母になった後悔、墓場まで持っていきたい秘密。

Culture 2024.09.26

イスラエルの社会学者オルナ・ドナートは著書『母親になった後悔』の中で、母親になることが自己実現の足かせだと考える女性たちの声を集めている。まだまだタブーとされている証言であり、女性が母親になるという役割分担を改めて考え直す必要がある。

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社会学者オルナ・ドナートは著作『「母親になった後悔』の中で、女性が母親になる、という役割分担を再考するように呼びかけている。 photo:Getty Images

子どものことは愛しているけれど、産まなければよかった----以前、SNS上で一部の女性たちが打ち明けた、言葉にし難い告白だ。

社会が女性に「母親になる幸せ」を求める状況では、この気持ちはなかなか受け入れられにくい。イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学で教鞭をとる社会学博士オルナ・ドナートは、自分の日常生活を「魅惑的に」するために子どもを産む、という社会的な圧力を拒み続けている。2015年に出版された研究書『母親になった後悔:社会政治的分析』は、母になったことを後悔しているというイスラエル女性23人にインタビューを行ったもので、大きな議論を巻き起こした。

一般論とは程遠く、ドナートは次のように語っている。「母親であることに苦しんで、リセットボタンを押したいと夢みることもある」。研究の成果はSNSで広く拡散され、2年後には『#Regretting Motherhood』という本が生まれた。世界的に成功を収めたこの本は、2019年11月末にフランスでも翻訳、出版された。

これまではカウンセリングのソファでだけ語られていた告白が明るみに出され、究極のタブーのベールが剥がされた。本の著者、オルナ・ドナートへのインタビュー。

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----なぜ女性たちは子どもを持ったことを後悔しているのでしょうか。

自分は母親に向いていなかったということが、母親になってみて初めてわかったのです。なんとか乗り越えようといろいろやってはみたものの、母親としての責任が重すぎると感じている、と打ち明けてくれた人達もいます。こういう気持ちは、妊娠中、第1子出産後、あるいは第2子出産後、いつでも不意に生まれるものです。

----そのような気持ちが芽生えるのは子どものせいではなく、「親であること」にまつわるすべてが原因だとおっしゃっています。

はい。インタビューに答えてくれた女性たちの多くは、母親になったことが自分の人生にどのような影響を与えたかを考えているのであって、子ども自体を問題にしているわけではないのです。母親になりたいと思ってから実際に出産するまで、期待と現実の間に大きなギャップが生じることがあります。

時には死別、破産、病気など、大変でつらい出来事が入り交じり、影響することもあります。同様に、夫婦の関係も変化していきますし、離婚や別れの後に、女性が1人で子どもを育てることもあります。

とはいえ、複雑な状況は必ずしも後悔を意味するものではありません。私がインタビューした人の中には、「すべて」持っているにもかかわらず、母親であることを後悔している女性たちがいました。

----避妊の方法が合法化されている国は多く、母親になるかならないかは選択できるようになっていますよね。そんな時代なのに、母親になった後で後悔するということについて、どうお考えでしょうか。

「選択」という言葉には、明確な決断という意味が含まれています。しかし、現実はそうではありません。私が話を聞いた女性たちは皆、必ずしも母親になりたいと強く望んでいたわけではないのです。社会的にそうせざるを得なかったり、パートナーや家族からのプレッシャーに負けた女性たちもいました。母親になるのを嫌がる女性たちが、自分勝手で頭がおかしい「偽物の女性」として扱われている限り、はっきり理解して同意した上で決断することができないのです。

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----なぜ後悔する母親たちは、それほどまでに嫌われなければならないのでしょうか。どうしてタブーとなってしまったのでしょうか。

私たちが生きている社会では、母になることは自然界の法則で定められたものだとされています。産むために女性が存在しているのだ、と。女性たちが生物学的に同じ器官をもっているというだけで、同じ夢、同じ欲求、同じ能力を持っていると決めつけられてしまっています。子供を産むことは、決められた筋書きどおり、社会にとって都合のいいハッピーエンド。だから、女性たちは究極のタブーを破って後悔を口に出し、語られてきた神話を壊そうとするのです。母性とは、絶対に崩れない聖域などではなく、単に個人的な関係の1つなのであって、女性1人1人がそれぞれのやり方で経験していくもの。母親になって、喜びや愛情を感じることもあれば、憎しみや嫉妬、後悔を感じることもあり得るのです。

----後悔する母親たちは子どもへの愛情がないと非難されていますよね。本の中で否定されているようですが。

そうです。研究に参加してくれた母親たちの大多数が、後悔を語りながらも、子供の世話に関して自分ができることは全てやったと話しています。私は母親たちを美化しようとしているのではなく、人間として扱いたいのです。誤りに気づきながらも、ずっとそれを続けている人間。そして、忘れないでいただきたいのは、子供を産んだことを後悔していないからといって、子供を虐待しないとは限らないということ。

