我が愛しのジェーン・バーキン番外編 ジェーン・バーキンの記事を担当した、元フィガロ編集長が当時を回想。

Culture 2024.07.09

文/塚本香(ファッションジャーナリスト)

ジェーン・バーキンは1990年の創刊から変わらないフィガロジャポンのアイコン。数えきれないくらい何度も彼女を取り上げてきた。2024年3月号「我が愛しの、ジェーン・バーキン。」にもそうした過去のアーカイブが再掲載されているが、残念ながら私の脳裏に焼き付いているジェーン・バーキンはこの中にはいない。それは自分が担当した1992年6月号の「ダンディな女。」特集に登場した彼女。ジェーン・バーキンと言われるといつもこの誌面の彼女を思い出す。

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6ページのこのテーマは、当時パリ16区にあった自宅で本人を撮影するというかなりエクスクルーシブなもの。でも、担当エディターの私がパリに出張したわけではない。準備も取材もすべて現地のスタッフ任せ。だからというわけではないが、ジェーン・バーキンがこの特集にキャスティングされたことに疑問すら感じていた。

当時の私の頭にあったのは1970年代のジェーン・バーキン。プチバトーのTシャツとリーバイス®のジーンズに、レペットのバレエシューズを履いてカゴバッグという定番スタイルや、レースやシースルーのミニドレスを誰の目も気にせずさらりと着こなす彼女。ノンシャランという言葉を彼女から知ったくらい憧れのスタイルアイコンだったけれど、いつもセルジュ・ゲンズブールの影を感じさせた。そんな彼女がダンディな女? アンドロジナスはわかる。ボーイッシュなおしゃれも似合う。でも、ダンディというのはもっと毅然とした強いカッコいい女に対する形容詞、彼女には似合わないと思い込んでいた。

でも、そんなジェーン像はパリから送られてきた写真を見た途端、吹き飛んでしまった。

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擦り切れた古いソファに座るジェーンの儚さと強さが一体となった表情、袖をたくし上げ肩を落としてメンズサイズのVネックセーターをさりげなく着こなす仕草、父親から譲り受けたというよれよれのタンクトップ一枚になって屈託のない笑顔を見せるジェーン。彼女の希望で撮影用のヘアメイクはつけなかったので、ほぼノーメイクのようだし、髪の毛はボサボサといってもいいくらい。無造作で気取らず、自由で自然で、何より自分のままでいる、そんな彼女の姿にただただ惹き寄せられた。この時のジェーン・バーキン、45歳。

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私の中ですっぽり抜けていた10年間。81年にセルジュ・ゲンズブールと別れてこの92年まで彼女はひとりの表現者として自分の道を切り拓いてきたのだから、若かった頃と違うのは当然のこと。83年に発表したアルバム『バビロンの妖精』は全曲セルジュ・ゲンズブールの手によるものながら、歌手ジェーン・バーキンをしっかりと印象づけた。

新しいパートナーとなったジャック・ドワイヨンはもとより、アニエス・ヴァルダやジャック・リヴェットなど錚々たる監督の映画に出演し、パトリス・シェロー演出の舞台にも立つなど、俳優としても目覚ましい活躍をしていた。自分を認めてくれる人たちとの出会いは、いつも「自信のなさ」を口にしていた彼女にとって大きな力になったはずだ。その経験が彼女を解き放ったのだろう。40代を迎えて大人の女になったというような単純な言葉では言い表せない。年を重ねるということを美しく体現しているジェーンがそこにいた。

撮影が行われたのは、セルジュ・ゲンズブールの一周忌を終えたばかりの頃。ジャック・ドワイヨンともすでに別れている。ひとりになったジェーンは無防備で繊細な少女のようでもありながら、その奥に強い覚悟のようなものを感じさせる。弱さや恐れを抱えながらも、彼女はありのままの自分を曝け出して生きることを決めたのだろう。年を重ねることは純粋な自分に戻ること。彼女はそう語りかけているようだった。

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その後も彼女は何度もフィガロジャポンに登場しているが、私がもう一度ジェーン・バーキンに出会ったといえるのは、編集長として手がけた2009年3月20日号の「女は年をとるほど美しい。」という特集。

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17年後、62歳になったジェーン・バーキンは、前にもまして純粋で飾らず、まっすぐに夢を追い続けていた。

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どうしたら美しく年をとることができるのかという問いに、彼女はこう答えている。

「よく寝ることと、よく笑うこと。そして他人にどう思われるかということを気にするのではなく、自分のやりたいことをやるように心がけることだと思う」

誰にも真似できない彼女らしい年の重ね方。自分のままに生きることは、時に自分を傷つける。でも、それを選んだジェーン・バーキンはダンディな女と呼ぶにふさわしい。同じように年を重ねたいま、あらためてそう思う。

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Tsukamoto Kaori
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長を経験し、現在はフリーランスとして活動中。@kaorinokarami

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▶︎ジェーン・バーキン、永遠のファッションアイコンの魅力を紐解く。

photography: John Chan

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