繊細な人間描写に引き込まれる、新春おすすめ映画3選。

Culture 2024.01.07

世界や自己との違和感から、共生への道筋を探り当てる。

『ミツバチと私』

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8歳のアイトールは中性的魅力を湛えた神経過敏な子。集団生活になじめず、自身、不安定な自己像と折り合えずに人知れず焦れている。母親は仏南西部の家に夫を残し、3人の子を連れてスペイン・バスク州のヴァカンス旅へ。叔母が営むピレネー山麓の養蜂場で、この末っ子の特別な感性が開かれ、恐れていたミツバチの生態や森の泉に親しんでゆく。蜜色の光に照らされ、アイトールが初めてできた女友だちと水着を交換し、「女の子になりたい」という想いを叶える泉の情景。トランスジェンダーという概念も知らない子から、遊戯の自然さで湧き出る勇気に心が洗われる。アイトールと同年齢のソフィア・オテロが史上最年少のベルリン国際映画祭銀熊賞(主演俳優賞)を受賞。 

『ミツバチと私』
監督・脚本/エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
2023年、スペイン映画 128分
配給/アンプラグド
新宿武蔵野館ほか全国にて公開中
https://unpfilm.com/bees_andme

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下町のアウトサイダーらの、壊れやすくも芯のある協調。

『香港の流れ者たち』

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香港映画衰亡の懸念を吹き飛ばす新世代の俊英が2012年に起きた通州街ホームレス荷物強制撤去事件を基に、再開発のアウトサイドの群像を描く。ベトナム戦争後ここに潜り、皆に慕われるラム爺。気の弱いハーモニカ吹きの好青年モク。往年のアイドルスターのロレッタ・リー演じる、再起のため下働きに励む元クラブ勤めのチャン。風情ある欠陥人間たちが助け合い、軋み合う。膝を交えて付き合ううちに、悪の巣窟まがいだった高架下の『濁水漂流』(原題)の共同体が、人肌に温もって愛しさをいや増す。そんな好演出だ。横柄な対応を謝罪せず、金で和解を図る当局を突っぱね、孤立にいたる苦労人ファイの佇まいにも品位がある。香港・台湾の両アカデミー賞で旋風を巻き起こす。 

『香港の流れ者たち』
監督・脚本/ジュン・リー
2021年、香港映画 12分
配給/cinema drifters、大福
ユーロスペースほか全国にて公開中
https://hknagaremono.wixsite.com/official

生きることや見果てぬ夢に、希望を吹き込む熾烈な寓話。

『葬送のカーネーション』

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遺骸を故郷に葬るという亡き妻との約束。老人ムサの一念を、保護者役の彼から少し離れ、孫娘ハリメは守護者の眼で見つめるよう。ハリメが遊ぶ玩具の木馬を、老人が木棺を引く用具にしてしまう象徴的なシーンがある。荒涼たる原野にあって少女は急ぎ足で大人になるほかない。映画はどこか「本当は怖い童話」風だ。生も死も、両者を結ぶ絵も夢も、野ざらしのまま変転する。母の思い出をなぞって、少女は黒髪を梳く。どうやらふたりは、シリアあたりから逃れて来た元難民らしい。国境に響く遠い銃声。戦火の故郷はまだ在るか。旅の行方に胸がズキンと痛むが、物語も伝承にならい、人が地に帰って樹となるような循環の余韻を残す。監督は小津安二郎を敬愛するトルコの新鋭。

『葬送のカーネーション』
監督・共同脚本/ベキル・ビュルビュル
2022年、トルコ・ベルギー映画 103分
配給/ラビットハウス 
1月12日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
https://cloves-carnations.com

*「フィガロジャポン」2024年2月号より抜粋

text: Takashi Goto

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