マッチングアプリのリアルを覗く、製作者と4人の体験ルポ。

Culture 2024.01.27

出会いの場の主流となりつつあるマッチングアプリ。素敵な恋への着地もあれば、厳しい現実が待っていることも。運営元や利用者の声から、新時代の恋愛の傾向に迫る。

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photography: Sutterstock

自分が何を求めているか、絶対に譲れないものを把握すること。

真面目なパートナー探しを目的とするシリアス系マッチングアプリの国内大手2社withとOmiaiを運営するエニトグループの小野澤香澄CEOに話を聞いた。まず気になるのは、不倫やセフレ、詐欺、営業、勧誘などのトラブルだ。

「ユーザーが増えれば悪い人も増えるのはどの社会でも共通。完全にゼロにはできないものですが、業界の健全性を保ち、ユーザーの安心安全に全力を尽くしています。withでは、お相手とのやり取りを行う際には公的身分証明書の提示を義務化。また、2週間に1回程度の心理テストの参加などプロフィール作成に手間と時間がかかるため、本来の目的外の人が使いにくい仕様となっています。そして、24時間365日、データや投稿情報を目視やAI監視。サービス提供者からもらった報告も速やかに反映し、違反者には退会してもらいます。登録できるのは 18歳以上の独身者ですが、既婚者を完全に排除するのは難しいのが現状。今後の課題ですね」

出会い系と大きく違うのは基本的な考え方だ。「私たちはユーザーに、いい人と出会って卒業してもらいたい。いつまでもサービスを続けてもらう必要はないと思っています」ときっぱり。利用者への啓発活動にも注力する。「ふたりきりの空間で会わない、初めて会う人の車に乗らないなど注意点を紹介。アプリを安全に利用するために自衛意識の向上は不可欠です」

多様性の時代を背景に、従来の学歴、収入、身長などの条件で選ぶのではなく、withは価値観マッチングを提案。内面や考え方を重視したいというユーザーに好評だという。最後に、自身もマッチングサービスで結婚相手 を見つけた小野澤が心得を伝授。

「相手を探す前に、自分が本当は何を求めているのか、を把握することは大切。相手との関係に求めているものをすべて書き出し、その中で絶対に譲れないことに絞ってみてください。譲れないことだけに集中すると、起こる出来事に振り回されなくなります」

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いまの20代にとってマッチングアプリの出会いはごく自然。職場恋愛のほうが嫌、という声が増えているそう。出典元:明治安田生命 2022/11/16ニュースリリース「いい夫婦の日」に関するアンケート調査

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A:学校 B:職場、仕事関係 C:幼なじみ、隣人 D:サークル、クラブ、習いごとで E:友人、兄弟姉妹を通じて F:見合い結婚 G:街なかや旅先で H:アルバイトで  I:ネット J:その他
2015年以前は日本のマッチングアプリ利用率は低く、自力で相手を探せない負け犬が使うもの、と受け止められていた。2021年からは婚活の実績も増加。出典元:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」

小野澤香澄/Kasumi Onozawa
株式会社エニトグループ 代表取締役グループCEO
国際基督教大学卒業後、リクルートに入社。先端テクノロジー部署で新規事業立ち上げを複数経験し、ゼクシイ縁結びの前身を開発。2013年、The Pokémon Company Internationalに転職。19年よりTinder Japan&Taiwan代表として同ビジネスの成長に貢献。22年8月withの代表取締役CEO就任。23年3月に株式会社エニトグループ誕生に伴い、現職に就任。

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REPORTS|ルポ、私の場合。

CASE1
将来プランから逆算し短期集中で利用。効率重視には落とし穴も。

Oさん 38歳 ファッションPR
使用したアプリ : Pairs

アプリを使ったのは20代後半。「2年ほど付き合った彼と別れた後です。最後は私の想いが上回り、一時の恋愛感情に振り回されると冷静な判断ができなくなることを痛感。子どもはふたり欲しい考えていたし、逆算するとそろそろ結婚かな、と2カ月だけ短期集中でやってみることに」とOさん。ステップが少なく、結婚の意思が示せるPairsをチョイス。一般企業が多い銀座で1日に3人会うことも。初回のデートで印象が良ければ2回は会おうと決めていた。「会う前に顔が見え、仕事、収入、兄弟姉妹もわかる。毎回楽しく過ごせました。とにかく効率を求めていたんですね」と振り返る。そして3週間弱で、2歳下起業家の彼と出会い、「ある程度の財力があり、ルックスはいいし会話も楽しい、悪いところが見つからない。この人とは何かあるかも、と感じました。結局、3回以上会ったのは彼だけ」。結婚を急ぐ彼に押され、付き合って3カ月後に婚約しスピード結婚。その時は妊娠もしていた。何か違う、と感じたのは1年を過ぎた頃。「いちばんは食事。生活の彩りと考える私は料理に精を出したのですが、彼は興味がない。毎回一流レストランでデートしていたのは、高ければおいしいと考えていたからだそう。さらに、コロナ+産後で私の掃除熱と除菌習慣が加速し、クリーン意識が低い彼にイライラ。振り返れば基礎的な部分の共感力が不足していたかも」と話す。データとデートだけではわからないこともある。すでに離婚し、現在は5歳の娘を育てるワーキングシンママとして、「次の婚活は子どもの父親選びなのでハードルが上がります。いまは自然に出会いたい気持ちが強いかな」

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CASE2
危険を回避しながら文化を知り語学も学び、恋愛に発展したら理想的。

