歌人・川野芽生によるエッセイほか、いま読みたい4冊。
Culture 2024.03.15
装うことで自分を解き放つ、気鋭の歌人の生き様に震える。
『かわいいピンクの竜になる』
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小説『Blue』が芥川賞候補になった気鋭の歌人がロリータと出合い、魂の自由を獲得するまでを語り尽くす。人から定義される自分、性別としての女性、背負わされたあらゆる幻想から自分を解き放っていくプロセスは闘いであり、装うことの楽しさと可能性に満ちている。可愛さ、美しさの定義もひとつではない。自分の見え方は選べるし、自覚的になることで自分だけの世界を切り拓くことができるのだ。熱い語りに鼓舞されるエッセイ。
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3人の男女の視点から、コロナ禍の日常を描き出す。
『続きと始まり』
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柴崎友香は日常のとりとめなさに潜むものを丹念に描いてきた作家だ。大震災と未知の病原体の出現。ロシアのウクライナ侵攻。未曾有の事態への対応を余儀なくされた日々、何がどう変化したのか。関西在住の主婦の優子、東京で暮らす調理師の小坂圭太郎とカメラマンの柳本れい。本作では、3人の視点で2020年3月から22年2月までを描き出す。定点観測することで漠然とした心もとなさに言葉を与え、私たちのいまが浮かび上がる。
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危機の時代に遺された、安息の地を探す旅の物語。
『タスマニア』
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ローマ在住の作家である僕が国連の気象変動会議の取材でパリを訪れたのは、不妊治療が引き金となった夫婦の諍いから逃れるためだった。地球温暖化が進んだら、残された安息の地はオーストラリアのタスマニア島かもしれない。トリエステ、長崎、広島......希望を探し彷徨う旅。行く先々で出会う人たちもまた個人的な問題と人類の危機的状況の語り手となる。『コロナの時代の僕ら』が話題を呼んだイタリアの人気作家による最新長編。
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お酒の失敗がある人、笑っちゃうけど他人事じゃない。
『昨夜の記憶がありません アルコール依存症だった、わたしの再起の物語』
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ニューヨークで働くライターのサラは気がつけば酒浸りの日々。飲酒による記憶障害、ブラックアウトにたびたび陥り、出張先のパリで見知らぬ男性とベッドイン。このままではマズイと断酒を決意する。怖いもの知らずの人間として認められたい。仕事のプレッシャーに打ち勝ちたい。一線を越えてしまう理由は身につまされる。飲まなきゃ書けないし恋もできない。ユーモアたっぷりのアメリカ版しくじり先生、笑えて沁みる奮闘記。
*「フィガロジャポン」2024年4月号より抜粋
text: Harumi Taki