ゴールデンウィークは劇場へ! 今月観たい映画3選。
Culture 2023.05.01
無垢な存在が現代を旅する、受難と恩寵のフォークロア。
『EO イーオー』
サーカスの少女の愛撫と人工呼吸でイーオーが息を吹き返す。団長の苦役に耐えてきたこの愛くるしいロバが主人公。動物虐待反対デモの結果、流浪の身となるイーオーは、片田舎で農耕馬にされるも役に立たず放逐され、弱小サッカーチームの勝利に貢献して歓待を受けるも敵側の暴徒に襲撃される。つぶらな瞳のピュアな存在が被る受難の数々。その都度、少女に愛された記憶に促されるようにイーオーは蘇生する。ポーランドの伝説的鬼才スコリモフスキはブレッソンの傑作『バルタザールどこへ行く』を霊感源に、84歳の反逆精神でこれを創作。硬質の詩情を湛えた残光や鐘の音が啓示となり、終映後もイーオーが隣に居るよう。カンヌ国際映画祭で審査員賞と作曲賞を受賞。
監督・共同脚本・製作/イエジー・スコリモフスキ
2022年、ポーランド・イタリア映画 88分
配給/ファインフィルムズ
5月5日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開
https://eo-movie.com
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宿なし娘の危険な魅力が、パリの母子を活気づける。
『午前4時にパリの夜は明ける』
パリ、1981年。シャルロット・ゲンズブール演じるシングルマザーは、深夜ラジオのDJとリスナーを繋ぐ電話係に採用される。ある日、リスナーの少女タルラが捨て猫みたいに道端に佇むところを、元夫が残した空き部屋に泊めてしまう。高校をサボりがちな息子マチアスが、案の定、深追い危険な恋をする。活発さとかげりの危うい均衡が夭逝の80年代女優パスカル・オジェを連想させるタルラとのデート。間違えて潜り込んだ館内では、オジェ主演の『満月の夜』が上映中という粋な挿話も。『アマンダと僕』の俊才は母子関係を含めた「夜の乗客」同士の間合いを計測し、深夜の煩悶が夜明けの回復へ向かう推移に7年の歳月を託して、時にためらうように、時に決然と描き出す。
監督・共同脚本/ミカエル・アース
2022年、フランス映画 111分
配給/ビターズ・エンド
4月21日より、シネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
https://bitters.co.jp/am4paris
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クール&ポップ感覚に乗せた、モンゴル発の都市型コメディ。
『セールス・ガールの考現学』
草原、ゲル(移動式住居)、山羊の乳といった定番を覆し、都市生活のいまを活写するモンゴル映画の新潮流。煉瓦塀のゴミ箱から滑り落ちたバナナの皮を通行人の誰が踏むか、を真横の構図で捉えたコント風の様式美がまず楽しい。足を挫いた友人にバイトの代理を頼まれ、女子大生サロールが出向くと、そこは怪しげなアダルトショップだ。断るつもりが、女性オーナーのカティアと意気投合。1990年春に独裁政権が倒れるまでの荒波を、花形ダンサーとして生きたカティアに性愛と人生の指南を受けるうち、サロールの化粧っ気ゼロの日常がゆるりと色ツヤを帯び始める。70年代以来、時が止まった豪邸にカティアは猫と憩う。このカルチャーギャップコンビの空気感が絶品。
監督・脚本・製作/センゲドルジ・ジャンチブドルジ
2021年、モンゴル映画 123分
配給/ザジフィルムズ
4月28日より、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開
www.zaziefilms.com/salesgirl
*「フィガロジャポン」2023年6月号より抜粋
text: Takashi Goto