少年少女の心のひだに触れる、珠玉の最新映画。
Culture 2023.12.27
木枯らしや冬の光のような、思春期の惑乱とその復元力。
『Winter boy』
事故とも自殺ともつかぬ衝突事故で、父が急死。寮通いの高校生リュカを打ちのめす。アルプスの麓に帰郷した美大卒の兄が彼を気遣い、画家修業中のパリに招く。セーヌ河岸などの先端文化に触れる衝撃、失恋体験の痛恨。乱高下するリュカの精神は帰宅後、ついに失調をきたす。『ふたりのベロニカ』が忘れえぬ女優イレーヌ・ジャコブの息子、ポール・キルシェが父の幻を追ってゲイとして生き急ぐリュカ役を、壊れやすい思春期の一典型を差し出すように好演。早熟の監督オノレの半自伝映画だが、終盤、ジュリエット・ビノシュ演じる母イザベルに視点を移した演出が際立つ。寒気を蹴ちらすリュカの再起への駆動力と、母のたおやかな後押しが呼ぶ小春日和の涼気が渾然となる。
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異能派の女性監督が紡ぐ、妖しくきらびやかな夜の旅。
『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』
満月の下、重い心の病と診断された娘モナが沼沢地帯の病院から脱走。ニューオーリンズの歓楽街に流れ着く。眼前の人を単純な身ぶりで操るこの異色のハードボイルドヒロインには、仲間を攻撃しようとする相手にしかその特殊能力を向けない規律があるらしい。だが空腹の中、ビーフバーガーをおごってくれたケイト・ハドソン演じるダンサーのボニーへの恩義ゆえ、あらぬ方面へそれを使って凶悪犯扱いに。逃亡劇のソウルメイトが負傷離脱したボニーからその息子、屋根裏の孤独な少年チャーリーに交替するや、怪異な夜の旅路は吹き溜まりに純真が息づくメルヘン風味を増してゆく。オールドジャズからダブステップまで、友愛の音楽都市ニューオーリンズに祝福されながら。
監督・脚本/アナ・リリ・アミリプール
2022年、アメリカ映画 106分
配給/キノフィルムズ
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開中
www.monalisa-movie.jp
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内から湧き立つ演技の体験が、子どもを未知の時空へと誘う。
『最悪な子どもたち』
フランス北部の学校や児童養護施設で出演者を募る公開オーディション。鷹の目をした反抗児ライアンが主役に抜擢される。続いて、演技経験ゼロのやんちゃな子らに振り回される撮影現場。その情動を生のまま、役に移入しようとする監督の野心が、ただでさえ不安定な彼らを精神的に追い詰めてしまう。映画作りの業の深さを隠さない姿勢が誠実だ。他方、生活環境に問題を抱え、怒りに爆発しそうな我が身を持て余してきた少年少女が分身みたいな役をもらい、身震いしつつ役に命を吹き込む。決して泣かなかった少年ライアンが流す涙。これみよがしじゃない高感度の演技に子らが未知の扉を開く奇跡に、私たちは立ち会う。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリ受賞。
監督・共同脚本/リーズ・アコカ、ロマーヌ・ゲレ
2022年、フランス映画 100分
配給/マジックアワー
シアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開中
www.magichour.co.jp/theworstones
*「フィガロジャポン」2024年1月号より抜粋
text: Takashi Goto