行動力ハンパない!フランスのK-POPファン事情。

Culture 2023.04.15

これはひとつのカルチャーレボリューション。メイド・イン・ソウルの音楽が世界中を席巻している。アイドルのためなら頑張れる——熱狂的なK-POPファンを後押しするのは、各レーベルの緻密なデジタルマーケティングだ。フランス国内のK-POPファンの実情を、本国「マダム・フィガロ」がリポート。

 

K-POPで最も影響力のある女性グループのBLACKPINK(ブラックピンク)。ウェブでの動画累計再生回数やチャンネル登録者数で記録破りの数字を達成している。

コロナやロックダウンで一気にデジタル化が進み、世界が一変してしまう直前の2019年末。テキサス州エルパソ大学でジャーナリズムを専攻していた学生のマリアム・ラゲブは、自分の人生が「あまり楽しくないし、生きる甲斐がない」と感じていた。ウェブメディア「ボーダージン」にマリアムが執筆した記事「K-POPファンのユニークな体験について」の中にもそう書かれている。マリアムの世界を一変させたのは、ノートパソコンで再生した1本の動画だ。

そこにはカラフルなカリフォルニアの世界が広がっていた。映画館の前で7人の若者たちがビートに合わせて踊っている。ピンクのビッグジャケットを着た彼らは、つやつやと整った顔立ちをしていて、ドリアン・グレイの肖像を未来っぽくマンガ化したらこんな感じだろうかと思ってしまう。若者の名前はSUGA(シュガ)、J-HOPE(ジェイホープ)、RM(アールエム)、JIMIN(ジミン)、JUNGKOOK(ジョングク)、JIN(ジン)、そしてV(ヴィ)。

それぞれが個性をだして歌いながらもリフレイン部分ではぴったり合わせてくる。「Oh my my, oh my my, You got me high so fast」の歌詞が繰り返される曲、「Boy With Luv」は、BTS(Bangtan Sonyeondan(=バンタンソニョンダン「防弾少年団」)の頭文字をとったグループ名)のヒット曲のひとつだ。

世界進出したBTSは、6曲がビルボードで1位を獲得するという、ビートルズ以来の快挙を涛の勢いで達成し、契約しているエンターテインメント企業「HYBE(ハイブ)」の企業価値を80億ドルまで押しあげた。韓国のソフトパワーは外貨獲得や観光客増にも貢献し、日本勢の旗色はやや悪い。

K-POPの代表作、BTSの「Boy With Luv」のビデオ

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熱狂的で行動力のあるファンコミュニティ

韓国カルチャーを伝播する「韓流」の世界を知り、マリアムは、K-POPのカラフルさになじみ、ファンのお作法を覚えた。ダンスの振りを覚えてスマホで自撮りしたり、ライブ中に振って応援するための限定盤ライトスティックを特定のサイトで購入したり、好きなドラマを見るように好きなアイドルの好みを調べたり、 韓流ドラマを見ながらラーメンや「チョコパイ」を食べたり。芸能事務所が子どもをスカウトし、何年もかけて訓練する仕組みも興味深い……。

「K-POPに出会う前はオルタナティブ・ロックにはまっていました」とマリアムは言う。「考えてみると、この世界で唯一無二という感覚は、K-POPファンになってはじめて味わえるものです」とも。

K-POP教が世界的に広まる兆しは、2012年にヒットしたミュージックビデオに見つけることができるかもしれない。髪をなでつけ、タキシードのような衣装をまとって乗馬ダンスを披露した小太りのラッパーの名前はPSY。「江南スタイル」のヒットにより、世界で初めてYouTubeの再生回数10億回を記録したアーティストとなった。そして以後、韓国はますます注目されるようになる。

 

それからのK-POPファンはアイドルの振りを自撮りし、TikTokやInstagram、YouTubeでビデオを拡散させるなど、SNS上の活動に情熱を注いだ。振り付けの中にはとても高度なものもある。高額なコンサートのチケットも惜しくない。子どもたちのポケモンカードのように、人気のボーイズバンドやガールズバンドのカードを集めるファンもいる。

こうして、憧れのアイドルへの献身的な思いと、彼らの人気アップに貢献したいという願望が、4千万人の会員に結実した。K-POPのスーパースター、BTSの公式ファンクラブ、ARMY(アーミー)だ。正式名称は「Adorable Representative MC for Youth(若者を代表する魅力的なMC)」という。ファンは自分たちがマーケティングに踊らされていることを認識しつつ、人道的な目的のために動いたり、SNSで翻訳活動をおこなったりしている。これがきっかけで、難解な韓国語を習う人も増えた。

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社会問題にも関与

結束の強いファンコミュニティは、社会問題にも関与している。米国でK-POPファンは、「BLACK LIVES MATTER」運動に賛同し、ダラス警察がデモ参加者を特定するために設置したアプリをハッキングしたり、人種差別による暴力の被害者の家族やアクティビストへの寄付を募ったりしてきた。

