現代美術家の蔡國強が、福島で打ち上げた花火とは?
Culture 2023.07.04
ただいま、国立新美術館とサンローランの共催で開催中の大規模個展『蔡國強 宇宙遊ー<原初火球>から始まる』。そのオープニングの序幕として、去る6月26日正午、『蔡國強:白天花火《満天の桜が咲く日》』が、福島県いわき市四倉海岸の浜で実現。
このプロジェクトは国内初の昼花火プロジェクトとなり、蔡國強のアートへの賞賛と先進的なビジョンにインスパイアされたアンソニー・ヴァカレロの提案で、ファッションを超える卓越したクリエイティビティを支援するサンローランによるコミッションで、「満天の桜実行会」が主催したもの。
約30分間、40,000発もの花火が海と空の間の幅400メートル、高さ120メートルの壮大な舞台に打ち上げられ、華麗なスペクタクルが繰り広げられた。会場となったいわきは、蔡にとってもゆかりの深い場所。1988年に初めてこの海辺の町を訪れた彼にとって、ここは人生と芸術における特別な場所となり、さらには彼の日本における「革命拠点」となり、蔡にとってもうひとつの故郷と呼べる場所になった。93年にはこの四倉海岸に7カ月ほど暮らし、彼の日本における公立美術館での初の個展『環太平洋より』の準備をここで行なった。「この土地で作品を育てる。ここから宇宙と対話する。ここの人々と一緒に時代の物語をつくる」という作品のコンセプトを掲げ、地元の人々とともに作品を作り上げた。それが94年に行われた蔡の爆発イベント《地平線プロジェクト 環太平洋より:外星人のためのプロジェクトNO.14》となり、ここから彼が世界へとさらに飛躍するきっかけとなったのだ。
四倉海岸を擁するこの地域は、2011年の東日本大震災とそれにともなう津波によって壊滅的な被害を受けた場所でもある。この度の《満天の桜が咲く日》は、震災、津波の犠牲者への鎮魂歌としての意味合いもある。「黒い波」が過去の痛みに立ち向かい、白い「記念碑」がパンデミックや戦争における苦しみへの壮大な追悼を象徴するシーンとなった。後半は、特別に制作されたピンク色の花火が、ロマンチックな桜雲の群れを生み出し、人々に夢と希望を伝えた。この桜の花火は、2011年の東日本大震災の後、蔡の友人たちがいわきで始めた「いわき万本桜プロジェクト」と連動したもので、大災害に見舞われた土地が、ピンク色の満開の桜の地になる未来を想起させる。
「四倉の美しい海と空、そして6月の不安定な風と波が珍しく協力してくれた機会に感謝します…。いま、人類はコロナとの共存、経済の衰退、グローバリゼーションの逆行、国家間や文化間の衝突など、さまざまな困難に直面しています。私はいわきの人々が政治や歴史を超えて結ばれた物語と絆を、満天の桜の花に託し、世界に信念と希望をもたらすことを期待しています」と、白天花火の日に蔡はこう表現した。
text: Natsuko Kadokura