45年以上王室を追うカメラマン、ドラマ「ザ・クラウン」の描写に苦言。
Culture 2023.11.16
半世紀近く王室を撮り続けてきたカメラマンが、ドラマ「ザ・クラウン」を批判、イギリス王室の誤ったイメージを拡散していると語った。
ロンドン南西部のニューモルデンを訪れたチャールズ3世。(2023年11月8日)photography: Getty Images
大人気のNetflixドラマの「ザ・クラウン」だが、批判もある。ドラマはイギリス王室の歴史をなるべく忠実に辿ろうとしているものの、時にはフィクションが現実よりも優先される。英「サン」紙のカメラマンとして45年以上にわたって王室の写真を撮ってきたアーサー・エドワーズはそのことを懸念するひとりだ。
アーサー・エドワーズは「サン」紙の記事のなかで次のように嘆く。「王族の人生はもうすでに十分ドラマチックなのに、なぜ『ザ・クラウン』はありもしない作り話にこだわるのか。最初の2シーズンを見て、確かに俳優も素晴らしいし脚本もよくできていると思った。でも、フィクションのシーンを追加されて頭に血が上がったのでそれ以上見る気がしなくなった。一部はフィクションです、とか書いておいてほしい」
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完全なフィクション
現在83歳のアーサー・エドワーズは、サン紙のカメラマンの中でも最も長く王室を撮りつづけたことで知られる。2022年にフランスの「ル・モンド」紙が報じたように、彼は120カ国以上で200回以上の同行取材をおこない、7回の結婚式、4回の葬儀、7回の王族の誕生を撮ってきた。それほどウィンザー家を近くから見てきただけに、「ザ・クラウン」の中でなにが脚本家の空想の産物であるか(そしてなにがそうでないか)をすぐに見分けられる。カメラマンは、例としてこれまでのシーズンで完全にフィクションであるシーンを挙げた。
「Netflixのドラマだと、クレア・フォイ演じるエリザベス女王とマット・スミス演じるフィリップ王配はエリザベス女王の即位の直前、ケニアで象に襲われたことになっている。フィリップ王配は、動物が遠ざかるまで警戒を解かない。これは純然たるフィクションだ。さらに1966年に南ウェールズのアベルヴァンで山崩が起こり、地元の学校が飲み込まれて116人の子供と28人の大人が死亡した惨事の現場を、女王が訪問したがらなかったように描いている点もフィクションだ。女王は『ザ・クラウン』を決して見なかったそうだが、その理由はよくわかる」
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チャールズ国王はそんな人物じゃない
アーサー・エドワーズが一番イライラするのはエリザベス女王の死去に伴い、2022年9月に英国王となった「チャールズ3世のひどい描かれっぷり」だ。「この『ザ・クラウン』は全世界に配信されている。このドラマのせいで何百万人もの人々がチャールズ国王は陰気で文句の多い人間だと思っている。そんな人物じゃない。国王が一人ひとりと出会うことができたら、とてつもない人気者になるだろう」
シーズン5第1話は「ヴィクトリア女王症候群」と名付けられている。このエピゾードでチャールズ3世はジョン・メージャー元英国首相と母の退位を画策する。1990年から1997年まで政権の座にあったジョン・メージャー元首相はこれに対してすぐに不快感を表明し、「ドラマを最大限に盛りあげるためのでっちあげ、デタラメだらけのナンセンスの山」と非難した。アーサー・エドワーズも同意見だ。「チャールズ3世が母親といる時、ふたりはいつもとても親密だった。ダイヤモンド・ジュビリーのとき、彼は母親をママと呼び、手にキスをしていた。追い出したい相手にそんなことはしない。ある日チャールズ3世が私にこう言ったことがある。私が王になったら、なんてことは決して口にしないことにしている。それは母が亡くなる時だからだと。母親が亡くなってチャールズ3世がスコットランドから戻ってきたとき、私は西ロンドンのノースホルト空軍基地で飛行機から降りる彼を見た。彼は悲しみに打ちひしがれていた」
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最終シーズン
『ザ・クラウン』の最終シーズンは2部構成で、パート1は11月16日から、パート2は12月14日から配信される。1997年にダイアナ妃がパリで亡くなった事件に焦点を当て、2005年のチャールズ3世とカミラ王妃の結婚式で終わる。ダイアナ妃の死の描写の是非をめぐる論争で注目を浴びているシーズン6だが、ウィリアム皇太子(エド・マクヴェイ)とキャサリン皇太子妃(メグ・ベラミー)の出会いも描かれる。
text: Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)