K-POPファンは、トランプ元アメリカ大統領を笑いものにすることにも成功している。2020年6月20日の夜、トランプ元大統領は盛況になるはずの選挙集会に出席するため、オクラホマ州のタルサに意気揚々とやってきた。ところが、予想とは裏腹に会場のスタジアムに空席が目立った。それはK-POPファンや一部のティックトッカーがSNSの知識を駆使して、この集会のチケットを何千枚も予約したからだった。もちろん、出席するつもりなどさらさらない。社会学的にみて、世界のK-POPファンが若くてデジタル技術に通じ、人種的、社会的、性的マイノリティに属し、社会問題に関心があることを知れば、こうした事態が起きたこともうなずける。

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お金がかかる

フランスの俳優アフィド・ブナマルは、フランスでエリック・ジュドール主演ドラマ「プラターヌ」(Canal+)や「ウィークエンド・ファミリー」(Disney+)などでおなじみの顔だ。実はK-POPファンとしても知られている。「K-POPが恐ろしいのは、なにか一曲好きになっただけで(自分の場合はWONDER GIRLS(ワンダーガールズ)だったけれど)“沼落ち”してしまうところだ。一年後に気付くと深みにハマっている。韓流ドラマから韓国映画、ハングルまでなにもかも。そしてそんな状態になるとこんなふうに思うようになる。“この人たちはすごく進んでいる、自分はなんて遅れているんだ”って」

2010年代初頭、まだ誰もほとんど知らなかった頃からのめりこんだアフィドは、撮影時に同国のポップカラーTシャツを着るなど自らK-POPのボランティア大使を買ってでた。「おかげで韓国から好意的なメッセージをたくさんもらったし、韓国のメディアからもK-POPをリスペクトするTシャツを着るフランス人として取り上げられた。トレンドを先取りして、後から大きな波が押し寄せてくるのを眺めているのは気分がいいね。頭のいい奴ならTシャツのブランドぐらい創っちゃうところだろうけれど、まあ、俺はマーケティングが得意じゃないから」

 

こうして第四世代のアイドルたち、ストレイキッズ、ブラックピンク、BTS、ルーナ……の波が押し寄せ、アメリカの歌姫ビリー・アイリッシュアリアナ・グランデテイラー・スウィフトらとストリーミングでもチャートでも、対等に競いあうようになった。

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超洗練されたバーチャルな世界

パリ2区のレオミュール=セバストポール地区に、タピオカティーとラーメン専門のコンセプトショップ兼ティールームがある。店内には、大学生や高校生らの女子グループがたむろしている。店が賑わうのは午後2時ぐらいから。店内には韓国本もたくさんある。派手な表紙の韓流ドラマ専門誌や『BTSと一緒に韓国語を学ぼう』という語学本、この店のベストセラーの『K-POPドリンク』や『韓国のアイドルグループをイメージした30のレシピ』など。グッズも売っていて、トートバッグ、Tシャツ、美容アイテム、袋ラーメンのセレクション、おしゃれなパッケージのライトスティックもある。

ガラス張りの店の正面には、キックカフェ(Kick Café)と店名が掲げられている。名前は「K-POP is for cool kids(K-POPはクールキッズのためのもの)」というマニフェストから取った。「2021年5月にキックカフェをオープンしました。多くのメディアはK-POPファンをセンスのないヒステリックな子ども扱いしますが、そうではなくおしゃれなイメージを持ってもらえる場所を目指しました。これはファッション関係の仕事をしていた頃よく体験したことなのですが、同僚にK-POPが好きだと話したら、哀れみの目で見られて、“本物の音楽を聴かせてあげようか、アラン・バシュンとか”と言われたものです」

元気なマシンガントークが止まらないのは28歳のオーナー女性、サバンナ・チュオンだ。マーケティングを学んだのち、エルメスのファッションショーを制作する会社に何年か勤めた経験がある。韓国のポップカルチャーの世界に関わりたいという夢を実現しようとキックカフェを創った。

話は2008年にさかのぼる。サバンナは韓流スターとしてはじめて世界進出を果たしたヒップホップ系グループ、ビッグバン(BIGBANG)のファンになった。リーダーのG-DRAGONはK-POPのキングと呼ばれ、強烈なカリスマ性の持ち主。それまでアングロサクソン系のロックバンドが好きだったサバンナだが、韓国語を学びはじめ、K-POPの世界や韓国の伝統にのめりこんだ。ラテを飲みながら、彼女は、「はまったきっかけはミュージックビデオです。韓国では、映像の美しさを追求するために、レーベルがビデオ制作に100万ドル以上を投じることもあります。結果として、パソコンの画面を通じて美意識の高い、超洗練された世界にアクセスすることができるのです」と熱く語った。パソコン慣れした世代に、理想的なバーチャルワールドを体験してもらうために投じるお金は、決して無駄ではない。

