文筆家・村上香住子が胸をときめかせた言葉を綴る連載「La boîte à bijoux pour les mots précieuxーことばの宝石箱」。今回はフランス映画界のレジェンド、カトリーヌ・ドヌーヴの言葉をご紹介。
カトリーヌ・ドヌーヴのことは、パリ左岸のカフェやレストランなどでよく見かけたけれど、大抵女友達といる時はふたりだけでいるし、いかにも愉しそうによく笑っている。同じ女友達とふたりでいることが多いので、おそらく長年の友なのだろう。フランソワ・トリュフォーも「人と会う時は一対一にする。その方が集中できるし、相手にも失礼にならない」と言っていたし、やはり本物の言葉だなと思う。
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歳を重ねるとなかなか新しい友はできにくいし、むしろ新しい友より、ワインのように熟成した関係を持ちたいものだ。たしかに長持ちする友情は、結婚と同じくらい難しいともいえる。自然のままにしていると、時間を作るのが面倒になり、やがては連絡するのが億劫になってしまう。
それに長い友情関係だと、つい相手に甘えてしまうので、知り合った頃の新鮮な気持ちは失われてしまい、細かい思いやりを怠ってしまう。先日長年の女友達に、素敵な眼鏡入れをもらって、無性にうれしかった。異性でも同性でも、やはり思いがけないことをしてもらうと心が揺れる。クリスマスプレゼントや誕生祝いでなくても、なんのわけもなくもらう贈り物も、愉しいものだ。
ドヌーヴのこの言葉の中では、時間と友情のところは、少し疑問が残る。彼女のように多忙な人なら、時間はもっとも大切な宝物なのかもしれないが、一般的にはどうだろうか。もっと大切なものがあるような気がする。
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だがもしかしたら、ドヌーヴが言いたいのは、時間そのものではないのかもしれない。よく何年も会ってないのに、あなたはずっと私の親友だったという人もいるけど、本当に親友だったらやはり会いたいし、どんなに忙しくてもなんとかして時間を作ると思う。
時間は追われるものではなく、自分でクリエイトするものでありたい。
1943年、パリ生まれ。映画俳優の父母の元に生まれ、10歳の頃から映画に出演し始める。64年『シェルブールの雨傘』の主演で世界的な名声を得る。『ロシュフォールの恋人たち』『昼顔』(ともに67年)、『終電車』(80年)などフランス映画を代表する作品に出演。俳優、マルチェロ・マストロヤンニとの間に娘キアラ・マストロヤンニを儲ける。2019年に脳卒中を起こし入院するが、リハビリを経て20年6月から完全復活、現在も第一線で活躍中。photography:REX / Aflo
フランス文学翻訳の後、1985年に渡仏。20年間、本誌をはじめとする女性誌の特派員として取材、執筆。フランスで『Et puis après』(Actes Sud刊)が、日本では『パリ・スタイル 大人のパリガイド』(リトルモア刊)が好評発売中。食べ歩きがなによりも好き!
Instagram: @kasumiko.murakami 、Twitter:@kasumiko_muraka