恋と無理解 佐藤寛太が語る、僕が惹かれる恋の在り方。
Culture 2023.10.07
朝井リョウ原作『正欲』の映画化で、「マジョリティ側」の人と、「そうではない」人を演じた3人の男性キャストたち。恋との向き合い方について、彼らに話を聞いた。
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佐藤寛太
どこかのタイミングで、短い時間でも、同じ瞬間に笑えたり、好きなものを食べられる誰かがいれば、それくらいでもいいのかも
カーディガン¥57,200/ヴィヴィアン・ウエストウッド マン(ヴィヴィアン・ウエストウッド インフォメーション) その他/スタイリスト私物
昨年、塩野瑛久、前田拳太郎、櫻井佑樹が入団するまで劇団EXILEの最年少のポジションが定着していた佐藤寛太。「まだまだ弟キャラは封印しませんよ」と本人はからりと笑うけれど、岸善幸監督作『正欲』での大也役では、過去の出演作ではついぞ見せたことのない翳を見せる。大学のミスターコンテストでは準グランプリに輝く容姿に恵まれ、ダンスサークルに所属する大也。熱い眼差しを向けてくる女性たちを拒絶する彼は、日々、SNSを通し、自分の性的指向を満たす対象を探す。
もともと、朝井リョウの小説が好きで、同じ大学の映画研究部のふたりの男性の卒業後の創作との向き合い方の違いを題材とした『スター』を読み、次に発刊された『正欲』も手に入れたが、途中でストップしていたという。
「朝井さんの描く登場人物の書き込みが深く、それもひとりではなく数人の視点で物語が進んでいく。どんな思考力なんだと思いながらも読む手を止めたのは、文章にあまりにも心を削られたから。もうひとつ、本の宣伝コピーに『読む前の自分には戻れない』という一文があるんですけど、その通りだな、と怖くなったんです。この本は、第三者には言えない性的指向について描いていますけど、僕はこれまで生きてきて、無意識下において、何人の人を傷つけてきたのだろうと思うと、ページを進められなくなってしまった。その時、オーディションの話をいただいて、原作を読んでチャレンジしたことで大也という役に巡りあえ、彼の心情に向き合わざるを得ない状況をこの作品が作ってくれた」
自分の意識していない言動で、傷つけてしまう価値観がある。
「もしかしたら、見えてなかったものを見えないまま、知らずに生きてきたほうが楽だったかもしれない。そのほうが幸せだったかもしれない。でも、知ったからにはこれからは考えて行動していきたいと思います。自分の言葉に責任を持って。自分の思考の幅を広げてくれる作品になりました」
磯村勇斗、新垣結衣演じる佳道、夏月と大也は互いの顔も名前も知らないが、SNSのとあるプラットフォームにアクセスしては、投稿を通してすれ違っている。匿名の投稿が彼らにとっては、こういう性的指向を抱くのは、自分ひとりではないという微かな希望にも繋がっているのだ。
「ダイバーシティと言われる問題について話す時、言葉の枠組みに当てはめるだけで、目の前の個人を見えづらくしているんじゃないかと思う時があります。人はみんな、ただそこに個性を持って存在している、ということ。劇中の大也のセリフにもあるんですけど、『別にお前が理解してもしなくても、俺はここで生きてるし、お前が理解できないことは、この世にはいっぱいある』と。朝井さんの『正欲』のエピローグにもありますけど、心を開いて知ろうとすることは大事ですけど、開示することを相手に求めるのも違う。“私は知っている”と思い込むことがいちばん怖いことじゃないかな。人と違う思考を持つことに対して、ほっといてくれ、という当事者の独白は大事にすべきものだと思います」
完成した作品を観て、佳道と夏月の関係性を見たうえで、世にいう「ふたりで一緒に」という考え方にも、理想的な幻想を無防備に抱けないという。
「ひとりじゃ生きていけないって、よく言われる言葉ですよね。確かに周りから見ると、理解し合える相手に出会えることは幸せなことだと思います。僕も人との出会いに救われてきました。でも、ひとりで暮らし、ひとりで死んだからって、誰もその人を孤独とか、間違ってるとか言えるものでもない。自分が持っている“普通”の感覚や常識を、他人に押し付けなければ、それぞれが許容できる幅が少し広がるのではないかと思ったりします。結婚はするもしないも、個人の選択であり自由なので。どこかのタイミングで、短い時間でも、同じ瞬間に笑えたり、好きなものを食べられる誰かがいれば、それくらいでもいいのかも」
『正欲』に繋がる、肉体を通した結びつきはないが、確かに特別な関係と言ってもいいと思える映画はあるかと聞くと、即座に「恋愛映画と言っていいかわからないけど、『もののけ姫』!」と返ってきた。その回転の速さに脱帽。
Kanta Sato
1996年生まれ、福岡県出身。2015年、劇団EXILEに加入し俳優として活動を開始。映画『イタズラなKiss』3 部作(2016~17年)で初主演を務め、『花束みたいな恋をした』(21年)など、続々と話題作に出演。
息子が不登校になった検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)。かわりばえのしない日々を繰り返している桐生夏月(新垣結衣)は、佐々木佳道(磯村勇斗)が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属する諸橋大也(佐藤寛太)。学園祭実行委員の神戸八重子(東野絢香)は大也を気にしていた。異なる背景を持つ彼らの人生がある事件をきっかけに交差する。
●監督/岸善幸
●出演/稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香ほか
●2023年、日本映画
●134分
●配給/ビターズ・エンド
●11月10日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
https://bitters.co.jp/seiyoku
*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋
photography: Ittetsu Matsuoka styling: Masahiro Hiramatsu hair & makeup: Kohey (HAKU) interview & text: Yuka Kimbara