開業前に作成した事業計画書にはこんなふうに書いたそうだ。「ファン、特にK-POPのファンは、とてもバーチャルです。パソコンで好きなアーティストの情報を探したり、ほかのファンと画面上のフォーラムでおしゃべりしたりする時間が長いのです。でもこの2年間のコロナ禍で誰もがあまりうれしくない隔離を経験した結果、バーチャルなカルチャーの逆転現象が起こりました。今日、誰もがライブを体験したい、リアルな友だちを作って好きな気持ちを共有したいと思っているのです」

ソウルに何度も足を運び、いくつかのノウハウを得てキックカフェのビジョンを完成させた。K-POPファンを取りこむには、韓国カルチャーに精通する必要がある。レコードの発売日、イカゲームなどの韓流ドラマの配信日、コンサート公演日、あるいは単純にアイドルの誕生日などに、ファンを集めるイベントを企画できれば、あとはSNSパワーやファンの口コミ、レコード会社やプロモーターとの連携でうまくいくはず。

取材当日は、韓国大手のハイブ社期待の新人、TXT(TOMORROW X TOGETHER)の結成記念日イベントがおこなわれていた。この5人組は、BTS以来のK-POPボーイズバンドになるかもしれないと言われており、BTSのメンバーが兵役に行っている間、ファンをつなぎとめる効果も期待されている。壁に色とりどりの風船が留められ、TXTの文字のバルーンアートが飾られていた。

 

パリのキックカフェでは、K-POPアイドルたちの誕生日に合わせたさまざまな特別メニューも提供されている。

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どんどん拡大する

「バンドの結成記念日とか振り付け、コンサートに関連したイベントは、韓国のカフェで行われてきたファンカルチャーとほぼ同質のものと言えるでしょう」と、DJ Warsの名で知られるリュカは言う。「ファンが多くなればなるほどファンコミュニティ内で集まる金額も大きくなり、金額が大きくなればなるほど盛大なイベントを開催できるようになり、アイドルの人気も上がる。際限のないループです」とリュカは言う。

ソウル生まれリール在住のリュカはリミックスでK-POPの甘酸っぱいメッセージを伝えはじめた初期DJのひとりだ。自分を育んだポップカルチャーはいまも好きだが、BTSやBLACKPINK(ブラックピンク)の成功以来、無邪気なファン活動がマーケティング戦略となっていることが気になる。「要するに、ひとつの曲を4つの違うバージョンで発売してファンが全部買うように仕向けているのです」と言う。購入特典のフォトカードを手に入れれば、あわよくば高く転売できるというわけだ。

いずれにせよ、フランスはいまや韓国カルチャーの影響が強い国のランキングで18番目に位置する。化学専攻の学生、アンヌ=フロールとエリーズは、韓国のくるみ菓子、ホドゥグァジャを食べながら、別なファンの女性と話しこんでした。

その女性は、翌週コンサートがあるボーイズグループATEEZグッズ目当てでポップアップストアに行ったものの、めぼしいものがなかったとがっかりしている。「もっと早く行くべきだったわ。ライトスティックはもう全然なかった。大きすぎるTシャツばっかり」と文句を言いながら、フランスのK-POPファンがまだマイナーな存在だった4年前を懐かしむ。アジア系移民が多く暮らすパリ13区で集会を開いたり、KPOPカフェの雑然とした棚に置いてある専門誌に目を通したり、CDを何枚か購入したり、タピオカティーをすすりながらファン同士知り合ったり。なにもかもがリアルだった。

「高層ビルの立ち並ぶ一角で、パリや郊外から集まってきた熱狂的なK-POPファンたちが、スピーカーでお気に入りの曲を流していた」とアンヌ=フロールは当時を振り返る。「だから一緒になって自分のレコードを流したり、歌ったり踊ったりしていた」と言うと、少し間を置き、「ファンのことをどうこう言うのは勝手だけど、私はK-POPのおかげで他人との距離を縮めることができたわ」とメガネをかけなおしながら言葉を続けた。

キックカフェの地下では、ちょうどカラオケが始まったところだ。30脚ほどの椅子がすべて埋まっている。オーバーヘッドプロジェクターとポータブルスピーカーがあれば、誰もが声を合わせて、時には韓国語で歌うことができる。「昔はK-POPもアンダーグラウンドミュージックだったけれど、いまは違う。しょっちゅうコンサートがあるし、前は馬鹿にしていた人たちが行きたがっている」と、エリーズはウェルカムプレゼントとして用意されたアイドルカードのディスプレーをじっくり眺めながら語る。

アンヌ=フロールも同意見だ。「K-POPにお金を注ぎ込んでいるからなかなか大変。最近だとコンサートに備えて新しいライトスティックを買おうと思ったけれど高すぎた。そうしたら、政府が若者の文化活動資金を支援するプログラム、『カルチャー・パス』でも買えることがわかった。そんなことができるようになるなんて想像もつかなかったわ……」

text:Jean-Vic Chapus (madame.lefigaro.fr)

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