ベルギー、韓国、モロッコを舞台に描く、とっておきの3本。

Culture 2023.07.23

二度と戻らぬ子ども時代へ、慕わしさと痛みをこめて。

『CLOSE/クロース』

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ブロンドの髪の少年レオのそばにはいつも、ブルネットの髪の少年レミがいる。互いの家族も認め、寝食をともにする幼なじみだ。ベルギーの農園の光と花々に祝福されたレオとレミが、時を忘れて遊ぶ幸福感。ところが、ふたりの仲をやっかむ学校の同級生らが、「つきあってるの?」とレオをからかい、思春期前期の自意識からレオはレミに距離を置き始める。アイスホッケーチームに入り、男らしさで武装もする。有望なオーボエ奏者で、感じやすさが内攻するタイプのレミの衝撃は計り知れない。起きてしまう事件は取り返しがつかない。少年期への親愛と悔い、再生へのもがきと勇気。帰り来ぬ時の哀切は、我がことのように胸を撃ちぬく。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。

『CLOSE/クロース』
監督・共同脚本/ルーカス・ドン
2022年、ベルギー・オランダ・フランス映画 104分
配給/クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開中
https://closemovie.jp

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陰影豊かでウィットに富み、野に咲く花のように涼やか。

『小説家の映画』

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小説家ジュニはソウル近隣に足を延ばす。後輩が営む個人書店から名所の塔、塔から見下ろせる公園、ランチ時の食堂、再び書店と、寛いだ彼女の会話は輪舞のように場と相手を変える。ベルリン国際映画祭銀熊賞3年連続受賞となり、映画作家としていま最盛期のホン・サンスが、不調をかこつ高名な作家のそぞろ歩きを設定。彼女は休養宣言中の女優と出会う。あなたを主役に、と短編映画の構想に誘うや、作家のスランプ期は次作への能動的な猶予期間に急旋回。できた短編が映写されると、モノクロームが不意に色づく。公園の野菊に呼応するように、女優役のキム・ミニの微笑みも涼やかに花開く。偶発的な奇跡を招き寄せる、撮影時の不思議に立ち会うような恍惚感!

『小説家の映画』
監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽/ホン・サンス
2022年、韓国映画 92分 
配給/ミモザフィルムズ
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国にて公開中
https://mimosafilms.com/hongsangsoo

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手仕事の技を消さないよう、特別な夫婦が息を合わせる。

『青いカフタンの仕立て屋』

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礼服にもなるモロッコの民族衣装カフタンを、夫はオーダーメイドで請け負う。廉価なミシン刺繍が一般のいま、夫ハリムは優美な光沢のシルク生地に繊細な手刺繍を施す希少な職人。妻ミナは「もっとウエストを詰めて」「もっと早く仕上げて」という無理筋の注文の緩衝役となり、古都に構えた店を仕切る。先細り傾向の手仕事をコアとする室内から、信頼し合い、睦み合う夫婦の、憂いを含んだ充足が燻し出てくるよう。妻は病を抱え、夫は技の継承問題の傍らに秘密を抱える。イスラム社会のタブーに触れる伝統的な規範を柔かく切り崩しつつ、滅びゆく「伝統」を守り継ぐふたりに向け、気鋭の女性監督は、カフタンの青が夫婦の愛の深さに通じた匂やかなエピローグを用意する。

『青いカフタンの仕立て屋』
監督・共同脚本/マリヤム・トゥザニ
2022年、フランス・モロッコ・ベルギー・デンマーク映画 122分
配給/ロングライド
新宿武蔵野館ほか全国にて公開中
https://longride.jp/bluecaftan/index.html

*「フィガロジャポン」2023年8月号より抜粋

text: Takashi Goto

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