抽象彫刻とスケートボードの「運動」が結びつく、ラファエル・ザルカのアートとは?
Culture 2024.03.22
ラファエル・ザルカは、1977年フランス、モンペリエに生まれ、現在パリを拠点に活動するアーティストであり、スケートボーダーであり、研究者である。銀座エルメスフォーラムで開催中の『エコロジー:循環をめぐるダイアローグ 2「つかの間の停泊者」』にザルカが出展している作品群はすべてその3つの営みと密接に関係している。
たとえば『ライディング・モダンアート』(2007~16年)は、パリ、バーゼル、ビルバオ、東京など世界各地の都市に設置されたパブリックアートの幾何学的な彫刻の上を、スケートボーダーたちがアクロバティックに滑走する瞬間を収めた写真を起点とするシリーズだ。
いくら石や鉄など剛健な素材で作られた彫刻でも、公共物である「アートに乗る(ride)」行為は、グラフィティと同じく野蛮で無礼なヴァンダリズムと見なされてきた。しかしながら、ザルカが収集してきた写真コレクションと、彼が制作した組み立て式の彫刻作品をスケートボーダーが滑る映像を見る限り、権威的芸術とスケートパークは全く同じように機能しているようだ。
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「10歳からスケートボードを始め、ほぼ同じ頃に、幾何学的な抽象彫刻への関心が生まれました。ローカルチャーとハイカルチャーであるふたつの分野が出合うことは永遠にないだろうと思っていましたが、ある時、雑誌の表紙にパブリックアートの上でスケートボーダーが滑走する写真を見つけて収集するようになり、全く方向性の違うパッションが交わるようになったんです。写真コレクションを書籍化したときは、70点の彫刻作品のうち7点のアーティストとその遺族からダメ出しがありましたが、他はスムーズに許可が出ました。この作品では、抽象彫刻とスケートボードの運動が結びつくことで、ミニマルで幾何学的な造形に潜在するエネルギーと動きのダイナミズムを可視化しています。スケートボーダーの行為が、一見特長のない彫刻作品に、新しい造形的な意味やボキャブラリーをもたらすこともあります」
やがてザルカの探究は、スケートボーダーのためのプラットフォームである『Rampe Cycloïdale』(16年)や『Cycloid Ledge』(22年〜)といった作品へと発展した。パリ・オリンピック2024に向けて、前者の作品はルーアン市庁舎前に設置され、さらにこの初夏にはポンピドゥー・センター前の広場にも新たなスケートボードのための野外彫刻が展示される予定だ。
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本展では、ザルカのライフワークともいえる研究テーマである「射法立方八面体」という幾何学的形態の変遷を巡る作品も展示されている。古代から現代までの美術史や考古学、科学技術、インテリア装飾やポップカルチャー、ルービックキューブにいたるまで、あらゆる分野で世界に出現してきた「射法立方八面体」についての膨大な資料を集積した映像とコラージュである。「人間の歴史に新たな解釈を書き足す」という信念を持って、彼はこの気の遠くなるようなリサーチ活動に取り組んできた。
「ひとつの文化的形態を、世界を反映するメタファーとして可視化するためにドキュメンタリーを記録してきました。建築や美術の古典に遡るこのマッピングは、複雑に枝分かれした蔓が絡み合うように広がっていて、コンテクストが完成するのは、僕が他界してからになるのかもしれません。この情報を必要とするかもしれない後世の人々にアーカイブを委ねたい」
スケーター、彫刻家、そして研究者の観点から、立体造形とそれらが内包するエネルギーを熟考してきたラファエル・ザルカ。その活動は、最先端の科学技術や理論とは異なる次元で、この世界に張り巡らされたエコシステムを拡張し循環させていく。時代や領域を超えて、未だ見ぬ世界を認知する手がかりを探し求めるその眼差しは澄みきっている。
会期:2024年2月16日(金)〜5月31日(金)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
東京都中央区銀座5-4-1 8・9階
tel:03-3569-3300
営)11時〜19時
※入場は閉館の30分前まで。
不定休
入場無料
www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum
会期:2024年2月17日(金)〜4月21日(日)
会場:東京日仏学院
東京都新宿区市谷船河原町15
tel:03-3569-3300
営)9:30〜19:30(火〜木)9:30〜17:00(金、日)9:30〜19:00(土)
休)月
入場無料
https://culture.institutfrancais.jp/event/exposition-riding-modern-art-by-raphael-zarka
text: Chie Sumiyoshi