綾瀬はるかは変な人? 自身が語る、映画『ルート29』と現在地。
Culture 2024.10.25
綾瀬はるかが約1年間の休暇を経て取り組んだ、映画『ルート29』は、綾瀬演じる清掃員・のり子と、大沢一菜演じる少女・ハルがさまざまな人と出会いながら、空っぽだった心に感情が満ちていくロードムービーだ。幻想的かつリアリティ溢れる世界のストーリーは、新境地の役柄。「綾瀬はるかは変な人」と語った監督の言葉の真意と共に、綾瀬はるかが自身の現在地を語る。
──久しぶりの出演作品に『ルート29』を選ばれましたが、その理由はなんだったのでしょうか?
森井(勇佑)監督と同じ年齢で、自分と同い年の監督が手がける作品に出てみたいなと思ったのが最初の理由でした。そして監督が手がけた前作『こちらあみ子』('22)が大好きだったんです。主人公のあみ子がものすごく魅力的に描かれていて、そのあみ子を演じた(大沢)一菜ちゃんにもお会いしてみたくて、やってみようと思いました。
──日々淡々と生きるのり子は、風のようなフワリとした役柄という印象を受けました。一見つかみどころがないという点で、演じるのに難しさはありましたか?
例えば今もそうですけど、通常、人と話をするときには、自分の思いや考えを伝えようと会話をしますよね? ところが、監督から「のり子の言葉を相手に伝えようとしないで」と言われて。最初は戸惑ったのですが、よくよく考えたらのり子という人物は人と関わりを持たない生き方を選択しているけれど自分の世界をしっかりと持っていて自分に軸がある。人と対話するというよりは自分と話ているような感覚なのかしらと。だけど、私はそれを会話で相手に伝えようとしてしまっていたので、すごく苦戦しました。
──どう克服したのでしょうか?
なかなか役を掴み切れずに悩んでいたら、監督が話しに来てくださったんです。「全然変な意味ではなく、僕は綾瀬さんを変な人だと思っているんです」って(笑)。「僕は映画というのは、演技をするとか、何かを伝えるというものではなく、その人がそこに存在しているという波動のようなものをみんなが観ているんだと思う。だから、のり子には綾瀬さんがぴったりだと思ってキャスティングをした時点で、綾瀬さんはのり子なんです。だから、演じようとせずにそのままでいってください」と。
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──実際にご自身ではのり子との共通点を感じる部分はありますか? 綾瀬さんは自分をどんな人間だと分析しているのでしょうか。
10代の頃から自分を動物に例えるなら「ナマケモノ」だと言っていますが、実際は自分自身のことをあまりよく知らなかったりします。なので、監督の「そのままでいて」という言葉も、最初はすごく難しかった。ただ、共演した市川実日子ちゃんから、「自分の中にあるキラキラとしたものを全部消せということだと思うよ」と言われて、しっくりきたんです。何度かやっているうちに、セリフを言うタイミングさえも宇宙に任せるというか、降ってきたら言うくらい極限のところまで黙っていてもいいんだと。経験を重ねることで相手を気遣って話しかけたり、色々とやらなくてはいけないことを身に着けてきていますが、その殻を一度全部捨ててむきたての卵に戻る。初心に戻る感覚だということが分かってから、楽になりましたね。
──大沢一菜さんとの共演はいかがでしたか。彼女の横にいることで感じた、大沢一菜の魅力とは?
一緒に時間を過ごすうちに、一菜ちゃんも伝えようとしてないんだなということに気がついたんです。「え?どこにおるん?」というくらい自然というか。そこが彼女の魅力なんです。お芝居を離れたところではシャイなのですが、撮影が進むにつれて少しずつほぐれてきて、そこがまた可愛かったです。
──大沢一菜さんは13歳で、綾瀬さんも15歳でデビューをされています。当時、どのような未来を思い描いていたか記憶していますか?
それが、いまも昔もあまり先のことをイメージができないんです(笑)。基本的にそのときの流れに身を任せていたら、いまに辿りついたという感じです。
──その流れに乗りながらも、「これだけは譲れなかった何か」はありますか?
それがお芝居だと思います。何度も「もっとできたのに」と思ってすごく悔しくて落ち込んだりもしました。やるからには、みんなにいいねと思っていただけたり、喜んでもらえるものを出したいと思うので、芝居への取り組み方という点に関して変わらず真剣に向き合っています。毎回演じる役も違いますし、全員が同じ現場というのはないので、その都度緊張をして、常に「今の芝居で大丈夫かな?」と不安になりながら、探り探りやっているような気がします。
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──キャリアを重ねることでゆとりを得た部分はありますか?
もう少し余裕と自信を持ってやれるようになりたいとは常々思っていますが、それができないんです。若いときはキャリアを重ねて大人になれば自然と色んなことができるようになるんだろうな、なんて思っていましたが、共演者の先輩方にお話を聞いたりすると、みなさん50代でも60代でも、何歳になっても緊張するよとおっしゃっていて。そうなのかと納得する一方で、これからもずっと緊張が続くなんて、ちょっと嫌だな......なんて思ったり(笑)。
──笑! 今回はオールロケでの撮影だったそうですが、ロケだからこそ味わえたものは?
鳥取の山奥で比較的時系列に沿ってゆっくり丁寧に撮影をしていたのと、出演者も多くはなかったので、すごくアットホームな現場でしたが、監督がとにかく何度も転んでいました(笑)。監督は撮影時38歳だったのですが、「先輩たちに38歳を過ぎるとガタが来ると言われてきましたが、いまそれを実感しています。足もとがゆるくなって、また転んでしまったのですが、綾瀬さんはどうですか?」と言いながら、膝から血を流して歩いてきて。そういう会話をしているときに、親近感があって同世代っていいなと思いました(笑)。
──これからも役者を続けていく上で、綾瀬さんの指針はありますか?
役者としては当たり前のことなのかもしれませんが、必ず役の感情の前後を考えてカメラの前に立つっています。ものすごくエネルギーを使いますが、テクニックで演じるのではなく、役に感情や思いを乗せるようにしていて。セリフひとつを発するにしても、その前後の気持ちを考えないと言葉の本当の思いを伝えられないと思っていて、テイクのたびにそれをするとものすごく疲弊しますが、欠かさずに行っています。
──そのように違う人になり切る仕事の中で、どのようにして"綾瀬はるからしさ"を保っているのでしょう?
普通においしいものを食べて、休みの日はゴロゴロと寝るようにしています。不規則な生活はよくないという人もいるかもしれませんが、私は好きなものを食べて、ゴロゴロする。
普通すぎるかな(笑)? でもきっとみんなそんな感じですよね?
1985年広島県生まれ。2000年にデビュー。映画、ドラマ、舞台などで活躍。主な主演作に、ドラマ『ホタルノヒカリ』、大河ドラマ『八重の桜』、映画『海街diary』など。映画『レジェンド&バタフライ』『リボルバー・リリー』(ともに23年)にて、第48回報知映画賞主演女優賞を受賞。写真集『原色 綾瀬はるか2013-2024』(文藝春秋刊)が好評発売中。主演映画『ルート29』は11月8日より全国公開。
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