女性向けの「エロティックな」音声メディアが勃興中?

Culture 2023.07.26

視聴者を増やし続けている女性向けアダルト系ポッドキャスト。エロい話で欲望や妄想をかきたててくれるのが人気の理由だ。

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アダルト系ポッドキャストの人気が高まっている。photography: Delmaine Donson/Getty Images

フランス世論研究所IFOPの2019年の調査によれば、フランスは他のヨーロッパ諸国と比べ、性生活に満足している女性が少ない。数年前から増え続けている女性向けアダルト系ポッドキャストは一般的なポルノとは違った形でいくつかの行為への羞恥心を取り去り、性欲を高め、女性のセクシュアルティを解放しようというものだ。単に実体験を語るものから没入型のストーリーまでバラエティ豊かなポッドキャストが一貫して追及するテーマは女性の性的な快楽であり、新たなファンを増やし続けている。

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イメージからの解放

このジャンルで最初に登場したのはストリーミング・プラットフォームのFemtasyだ。フランスで8万人のフォロワーがおり、エロいストーリーやポルノサウンドを提供している。後者は主に本物のカップルの行為を録音した音声だ。「X-指定映画はありきたりな映像ばかりで、興味のない内容だと一気に興醒めしてしまいます。目を閉じて映像をシャットダウンすると、逆に感じ方も想像力も10倍になります」と、プラットフォームの編集長、リサ・ダマは言う。「音声の方が、身体の描写や文脈でわたしたちを興奮させてくれるのです」

 

同プラットフォームのコンテンツではどんな体つきか等、身体が具体的に描写されることはない。「私たちはボディ・ポジティブならぬボディ・ニュートラルなのです。おっぱいの形がどうなのかは語りませんが、たとえば胸を撫でまわす手の感触を描写します。身体の描写をするのは人気がないことに気づいたからです」とリサ・ダマ。

手あかのついたやり方はやめて想像力に訴える。ついでながらどのストーリーも相手の同意があったうえでの行為が原則だ。これによって“セックステック”の新しいリーダーたちは、男性による男性のためのエロ・ポルノ中心の産業にうんざりしていた女性層を取りこむことに成功した。「母親として、あるいは男性にとっての単なる快楽の対象として認識されることに疲れた女性たちが、快楽を自分たちの手に取り戻すようになったのです」とFemtasyの共同経営者でもあるリサ・ダマは付け加えた。「ポッドキャストは主にひとりで聴くものであり、ある種の性の自立をわたしたちにもたらします」

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本音トーク

女性は一人ひとり違う。感性や性的嗜好もまた然りだ。こうしたポッドキャストでは、ユーザーのプロファイルに応じて多様なタイプの声、言葉遣い(どこまで下品な言葉を使うか)、シチュエーション(パリのセックスクラブ、サントロペのビーチ等)がターゲットユーザー層に応じてデザインされ、提供される。私たちは同じ言葉をしゃべっていても、同じ言葉に同じエロさを感じているわけではありませんし、同じ波長や同じ音、同じトーンに感じるわけでもありません」と、性科学者のダミアン・マスクレは言う。『Cycle du désir*(原題訳:欲望のサイクル)』の著者であるダミアン・マスクレ曰く、「人によっては包み込むような感じが好きな人もいれば、もっと固さを求める人もいる」

かつて男性が使うものだった言葉を女性が使い始めたことは、女性の身体と言葉の解放を意味します。

ダミアン・マスクレ

こうした女性向けのアダルト系ポッドキャストは、女性の権利を主張する最近の動きや、若い世代が自由を求める動きに呼応して生まれた。いくつかのポッドキャスト(Colette se confesse、Entre nos lèvres......)では女性たちが、一夜限りの関係や自分たちの性的衝動について、恥ずかしがることなくあっけらかんと普通の言葉で語っている。「言葉は昔よりも直接的で生々しくなりました。例えば、ポッドキャストではクリトリスという言葉がズバリ使われているけれど、以前は回りくどい表現で触れていたものです。相手への気持ち抜きのセックスについて語ることを女性たちはもはや恐れていません。かつて男性が使うものだった言葉を女性が使い始めたことは、女性の身体と言葉の解放を意味しています。彼女たちは、自分たちのセクシュアリティを目覚めさせてくれる白馬の王子様を待つことなく、自分たちが必要としているもの、自分たちの身体の構造や性的妄想を知る権利を主張しているのです」

