世界を巡り、演奏する、ピアニスト藤田真央の初の著書。

Culture 2024.03.14

世界的ピアニストへの道、2年間の軌跡をまとめたエッセイ。

『指先から旅をする』

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藤田真央著 文藝春秋刊 ¥2,200

柔らかい手首で鍵盤を撫でるように弾く独特のプレイスタイル、奏でられる宝石のような弱音、丁寧にやさしく刻まれるリズム。藤田真央(@maofujita_piano)の指先から生み出される音楽の響きはあっという間に世界へと届けられ、25歳にして最も活躍する日本人ピアニストのひとりとなった。そんな彼の2年間を写真とともに記録したエッセイ集。

藤田の文章、いやスタンスには媚がなく、実に魅力的に映る。「音楽の前では、嘘をつけない」と本文にあるとおり、ひたむきに楽曲と向き合い続けることで到達できる己の中での事実をもってはじめて、世界に対峙できるということが伝わってくる。

そのスタイルは相手が世界トップのマエストロたちでも変わらない。貫き、チャレンジをする。先人たちへの深いリスペクトと愛がこもった描写には、さらにその先に連なる山々の凄まじさを垣間見られる。

『鬼滅の刃』の竈門炭治郎のことが引用されている部分があるのだが、次から次へと遭遇する音楽の大ボスたちと肩を並べる存在に藤田が少しずつ近づいていく様子が刻々と記されていて、呼吸のようにピアノを奏で続けて世界を駆け上る彼自身が、むしろマンガの主人公そのもののようだ。

意外なことに彼は愛煙家だった(現在はすでに禁煙)のだが、吸い始めたきっかけにも実に"らしさ"が感じられ、読み進めていくうちに音楽に向き合った結果の選択だったのだなと、すっと腑に落ちる。

序盤で「自分の理解が十分でないことが音に表れてしまうだろうから、バッハをプログラムに入れることはほぼない」と語っていた藤田だが、今年2月に配信限定アルバム『バッハ:トランスクリプションズ』をリリース。そう、藤田真央は進化を続ける。基になった別冊文藝春秋での連載も継続中と続編も楽しみで、彼の物語はまだ始まったばかりなのだ。

文:山本憲資/起業家
広告代理店、出版社を経て、Sumallyを起業。昨秋に代表を退任し顧問に就任。音楽やアート、食への造詣が深く、さまざまな媒体で執筆も行う。藤田の公演にも足繁く通い、昨年にはインタビューを手がけた。@kensukey

*「フィガロジャポン」2024年4月号より抜粋

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