サスペンス要素も! 注目のフィリピン、韓国、フランス映画3本。
Culture 2024.04.11
犬たちと怪人の結束に通う、無垢でフェミニンな心意気。
『DOGMAN ドッグマン』
舞台は米ニュージャージー州。傷だらけの女装姿で拘置されたダグの波乱万丈の半生が、女性精神科医デッカーを相手に語られる。幼少期、兄はダグを監視し、粗相を罪として父に密告する。闘犬家の父はひ弱な彼を犬小屋に放り込む。兄の狂信とマッチョな父性の下、服従者の悲哀と怒りを檻の中の犬たちと分かち合ってきたダグは、「歌姫」として舞台に立つ傍ら、都市の裏稼業に就く。庶民に服従を強いるギャングと争うダグの危機を、街に潜む野犬、彼とは気心の知れた愛犬たちが嗅ぎ分け、援護する。その連携の興趣とスリルは『レオン』(1994年)のベッソン監督、久々のお手柄だ。聞き役デッカーの私生活の苦境も励ます、女性的な情け深さがダークスリラーの底流を貫いている。
監督・脚本/リュック・ベッソン
2023年、フランス映画 114分
配給/クロックワークス
新宿バルト9ほか全国にて公開中
https://klockworx-v.com/dogman
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魚市場の事件に始まる物語、最高潮は郷土料理の晩餐会。
『FEAST -狂宴- 』
首都マニラの河畔、市場で買い物をして帰途につく父と子(幼い娘)が、卵を買い忘れたとバイクをUターンさせるや、宴会用に高級カニを大量購入した別の父子の車が衝突。彼らは慌てて逃げてしまう。フィリピンの鬼才メンドーサにとって、格差社会が軋むドラマのお膳立てにぬかりない。父の轢死に苦しんだ一家が加害家族の贖罪の意を汲み、母子全員で丘の上の館に住み込むという展開も、波乱の予感がする。が、そんな先読みを本作は一笑に付す。被害側の母が伝統のパンパンガ料理の大皿を夕映えの庭の食卓に並べ、出獄した主人を迎える「FEAST」=饗宴は、「よきものが永久に我がものたれと願う」(プラトン著『饗宴』)エロス=生の欲動を湛え、「食」と和睦の祝祭空間に!
監督/ブリランテ・メンドーサ
2022年、香港映画 104分
配給/百道浜ピクチャーズ
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開中
www.m-pictures.net/feast
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韓国の主要主演女優賞6冠、シングルマザーの夢が発火。
『ビニールハウス』
村上春樹の短編を翻案した『バーニング 劇場版』で納屋がビニールハウスに変更されたように、強権的な再開発や不動産バブルによって住処を追われた韓国の都市困窮者が行きつく典型、黒く目張りしたビニールハウスにムンジョンは独居する。いつか部屋を借りよう、と訪問介護士とメイドを兼ねて働く。けれど、グズる老婆と介護中に揉み合ううちに、老婆が後頭部打撲で急死。老婆の夫の目が見えないのを「幸い」に、ムンジョンは事実を隠し通す。相次ぐピンチを招く悪手は、少年院にいる息子と暮らす日を夢見る、けなげで愚かな母の一念ゆえ。そう訴えかけるキム・ソヒョンの、時に喜劇的ですらある演技が凄絶だ。新鋭が繰り出す、サスペンスとショックの演出の呼吸も出色。
*「フィガロジャポン」2024年4月号より抜粋
text: Takashi Goto