恋の歌 持田香織、恋の歌詞が生まれる背景。
Culture 2023.10.10
J-POPを代表する歌手として10代から活躍する持田香織。シンガーソングライターとしてどのように言葉を選び、紡いできたのか。恋の歌詞を振り返る。
恋の歌詞は、すべて自分の実体験なんです
Kaori Mochida
1978年、東京都生まれ。96年にEvery Little Thingのボーカルとして「Feel My Heart」でCDデビューを果たす。2009年からはソロ活動も行う。19年にミニアルバム『てんとてん』、21年にはミニアルバム『せん』を発表するなど、ユニットと並行して活躍を続ける。
「まるで自分そのものですよ」
これは、持田香織に「歌詞はフィクションですか。それとも実体験ですか」と聞いた時の答え。ラブソングの達人といわれる作詞家は多数いるが、赤裸々に、身を削るようにして言葉を振り絞るタイプや、友人や街中の恋人たちを素材にするパターンもある。でも彼女はあくまでも「他人ごとや作りごとは歌えない」というスタンスだ。
「もちろん多少脚色することはありますが、恋愛で感じた気持ちを言葉にしているし、自分が共感できないことは歌いにくいかもしれません」
彼女がボーカルを務めるEvery Little Thing(ELT)が1996年にデビューした当初は、歌詞の大半はリーダーの五十嵐充が担当していた。しかし彼が脱退し、ギターの伊藤一朗とのふたり体制になったことをきっかけに、本格的に作詞を行うようになる。
「誰に影響を受けたというわけではないんですが、本当に好きだなと思ったのはスピッツの草野マサムネさんの歌詞ですね。言葉の選び方がとても文学的というか、まるで本を読んでいるようでおもしろいなと思いました。実際に作詞をするようになってからは、松本隆さんの歌詞を、本当にいっぱい読ませていただきました。でも、ラブソングで女性のボーカリストということであれば、やっぱりDREAMS COME TRUEの吉田美和さんの歌詞はすごいですよね。よく聴いたし、カラオケでも歌っていました」
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自身の恋愛への向き合い方が、中性的な歌詞に表れる。
とはいえ、彼女が誰かのものまねではない、個性的なラブソングのクリエイターであるのは間違いない。作詞家・持田香織の特徴のひとつに、“僕”という一人称の多用が挙げられる。「恋文」や「また あした」などの代表曲をはじめ、“僕”が登場する楽曲が目立ち、とても印象的だ。しかし、これは「まるで自分そのもの」という彼女の言葉と矛盾するのではないだろうか。
「よく言われますが、この“僕”というのは、男性目線で書いているわけではないんです。ただ、一人称の表現として、“私”よりも“僕”のほうが詩的に感じるから。女性が“私は”って書くよりも、男性が“僕は”って書いている文章のほうがキュンとしませんか? 私はそう受け取っていた時期があって、“僕”を使うことが多くなりました。男性の気持ちなんて全然わからないから、男性目線では書けないです(笑)」
また、この言葉の選び方にも通じるが、彼女の歌詞はどこか中性的であるのも特徴だ。男性女性どちらとも取れたり、さらに言えば友情や家族愛にも置き換えられたりと、普遍的な“愛”の歌が多い。そのためドロドロとしたウェットな恋愛が描かれることは少なく、失恋を歌ってもどこかドライな雰囲気がある。
「それは私が女の子っぽくない性格だからかもしれない(笑)。どっぷり恋愛体質、恋愛に一途です、みたいなのがあまり得意じゃないんですよね。だから付き合った男性は寂しく感じていたかもしれないですね。“一緒にいるのに、置いていかれている感じがする”ってよく言われていましたし(笑)」
そんな持田香織も8年前に結婚し、昨年には1児の母となった。プライベートの環境が変わると、ラブソングの歌詞にも影響が出るのだろうか。
「それはまだわからないです。童謡みたいな音楽も作ってみたいと思うことはありますが、だからといって恋愛の歌を書かなくなって子どもへの愛の歌ばかりになる、なんていうことはないと思います。子どもというより、ひとりの人間として書くことはあるかもしれないですね。それとは別で、デュエットの歌詞にトライしてみるのもおもしろいかな、なんて思っています」
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持田香織が書く恋の歌、歌詞に込めた想い。
いつもそう 単純で クダラナイことがきっかけで
傷つけてしまうよね 途切れてく会話 虚しいよ「fragile」(2001年)
恋愛バラエティ番組「あいのり」の主題歌として大ヒット。「当時はとにかく寂しかったんですね。お付き合いしていた人が忙しかったのかな。その気持ちが伝わらないもどかしさが滲み出ていますね。何度も書き直し、シンプルな言葉にこだわりました」
シングル「fragile/JIRENMA」より
Every Little Thing
avex trax ¥1,100
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僕が見つめる先に
君の姿があってほしい「恋文」(2004年)
持田自身も出演した「はちみつきんかんのど飴」のCMソング。「この頃に書いた歌詞はどれも好きですね。孤独感があって余韻が感じられることに惹かれるんです。少し後にこの詞の世界を気に入っていただき、映画の主題歌にも使ってもらいました」
シングル「恋文/good night」より
Every Little Thing
