National Geographic 「絶滅から生き物を守るため」希少動物を追う写真家とは?
Culture 2023.08.31
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2023年9月7日、絶滅危惧種の動物を撮影し続けるナショナル ジオグラフィックの写真家、ジョエル・サートレイの活動を追う特別番組がナショナル ジオグラフィック(TV)で放送される。彼を動かす原動力とは? 来日したサートレイにインタビューを行った。
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東北から九州まで広く生息していたニホンオオカミは、1905年に奈良で捕獲されたのを最後に絶滅されたとされている。1892年まで東京の上野動物園で飼育していたという記録もあるが、絶滅を危惧していなかった時代だけに写真も残されていないという。またオーストラリアでは1936年9月7日に、動物園で飼育されていたフクロオオカミ(タスマニアタイガー)が死に、この世界最後の1頭の命が消えたことにより、フクロオオカミは絶滅。60年後の1996年、オーストラリアは絶滅危惧種に対する理解を深めてもらう目的で、毎年9月7日を絶滅危惧種の日に制定した。
この9月7日を前に、ナショナル ジオグラフィックの写真家、ジョエル・サートレイが来日し、東京の上野動物園ほか、日本各地の動物園と水族館で日本の固有種や世界の希少動物の撮影を行った。彼は絶滅から生き物を守るため、2006年から「PHOTO ARK(フォト・アーク)」プロジェクトをスタートさせた。彼は生き物を撮影し、発表することで人々に絶滅危惧種への関心をもってもらうだけでなく、もしもニホンオオカミのように絶滅してしまった場合でも、その種の存在や生態系での役割を写真によって未来に残すため、世界の動物園や保護施設や自然保護区を飛び回っている。いわば写真を使った「ノアの箱舟」プロジェクトだ。
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「プロジェクトのきっかけは2005年のことでした。私の妻が突然、病に倒れたのです。それまで世界を飛び回って仕事をしていましたが、ネヴァダの自宅で過ごす時間が増え、考えました。仕事を通じて感じてきた消えゆく動物の存在と、病魔に脅かされている妻の生命とが重なる気がしたのです。どのような活動をすれば、この危機的な状況に変化をもたらせるのか。何をすれば、人々にこの状況について関心を持ってもらえるのかと。そうして翌年の2006年から、生き生きとした動物の表情を撮ることで、見る人に動物への共感を感じてもらい、動物を守る意識を持ってもらえるのではないかと『PHOTO ARK』を始めたのです。撮影した生き物は、現在までに14,000種になりました」
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たとえばマダガスカルのシファカは、アニメ『母を訪ねて三千里』のアメデオのような白い毛並みに茶色い顔と耳を持つ小型猿。サートレイの写真のシファカは、黄色いまん丸の中に黒い瞳が浮かぶ目を真っ直ぐ見る者の方に向け、こちらを覗き込むようにして佇んでいる。目の覚めるようなグリーンのカエルは、濡れた瞳と口元が笑っているようだ。愛情と尊敬を込めて撮影された生き物たちは、その美しい造形を存分にアピールし、瞳でその存在を訴えかけてくる。
「屋内で撮る際は動物たちを引き立てるために、そしてどの種も対等だと示すために白か黒のバックを使います。動物のベストの部分を引き出して、できるだけ動物とアイコンタクトしながら撮る。そうするほうが、見る人に伝わりやすいし、生き物たちに共感を持って、気にかけてもらえるようになると思うからです。そうやって私は、すべての種に声を与えたいのです」
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乱獲や自然破壊による生息環境の変化、そして気候変動によって、野生生物の生息環境が悪化する中、国際自然保護連合(IUCN)はレッドリスト(絶滅危惧種)が4万を超えたと発表した。さらに「地球温暖化から地球沸騰化の時代に入った」といわれるこの夏、ハワイ島をはじめ、世界各地で山火事が発生し、森林の消失や生態系の崩壊によって、生き物の消滅が加速化すると言われている。呆然とさせられる状況をサートレイはどう感じているかと問うと、悲しい表情を打ち消して、強い言葉が返ってきた。
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「いままさに「動物の箱舟」から日々ボロボロと動物がこぼれ落ちていっているような状況です。このプロジェクトを通して、世界の人々がこの生き物の苦境に目を向けてくれるかどうか、私がすべきことは、私にできることに集中すること。だから悲しむ時間や落ち込んでいる暇なんてないんです」
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ナショナル ジオグラフィック(TV)では、9月7日に「ワイルド ネイチャー:絶滅危惧種の日」と題して、生存の危機に瀕した動物たちを取り上げた4時間にわたる特別編成が組まれる。放送されるドキュメンタリーは『キングダム・オブ・チャイナ:隠された大自然「バンダが住む森」』、『ホッキョクグマと白銀の世界「親子の旅立ち」』、『PHOTO ARK:動物の箱舟「マダガスカルのシファカ」』、『PHOTO ARK:動物の箱舟2「インドネシアの動物」』の4作品。2本の『「PHOTO ARK」動物の箱舟』は、森の中や3000メートル級の山々をはじめ、世界各地を飛び回りながらの撮影風景を追う。サートレイ自身が、それぞれの生き物の特性や撮影秘話をユーモアたっぷりに語りながら、生存の危機に瀕した生き物たちが鳴らしている警鐘を、私たちに届けてくれる興味深い作品だ。
9月7日(木)20時〜24時
20時〜『キングダム・オブ・チャイナ:隠された大自然「バンダが住む森」』
21時〜『ホッキョクグマと白銀の世界「親子の旅立ち」』
22時〜『PHOTO ARK:動物の箱舟「マダガスカルのシファカ」』
23時〜『PHOTO ARK:動物の箱舟2「インドネシアの動物」』
text: Reiko Kubo