Tさん 36歳 フォトグラファー
使用したアプリ:Bumble

昨年夏にパリに移住し、フリーランスで働くシングルマザーTさん。マッチングアプリの存在は知っていたが、本格的に利用し始めたのはこの春から。「婚活ほど強い意志はなく、フランスの文化を知りたい、語学の勉強になる、いい相手に出会えて恋愛に発展できたらラッキー、という感覚です」と話す。選んだアプリは諸外国の女性に評判のいいBumble。ほかと違うのはスピード感だ。「男性から"いいね"をもらったら24時間以内にメッセージを返さないとマッチングが解消してしまうんです。だから、良さそうと思ったらその瞬間にメッセージを送る。次の段階がWhatsAppというメッセージアプリを使って連絡先交換。このステップに進むのが10分の1くらいの割合で、実際に会うのはその半分くらい」

Bumbleでは、顔写真、職業、言語をプロフィールで公開するのが一般的。「最初は子どもがいることを記載しなかったですが、いまは明かしています。フランスでは大きな問題ではないみたい」とTさん。対象年齢は20代後半〜40代前半。週に3回程度アプリをチェックし平均して月に2〜3人と会う。最初は公園を散歩したりカフェやバーで会い、2回目に食事や映画のパターンが多いそう。「初回デートのドタキャン率は高いし、複数の相手と同時進行している人も多い。場所と時間を選べばそこまで危ないことはありませんが、1回で決めてやる!としつこくボディタッチしてくる人もいて、1対1の真剣なお付き合いができる人と出会うまでには時間がかかりそう。いまはアンテナが発達して嫌な思いをすることも減り、いいなと思う相手とデートを重ねる日々です」

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CASE3
警戒心が強い私の歩幅に合わせてくれた誠実な彼と前進中。

Kさん 35歳 自営業
使用したアプリ : Bumble→with

帰国子女のKさんが初めて登録したのはBumble。日本にいる外国人と繋がれ、男性の質もいいと聞いていた。「でも私には向いていませんでした。会ったこともない人が昔からの友だちのようにコミュニケーションをとってきて、ライトに失礼なことを言ったり身体の関係を求めてきたり」と振り返る。1週間ほどでやめてアプリから離れていたが、昨年夏にwithを知り、「登録時の心理テストで自分の恋愛傾向や思考回路がわかり、その結果から相性の良い相手を導くゲーム感覚がおもしろくて。1カ月限定でやってみようと」。不倫やセフレ探しも中にはいるが、プロフィールに遊び目的ではないと書けば淘汰されていく。とはいえ、いいねを送り合っても会おうと思える相手は多くはなかった。「困ったのはメッセージ交換を繰り返すと通話ができる機能です。自分都合でガンガン電話をかけてくる人は即マッチ解除」とKさん。3週間目で出会ったのがいまの彼。

「デートはお茶かランチ、ぎりぎりまでLINEも本名も明かしたくない警戒心の強い私の希望をすべて受け入れてくれ、とにかく誠実でした。初めて会った時にもう少し話したいね、と公園を散歩したのもいい思い出」と言う。付き合いを深めてこの春プロポーズをされ、現在一緒に暮らしている。アプリからは多くを学んだ。「学歴・身長・年収・エリアなど条件でフィルタリングできるのは効率的な婚活といえるのかも。でも枠組みで品定めしてYES/NOをジャッジする、されるというシステムに最後まで慣れなかった気がします」とKさん。利用するうえでのアドバイスは「押されても流されず主導権を渡さないこと!」

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CASE4
出会いの輪を広げたいと登録してから3年半。好きな人と結婚したい。

Sさん 34歳 会社員
使用したアプリ : with、Omiai→Pairs、Langmate

「9年間の遠距離恋愛で気付けば20代後半。結婚を前提に同棲をしたらいろいろ見えてしまい2カ月で別れました」とSさん。そんなタイミングで、Pairsで出会った男性と結婚した同級生に布教され、2020年1月にマッチングアプリをひっそり始めたが「withとOmiaiは手ごたえが少なかったのですぐにやめ。いまはPairsと、言語を交換する出会いを目的としたLangmateに登録中」

希望の条件は、20代後半〜30代後半で、自分よりちょっと上の年収。国籍も職業も問わないがプロフィールに顔写真がない人とはマッチングしない。「Pairsでは6回デートした営業マンも。気が利くし話はおもしろいのですが、ややチャラいのと、"付き合う前に身体の相性を確かめたい"と言われたのが引っかかり。断るとしばらく連絡が来なくなる、という関係を続けています。Langmateで出会った韓国人俳優風のモンゴル人とも波長が合い、しょっちゅう電話で会話しデートも。ただ数年後には帰国するらしく。将来が考えられる相手ではない」と笑う。アプリを始めて3年半。集中してやる時期と幽霊会員のような時期の波がありながらも、毎日ログインすれば検索の上位に来ると聞き、いいねはすべてチェック。

「合コンが少なくなり、待っているだけでは日常生活で同世代の異性と会うことがほとんどないいま、出会いの輪を広げるアクションはこれかな、と。でも早急に結婚したいというよりも、好きな人とパートナーになるのが理想。とはいえ、出産で身体のダメージが大きかった姉を見て早く産まないと回復が大変、と感じているし、35歳くらいでは結婚したい。一定期間真面目にやって今年中に相手を見つけて卒業、が目標です」

*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋

interview & text: Eri Kataoka

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