avex trax ¥1,100
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平凡な「当たり前」を
ずっと大事に、出来たらイイネ。
君がいて 僕がいれる
相も変わらず今日も、愛してる
「また あした」で終わる今日
ずっと一緒に、いれたらイイネ。
夕暮れが映し出した
2つ並んだ影を見つめながら
そんなコトを、思ったんだぁ「また あした」(2003年)
「これは完全に実話(笑)。まだ付き合い始めで大好きで大好きでしょうがないんだけれど、なんとなくこの恋は長続きしないんだろうなあって感じた気持ちを書きました」。ドラマの主題歌になり、2003年の「NHK紅白歌合戦」出場の際にも歌った。
シングル「また あした」
Every Little Thing
avex trax ¥1,320
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君より少し早く目覚めた
午後の日向の匂い
飲みかけの水
あと数本の煙草と、君の寝顔
ごく普通の
よくあるような
珍しくもない風景
しあわせの風景「しあわせの風景」(2003年)
アルバム『commonplace』の中でも、最も落ち着いた雰囲気の楽曲。「朝目覚めて、好きな人は隣で幸せそうな顔で眠ってるけど、その寝顔を見ている瞬間が最高に幸せという歌詞です。日常のちょっとした恋愛の情景描写が好きなのかもしれない」
アルバム『commonplace』より
Every Little Thing
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晴れるわけでもない空を
それでも僕は
今日を期待して生きてみる
不器用ながらも愛した日々が
かすんでしまっても
消えることなんてないから「ソラアイ」(2004年)
自動車のCMソングに使用されたアコースティックテイストのラブソング。「歌詞を書き終えた瞬間に“いい曲が書けた!”と思った会心作です。白でもなく黒でもなくどっちつかず、でもやっぱり好きだっていう気持ちを、曇り空で表現しました」
シングル「ソラアイ」
Every Little Thing
avex trax ¥1,100
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あなたとさよなら
できることなら
あなたの好きな人を幸せにしてあげてほしい
いい人ぶった「Enseigne d'angle 」(2019年)
リトル・クリーチャーズの鈴木正人がプロデュースを手がけた。「1番で“いい人ぶった”と歌い、2番で “いい人だった”と締めるところが上手くできているなって(笑)。実は『また あした』の時のお相手との話。幸せな恋も長くは続かないんですよ……」
ミニアルバム『てんとてん』より
持田香織
avex trax ¥2,530
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素敵なタイム
あふれだす
いろんな日 乗り越えて
あなたの笑顔は
わたしの笑顔になる「weather」(2009年)
「ふたりで何かを共有する喜びみたいなことを表現しています。ELTで書く歌詞はどこか中性的といわれますが、ソロだと女性的で柔らかな雰囲気になっているかもしれないですね」。初のソロアルバム『moka』にも収録されている。
アルバム『moka』より
持田香織
avex trax ¥3,204
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愛の花を咲かせましょう
天にまで輝く
声が聞こえる場所まで「愛の花」(2010年)
クールなテイストが印象的な2作目のソロアルバム『NIU』収録曲。「半野喜弘さんに書いていただいた曲がとても素敵だったので、“愛の花を咲かせましょう”という大人っぽいフレーズが出てきたんだと思います。少し背伸びしています(笑)」
アルバム『NIU』より
持田香織
avex trax ¥3,143
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この恋が愛になって
重なりあえたら
いついつまでも
日々を慈しむよ「HAJIMARI」(2012年)
恋の始まりを歌ったソロ作『manu a manu』から。「片想いをしていた時の気持ちを書きました。私は自分の気持ちを伝えるのが本当に苦手で、好きなのについ友だちみたいな関係になっちゃうんです。だからいまの旦那さんにはちゃんと伝えましたよ(笑)」
アルバム『manu a manu』より
持田香織
avex trax ¥3,300
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tel:03-5413-3546
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ハイアンドシーク
highandseek.tokyo@gmail.com
ジャーナルスタンダード ラックス 表参道店
tel:03-6418-0900
*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋
photography: Yuki Kumagai styling: Chiaki Utsunomiya hair & makeup: Tomoko Okada (Tron) text: Hitoshi Kurimoto