----母親になって後悔するという例は以前より増えていると思われますか。

過去に母親になって後悔した女性がどの程度いたかは、決してわからないと思います。一般的に、母親の声を史料として保存したものは非常に少ないですからね。だから、現状と比較することができないのです。

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----母性があまりにも美化されているということでしょうか。

徐々に美化されなくなるだろうと思いますが、あいかわらず、母になることは女性の存在意義だとされています。今日女性たちは、とにかくやってみる価値はあると思いながらも、母性にまつわる難しさを口に出すようになってきました。そのような語りのおかげで救われ、自分の気持ちが「普通だ」と言われることで精神的に安心する母親がいるのです。けれども、母性を神聖なものだと考える社会では「母親になること」に実は既に含まれているマイナスの感情、ストレスや不安などを、後悔だけで片付けてしまいます。女性たちは一時的にプレッシャーから解放されるかもしれませんが、いずれ立ち直ることが想定されています。それでは、母親たちの苦悩は本当には理解されないし、幸福感が感じられるように根本的に変えていくということにはつながらないのです。

----父親の方は状況をどうとらえているのでしょうか。

女性と同じです。子供が欲しい父親も、欲しくない父親もいます。決めるのを時間任せにする父親もいます。女性と違うのは、父親になるべきだという縛りが弱いこと。年をとっても父親にはなれますし、父親にならなければ男性ではないと言われることもない。子供の教育は自分の仕事ではないと母親任せにする男性もいます。また、父親になりたいと思っていないのに、パートナーの希望で父親になった男性もいて、私はそのような男性10名にインタビューすることができました。女性の場合と違うのは、そういう男性たちが離婚するなどと脅かされてはいないということ。反対に、パートナーと一緒に住めなくなることを恐れているようでした。このテーマについても、深く掘り下げる価値があると思っています。

----母親が後悔すると、子供との関係も傷ついてしまうのでしょうか。

現実はそんなに単純ではないと思います。子供が自分はひとりぼっちだと感じている場合も、感じていない場合もあるようです。子供はたいてい母親が後悔していると話すのを聞いたことがないですしね。というのも、母親たちは身を守るためにその気持ちを秘密にしていて、墓場まで持っていこうと考えているからです。一方で、子供が成長し、母親がかけてくれた愛情と母親自身の後悔をはっきり分けて考えることができるようになってから、この話をしようと考える母親もいます。子供自身に罪悪感を持たせないようにするやり方ですね。親になるということは世間で言われているほど充実したものではないかもしれない、と伝える1つの方法でもあります。何年か前、若い女性の生徒がこう言いました。母親になったことを後悔している自分の母の気持ちがわかるようになった、と。腹が立ち、がっかりする気持ちを超え、共感や同情を感じられるようになったそうです。女性と母親としての役割を区別して考えられるようになったからです。このような区別が今の社会に必要なのだと思います。

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----後悔の気持ちは、徐々に消えていくのでしょうか。

そうですね。全員とは言えませんが、そうなる女性もいると思います。調査の際、未だに母親になったことを後悔していると打ち明けてくれたお祖母さんたちもいました。そういう後悔がある日消えてほしいと願うのはもっともなことですが、時間さえ経てば母親であることに慣れるものだという決めつけが根強く残ることになります。実際は、母性にどうしても馴染めないという女性たちが数多くいるのです。

----気持ちが語られることで、後悔している母親たちだけでなく、子供が欲しくないという女性たちも楽になれるのでしょうか。例えば、ご自身は子供を持ちたくないとおっしゃっていますよね。そのことで、研究がもっと意味のあるものになったと思われますか。

そうですね。母親になりたくない女性たちにとっても意味がありますが、別の見方をすれば、母になりたい女性たちにも意味があると思います。私の意図を誤解して伝えたメディアもあるようですが、私は、本当に本人が望むのなら、母性や母親、子供たち、出産そのものに反対しているわけではないのです。もし私が「母になることは、女性にとって人生で一番の間違いだ」などということを証明したかったのなら、男性のほうが女性自身よりわけがわかっているという父権制社会と何ら変わりがないですよね。私が目指したのは、女性たちの話を聞くこと。子供が欲しいかどうか、後悔しているかどうかにかかわらず、女性たちが言いたいことに丁寧に耳を傾けることなのです。

注1)「母になったことを後悔:社会政治的分析」はイスラエルの女性23人(26歳から73歳まで)を調査した研究。参加者は全てユダヤ人で、そのうち5人は無神論者、12人は一般信徒、3人はその他に分類され、残り3人は宗教についてはノーコメント。子供たちの年齢は、1歳から48歳まで。

注2)フランス語版「Le Regret d'être mère」Odile Jacob出版、240ページ、21.90ユーロ。

この記事は、2019年11月26日に掲載され、今回更新されたものです。

text:Tiphaine Honnnet (madame.lefigaro.fr),traduction:Aki Saitama

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