ポッドキャスト5選

Femtasy(フェムタシー):没入感のあるストーリーからソフトなもの、ポルノのようなものまでそろえており、官能をくすぐってくれる。20~35歳の年齢層に絶大な人気がある。Camille parle sexe(カミーユ・パルル・セックス=カミーユはセックスを語る):性科学者のカミーユ・バタイヨンが、専門的な知識でリスナーを充実したセクシュアリティへの道へと導く。Une vie érotique(ユヌ・ヴィ・エロティック=性生活):女性と男性が自分たちの性体験について語る。妄想と赤裸々な告白、そしてオーガズム。Sex and Sounds(セックス・アンド・サウンズ):アルテ・ラジオ局の番組。ジャーナリストのマイア・マゾレットがウィットの効いた知的な口調でセックスにまつわる音(笑い声、ため息など)を取りあげる。Extase(エクスターズ=エクスタシー):こちらもマイア・マゾレットがガイド役。文学作品のなかからエロティックな描写があるものをギョーム・ガリエンヌとマリーナ・ハンズが朗読するフランス・アンテール局の番組。

 

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ひとりかふたり、もしくはそれ以上

こうしたポッドキャストのメッセージは非常に明快だ。快楽はもちろん分かちあってもいいが、相手とだけが性的充足を得られるのではない。私たちの誰もがひとりでオーガズムを感じたっていい。それはバランスの取れた全体の中での構成要素のひとつなのだと語りかけてくれる。しかもコンプレックスを取り除いてくれるような語り口で。ダミアン・マスクレは「語られるのは素敵な体験談ばかりではありません。おかげで、人々があまりにも単純化しすぎる事柄を少し複雑なものに戻してくれます。セクシュアリティとはひとりかふたり、もしくはそれ以上であっても、それぞれに固有の特別な営みなのですから」と話した。

煽情的な画像がワンクリックで手に入る時代、こうしたアプローチはきちんとした性教育を受けてこなかった若い世代にとっては健全な選択肢となっている。ポッドキャストを通じて若者は真実を知り、固定観念や戒めに抵抗するためのツールと識別の機会を得ることになる。医師でもあるダミアン・マスクレはときどき、こうしたポッドキャストを自分の患者に勧めている。「“Camille parle sexe(カミーユ・パルル・セックス=カミーユはセックスを語る)” は身体に関する基本的な情報を得られるので、その後それを補完することもできます。“Une vie érotique(ユヌ・ヴィ・エロティック=性生活)”や“Colette se confesse(コレット・ス・コンフェス=コレットの告白)”は言葉にするのが苦手な人にお勧めだし、“Le Son du désir(ル・ソン・デュ・デジール=欲望の音)”、“Femtasy(ファムタジー)”、“Voxxx(ヴォックス)”は感覚を目覚めさせて刺激してくれます。フランス・アンテール局でマイア・マゾレットがガイド役を務める“Extase(エクスターズ=エクスタシー)”は文学的アプローチが特徴です。こうしたポッドキャストでさまざまな体験を知る機会を得ることで、私たちの欲望や願望、性的充足をなにに感じるのかが明確になります。他人のエロティックな想像に自分の脳をさらすことは、自分の妄想を目覚めさせるための非常に効果的な方法なのかもしれません」と性科学者ダミアン・マスクレは締めくくった。

*ダミアン・マスクレ著『Le Cycle du désir(原題訳:欲望のサイクル)』, Éditions du Faubourg, 192 p., €16.90.

text: Marilyne Letertre (madame.lefigaro.fr)

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