え、若い世代もレコードを購入していると報じている。レトロな音の響きだけでなく、大判ならではのアートワークも魅力になっているようだ。昨年レコード盤を最も売り上げたのは、約170万枚を販売したテイラー・スウィフトであり、これはビートルズの55万3000枚を凌ぐ数字だったという。
2022年にはレコードストアデイのアンバサダーも務めたテイラー・スウィフト。
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一時は押しやられたレコードだが……
米スミソニアン誌によると、LPレコードが初めて市場に登場したのは、第二次世界大戦の終結直後の1948年。米コロムビア・レコード(現ソニー傘下)から12インチ版が発売され、片面最大21分の音楽を奏でたという。
1979年、ソニーがウォークマンを発売すると、外出先でも楽しめるカセットテープが人気を博すようになり、レコードの売上は徐々に低迷した。その後もCDやiPodなどの登場により、市場は衰退の一途を辿った。
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デジタルブームの現在、媒体に触れることが最大の魅力に。
だが、2008年頃を境に、レコードが再び脚光を浴びるようになる。ニューヨーク・タイムズ紙は2021年、「コレクション性、音質、そしてシンプルに言って、デジタルブームの時代において、音楽を触るという経験ができること」がリスナーを魅了しているのだと論じている。
技術ニュースを報じる米アーズ・テクニカも同様に、「LP盤にはアート作品としても十分な大きさがあり、また、物理的なオブジェクトとして触ることができることから、メディアが儚い(デジタルの)存在となった時代に魅力を放っている」と分析している。
アート性の高いレコードジャケットもLP盤の人気の秘訣のようだ。
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売上額ベースでは16年連続の伸び
アメリカレコード協会によると、デジタルのストリーミングやダウンロードではない物理的な媒体を購入する人々は、2021年を契機に増加傾向にあるという。昨年の物理媒体全体の売上は17億ドルで、前年度比4%増を記録した。
収益ベースでは、レコードは2020年の時点ですでにCDを抜いていた。昨年のレコードの売上は前年比17%増の12億ドルで、16年連続で売上額を伸ばしている。2020年には新型コロナウイルスの影響で物理媒体全体の売上が落ち込んだが、そんななかでもレコードは堅調な伸び幅を確保したという。
近年アメリカでは、オーディオテクニカやソニーなどから、Bluetooth接続など最新の技術に対応したレコードプレーヤーが登場している。レトロブームに乗り、レコードへの回帰はまだまだ続きそうだ。
text: Yamato Aoba