恋と無理解 磯村勇斗が語る、僕が惹かれる恋の在り方。

Culture 2023.10.08

朝井リョウ原作『正欲』の映画化で、「マジョリティ側」の人と、「そうではない」人を演じた3人の男性キャストたち。恋との向き合い方について、彼らに話を聞いた。
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磯村勇斗

そういう存在に救われる人もいるんだろうなと理解できるし、恋の形は無限にあるのだと思います

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ジャケット¥155,100、シャツ¥56,100/ともにジュンヤ ワタナベ マン(コム デ ギャルソン)

『正欲』で磯村勇斗が演じる佐々木佳道は食品メーカーに務める30代。仕事は充実しているが、彼はある対象にしか欲望が持てない指向を持ち、誰にも言えず、暮らしてきた。

「『正欲』には人には言えない、隠したいと感じている性的指向を持つ登場人物が複数出てきます。人によっては特殊に見えるかもしれませんが、僕は彼らの葛藤に共感しました。形は違えども、誰しも人とは違う、自分だけの指向を持っていると思うんです。それは過去にあったものなのか、現在持つものなのか、それとも今後自覚するものかもしれない。だから、生きていく上で、その指向に対峙にするべきだし、そういう自分を大切にしていいんだよと教えてくれる作品に『正欲』はなっていると思います」

2023年多くの出演作品が公開された磯村だが、うなるほど難しい題材に切り込んだ挑戦作ばかりが並ぶ。新興宗教にはまる母を持つ息子を演じた荻上直子監督の『波紋』、朝井リョウが多様性という言葉に潜む偽善をあぶり出す、岸善彦監督による本作『正欲』。相模原障害者施設殺傷事件を題材とした石井裕也監督の『月』では加害者を演じた。いずれも社会のマジョリティから理解が得られない複雑なパーソナリティを演じていて、『正欲』においては、稲垣吾郎演じる検事の啓喜の正論に、否定される側の人物である。

「稲垣さん演じる啓喜の考え方は正しくないとは言えないし、彼なりの正義感に基づいている。でも僕の演じた佳道からすると、その正義とは折り合わないし、自分の指向を理解してくれとも思う。その意味で本作は立場の違う正義の衝突を描いているとも言えます。僕は完成作を見て、稲垣さんは凶暴性を出さずに人を押しつぶす頑なさを表現していて、嫌な怖さを感じました。おそらく、啓喜のような考え方が、いま、この世に広がっている多数派の意見なんだろうと思います」

誰しもが社会の様相に、擬態して暮らしている。

劇中、佳道は新垣結衣演じる夏月という同級生と、同じ指向を本能で嗅ぎ当て、関係性を強めていく。

「佳道と夏月は互いの持つ指向でしか繋がっておらず、プライベートのことや、これまでどういう家族と、どういう人生を歩んできたのか、まるで知らない。それでも互いにとっては世界で唯一救ってくれる命の恩人とも、理解者ともいうべき相手で、自ずと引き寄せられたのだと思います。僕もそういう野性的な感覚は信じているし、持っていると思います。恋愛も含め人間関係において僕が大事にしているのは、同じ空間をともにした時、居心地の良い空気感を共有できるかどうかです。初対面であっても自分にとってピンとくるものがあれば、それは言葉にして相手に伝えるようにしています」

佳道と夏月は、世の中の大多数と言われる人達と同じように、社会の中に溶け込む「擬態」という方法を選択する。セクシャルアイデンティティをカミングアウトする人は増えてきているが、性的指向に関してはまだまだ周囲の理解が及ばない。また、他者が性のあり方を第三者に暴露することはアウティングであり、人権侵害に及ぶ。『正欲』は原作者の朝井リョウがこのことにも、深く踏み込んでいる。

「朝井さんがここまで深く描いた理由は、頭の中を覗いてみないとわかりませんが、僕自身は佳道が社会になじむように、フリをしているのは理解できる。佳道は人とは違うという意識が大きいので、その分、擬態が大きく見えますが、どんな人にも、社会の様相に擬態して暮らすことはしているじゃないかな。ただ、そんなフィルターをかけることなく、夏月とは一緒にいられるわけで、恋愛関係ではないけれど、運命共同体ではある。そういう関係性は肯定したいです」

佳道と夏月と関連して、好きな恋愛映画として彼が挙げたのは、スパイク・ジョーンズの『her/世界でひとつの彼女』である。

「10年前の作品ですが、むしろいま、リアルだと思う。AIが作ったサマンサに恋する男性の話ですが、彼女は自分の気持ちを理解してくれ、なんでも話せ、返してもくれる。肉体がないのでどこでも行ける。そういう存在に救われる人もいるんだろうなと理解できるし、恋の形は無限にあるのだと思います」

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Hayato Isomura
1992年生まれ、静岡県出身。小劇場の舞台を中心に活動し芸能界入り。2018年日本テレビ系テレビドラマ「今日から俺は!!」で第14回コンフィデンスアワード・ドラマ賞新人賞を受賞。映画『ヤクザと家族 The Family』『劇場版 きのう何食べた?』(ともに21年)で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。相模原障害者施設殺傷事件を題材とした石井裕也監督『月』が10月13日より、岸善彦監督『正欲』が11月10日より公開。

『正欲』
息子が不登校になった検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)。かわりばえのしない日々を繰り返している桐生夏月(新垣結衣)は、佐々木佳道(磯村勇斗)が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属する諸橋大也(佐藤寛太)。学園祭実行委員の神戸八重子(東野絢香)は大也を気にしていた。異なる背景を持つ彼らの人生がある事件をきっかけに交差する。
●監督/岸善幸
●出演/稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香ほか
●2023年、日本映画
●134分
●配給/ビターズ・エンド
●11月10日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
https://bitters.co.jp/seiyoku
●問い合わせ先:
コム デ ギャルソン
tel:03-3486-7611
www.comme-des-garcons.com

*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋

photography: Ittetsu Matsuoka styling: Tom Kasai hair & makeup: Tomokatsu Sato interview & text: Yuka Kimbara

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