ロスチャイルド家の後継者が語る、大富豪の"倹約生活"と不穏な家族関係とは?

Culture 2023.07.03

アメリカのドラマシリーズ『メディア王〜華麗なる一族〜』を地で行くような名門一族、それがロスチャイルド家だ。一族のひとりで作家のハナ・ロスチャイルドが、新作小説『High Time』の7月刊行を控えた6月8日、イギリスのオンラインメディア「インデペンデント」紙のインタビューに応じた。

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クリーヴデン文学フェスティバルでのハナ・ロスチャイルド。(ウィンザー、2021年10月24日) photography: Getty Images

「あんなドラマみたいな暮らしなんてしていないわ」とハナ・ロスチャイルドは言う。彼女はイギリスのロスチャイルド家当主、ジェイコブ・ロスチャイルド男爵の長女だ。母親のセリーナ・ダンは競走馬のオーナーとして知られていたが、2019年に亡くなっている。現在61歳のハナは4作目の小説『High Time』を7月11日に上梓する予定だ。6月8日の「インデペンデント」紙で家族について語った。ロスチャイルド家は銀行業で財を成し、100年前は世界一の大富豪だった。

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ドラマとは違う

ハナによれば、アメリカの人気ドラマ『メディア王〜華麗なる一族〜』の主人公、ローガン・ロイのような暮らしを自分の父親はしていない。「本当に、あんな暮らしじゃないの」とハナは繰り返した。父親はむしろ「とても倹約家」だそうだ。「父なら、プライベートジェットで世界をかけまわるなんてとんでもない、お金をドブに捨てるようなものと言うはず」と断言すると、ドラマの一族と彼女の家族に共通点があるとしたらただひとつ、「どちらも家族が機能不全に陥っていること」とやや不穏な発言をした。

ハナは父親が亡くなっても男爵位を継がない。イギリスの法律で爵位は男系長子相続優先となっているためだ。確かに現在のロスチャイルド家では、ハナの弟ナサニエル、通称ナットのせいで家族がギクシャクしている。ナットがロサンゼルスとスイスを精力的に往復する生活を送っていることを父親は快く思っていない。一方、ハナは父親とこまめに連絡を取りあう仲だ。「父親との関係は悪くない。男の子は父親とあまり仲が良くないのが普通でしょ。父と私は全然問題ない。うまくいっている」

ユーモアのセンスも似通っているそうだ。「ストレス過剰気味のときにはこれがとても役に立つのよね」とハナ。ロスチャイルド家も実はまもなくドラマ化される。『ダウントン・アビー』の脚本家、ジュリアン・フェロウズとプロデューサーのジェマイマ・ゴールドスミスが手がける予定だ。

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仕事の合間に執筆活動

ハナは、ロンドンのナショナル・ギャラリーで女性初の理事長を務め、一族の銀行経営にも女性として初めて関わるなどアートや金融の世界で活躍してきた。彼女の新作小説『High Time』には、そんな経験が活かされている。主人公のアイシャは実業家の夫から虐待されている。孤独な結婚生活はやがて破綻し、アイシャは娘の親権を獲得するために立ちあがる。著者にはおなじみの世界だ。「ある程度自分が知っていることについて書かないと......“お払い箱”になっちゃう」とハナは冗談めかした。

彼女は現在、父親が創業したRITキャピタルの役員を務めながら、イスラエル発展のための資金提供をおこなうヤド・ハナディヴ慈善財団の議長を父親から受け継ぐ等、様々な責務を引き受けている。小説はその合間を縫って書いているそうだ。

執筆作業は「浮気している」ようなものだと言う。「私が執筆活動をすることは基本的に想定されていないから、パソコンを持ってコーヒーショップに行ったり、ホテルにこもってみたり、1日か2日、姿をくらましたりしている」

作家になる夢が実現したのは遅く、50歳になってからだった。「30年以上、せっせと書きつづけた。自分の書くものがいいと思える自信がなかったのだと思う。加えて自分の文体もいわば模索状態だった。断りの手紙は自室の床を埋めつくせるほどもらったわ」と修行時代をふり返る。2012年に出版された処女作『The Baroness: The Search for Nica, the Rebellious Rothschild』(Virago刊、日本では『パノニカ ジャズ男爵夫人の謎を追う』のタイトルで2019年月曜社より刊行、小田仲裕次訳)は彼女の大叔母、パノニカ・ド・コーニグズウォーター、通称ニカがニューヨークのジャズ界で果たした役割を描いている。

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15年間BBCに在籍

現在はロンドンの閑静な住宅地、メイダ・ヴェールで、3人の娘のうちの2人と暮らしている。元夫(映画監督ウィリアム・ブルックフィールド)との間にできた子どもたちだ。これまでの歩みをふりかえると、セント・ポールズ・ガールズスクールから名門私立校マルボロ・カレッジを経てオックスフォード大学に進学した。ちなみにマルボロ・カレッジの現在の学費は半期で14,310ポンドもする。卒業後はBBCに入社し、15年間勤めた。在職していた1980年代には音楽やアートの部門で映画を制作し、その後「Storyville」ドキュメンタリー制作を手がけている。「これが私のキャリア。楽しかったわ」とハナ。さて、これからどんな活躍を見せてくれるのだろう。

text: Chloé Friedmann (madame.lefigaro.fr)

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