タイトル受賞作家たちの新作ほか、いま読みたい4冊。

Culture 2023.09.16

貪欲で支配的な姉と内気な妹、ふたりに一体何が起きたのか。

『九月と七月の姉妹』

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デイジー・ジョンソン著 市田 泉訳 東京創元社刊 ¥2,200

7月生まれのジュライと9月生まれのセプテンバー。10カ月違いの姉妹だけれど、内気なジュライは、姉のセプテンバーの言うことに逆らうことができない。支配される代わりに守られている。ふたりの共依存の関係が、小説全体に不穏な緊張感を投げかける。お互いがいることで完結する世界の美しさと危うさ。せめぎ合う純粋さと邪悪さ。少女がやがて失うすべてを描く、ブッカー賞史上最年少候補になった詩のように美しい物語。

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5つの異なる世界が重なり合い、思わぬ結末を引き起こす。

『ノウイットオール』

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森 バジル著 文藝春秋刊 ¥1,760

同じ街を舞台に5つの物語が描かれる。第1章は女探偵が活躍する推理小説、第2章はM-1を目指す高校生の青春小説、第3章は未来人から狙われる女子高生を描くSF、第4章は魔界を追放された魔法使いの幻想小説、そして第5章は失恋続きの女性の恋愛小説。5つのジャンルを描き分け、しかも連作小説として読者を思いがけない結末に導く。タイトルどおり「あなただけが知っている」。読む喜びと仕掛けに満ちた、松本清張賞受賞作。

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いい子に生きると割に合わない、身に覚えのある毒に共感必至。

『いい子のあくび』

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高瀬隼子著 集英社刊 ¥1,760

駅でわざとぶつかってくる人間は、やり返してこない人間を選んでやっているらしい。表題作の主人公はぶつかられる側の人間だ。謝りもしない人たちにやられっぱなしで、割に合わないと感じている。だからある日、「ぶつかったる」と思った。その気持ち、わかる。真面目に生きているからこそ心の中にたまっていく毒を的確な言葉ですくい上げ、胸のつかえがスーッと取れる。この読後感はクセになる。芥川賞を受賞した新鋭の最新短編集。

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世界的プロダクトデザイナーが、自らデザインした終の棲家とは。

『深澤直人のアトリエ』

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深澤直人著 平凡社刊 ¥3,850

無印良品のCDプレーヤーなど、無駄のない美しさと機能性を融合させたデザインで知られるプロダクトデザイナー深澤直人が、自らの終の棲家を手がけた。その一部始終を美しい写真とともにまとめたのがこの本だ。生活に必要なありとあらゆるものをデザインしてきた人だけに、窓の形から砂利の色にいたるまで細やかな美意識に貫かれている。日常を究極に洗練させるには何にこだわるべきか、この本はそのひとつの答えになるだろう。

*「フィガロジャポン」2023年10月号より抜粋

text: Harumi Taki

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