映画『プリシラ』でヴェネツィア国際映画祭で最優秀女優賞を獲得したケイリー・スピーニーとは?

Culture 2023.09.17

2023年9月9日、25歳の米国女優、ケイリー・スピーニーがプリシラ・プレスリー役でヴェネツィア国際映画祭最優秀女優賞に輝いた。アカデミー賞ノミネートの呼び声も高い。

 

Instagram @caileespaeny

ケイリー・スピーニーを乗せたミニバンがアメリカのハイウェイを走っていたのはもう遠い昔のように思える。当時ティーンエイジャーだったケイリーは母親に連れられて何度もミズーリ州のスプリングフィールドとロサンゼルスの間を行き来した。キャスティングのたびに25時間かけてロサンゼルスへ行き、知人や親戚の家に泊まったり、時には泊めてくれると言った見ず知らずの人の家に泊まったり。用事が済むとホームタウンに戻り、次のオーディションの機会を待った。

これまでの一番の大役はスティーブン・S・デナイト監督の『パシフィック・リム アップライジング』(2018年)での人型巨大兵器の新人パイロットのヒロイン役だった。しかしヴェネツィア国際映画祭で彼女は9月9日、最も権威ある賞のひとつを得た。ソフィア・コッポラ監督の伝記映画『プリシラ』でタイトルロールのエルヴィス・プレスリーの元妻を演じ、最優秀女優賞を手にしたのだ。早くもアカデミー賞ノミネートを予想する向きもある。25歳にしてまさかの大ブレイクとなった。

『プリシラ』に出るまでケイリー・スピーニーの名はあまり知られていなかった。しかも本人は有名になることを躊躇しているようでもあった。2021年8月、イギリスの「グラス・マガジン」誌のインタビューでも、「初めて役をもらったのは18歳のときで、今となってはもう数年待てばよかったと思う」と語っている。そして「映画は私の避難所。今の時代、人の目にさらされるのは、とりわけSNSの場合、どんな女の子でもきついと思う」とも。

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インスタグラムで158,000人のフォロワーがいても、ケイリー・スピーニーはこれまでプライベートをあまり明かしてこなかった。いまのところ投稿は12回だけ。映画の宣伝、子どもの頃の写真、ブルックリンでのサイクリングの動画などだ。しかしながらヴェネツィアでのレッドカーペットやフォトコール、アメリカの主要メディアとのインタビューなどで、一躍時の人となった。

 

故郷スプリングフィールドでの暮らしははるか遠い。ケイリーはミズーリ州の小さな町で1998年7月24日に生まれた。8人きょうだいの大家族とあって「古着屋で買った服をよく着ていたし、なるべく節約を心がけていた」と2021年の「ヴォーグ」誌の取材に語っている。今日、ロダルテなどのブランドドレスを着てレッドカーペットを歩くようになったことを彼女は“シュール”と感じている。

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素晴らしい演技

ヴェネツィア国際映画祭でのプレミアで、78歳のプリシラ・プレスリー本人が彼女のそばにいたこともそうだ。「すごく怖かったけれど一番感動したことは、プリシラ・プレスリーが私のすぐ隣に座っている状態で映画を観たことだと思う」とケイリー・スピーニーは「ハリウッド・レポーター」誌に語っている。「最終的に心から感動してくれたと思う。私の方を向いて、“素晴らしい演技だった”と言ってくれた。そんなふうに褒めてもらったのは初めて」とその時のことをふりかえった。なお、プリシラ・プレスリーの化粧法は“目を閉じていても”できるほど習熟したそうだ。

 

プリシラ・プレスリーは映画の撮影中も協力的だった「とても親切にしてくれた(中略)。彼女がいなかったら、もっと苦労していたと思う。おおいに演技の参考にさせてもらったし、もちろん(プリシラが書いた)本もあったけれど、自分が演じる相手がとても協力的だったのは大変ラッキーなことだった」

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エルヴィスを聴いて育った

ケイリー・スピーニーにとってエルヴィス・プレスリーは身近な存在だった。エルヴィスを聴いて育ったからだ。「母がエルヴィスの大ファンで、エルヴィスグッズを集めていた。家の中にはエルヴィスを祀ったような場所があった」と彼女は今年の9月初旬のヴォーグ誌で回想している。「物心ついたときから家でも車でも、エルヴィスのヒット曲がいつもかかっていた」

そこから音楽への興味が芽生えたのだろうか。少女の頃のケイリーは歌うことが大好きで、ピアノのレッスンも受けていた。ティーンエイジャーになってバンドを結成したこともある。やがて演技の楽しさに目覚め、地元のリトル・シアター・グループに所属し、数々の舞台を経験した。2014年から2015年にかけては『オズの魔法使い』の舞台で主役ドロシー役を演じている。

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作品に恵まれたデビュー時代

2016年、彼女はショートフィルム『Counting to 1000』でデビューし、2年後には映画初出演を果たした。その頃になると友人たちは、ロサンゼルスへの高額な旅費の負担に耐えかねて、ハリウッドの夢を諦めていた。2018年にデビューしたケイリーは作品に恵まれた。『パシフィック・リム アップライジング』に続いて『ホテル・エルロワイヤル』というミステリ映画に出演している。

 

2020年には『ザ・クラフト:レガシー』に主演した。ホラー映画初挑戦だ。並外れた力を持つ女性たちが、その力を使って周囲に復讐していくというストーリーで、1990年代のカルト映画、『ザ・クラフト』の続編とも言える作品だ。この作品に出演したことを彼女は2020年、ヴォーグ誌に「驚くべき」体験だったと語っている。「少し前に『ハロウィン』の映画を見て、“この映画は女性にはきついわ、ショッキングすぎて”と思っていた。だから女性がパワーを持ち、善と悪を併せ持ち、人種差別や性的暴行のテーマも盛りこんだ長編映画を女性監督(ゾーイ・リスター=ジョーンズ)が撮るって驚くべきことだと思った」

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エイリアン

同年、SF テレビシリーズ『DEVS/デヴス』や、ケイト・ウィンスレット主演ドラマ『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』に出演する。その後、ソフィア・コッポラ監督の新作映画『プリシラ』でジェイコブ・エロルディと共演するに至った。このようにケイリー・スピーニーは自らも言うように常に新境地を求め、多彩な役柄に挑戦している。

グラス・マガジン誌に彼女は「コスチュームも境遇も全く違うキャラクターを演じるたびに、それぞれの世界に入りこむ。私の目標の一つは、演じた役と真逆の役を次に得ること。常に挑戦し続けたいし自分を超えたい」と語っている。オンラインマガジンの「デッドライン」によれば、ケイリー・スピーニーは現在、『エイリアン』シリーズの主役候補に挙がっているという。彼女がセレブ惑星を離れることはしばらくなさそうだ。

text: Chloé Friedmann (madame.lefigaro.fr)

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