「子どもを描く映画として最高のバイブル」呉 美保監督が感銘を受けた映画『型破りな教室』とは?
Culture 2025.01.15
直球愛の映画演出が放つ、子らの人生を背負う覚悟。
『型破りな教室』
ちゃんと子どもを描けている日本映画(フィクション)は未だないと思っています。っていきなり強気な発言で、何様だよって感じですよね。自分が作る映画も含め子どもを演出することの意義と難しさのバランスについて日頃から生真面目に考え続けていまして。だって自我がまだ安定しない年齢なのに他者を演じるってすごく心身に負担が掛かるわけで、ゆえに演出する立場としては彼らの人生を背負うくらいの覚悟で臨むべきだと思うのです。残念ながら日本では出会えていないけれど海外作品なら納得の映画はあります。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年)はショーン・ベイカー監督の子どもの描き方が大胆かつ綿密で、一挙手一投足すべてが愛しくラストは心が掻きむしられる。なかなかこの感覚を更新できずにいたのですが、24年の暮れにようやく出会えたかもしれません。
メキシコの治安最悪な街にある小学校で実際にあった奇跡を映画化した『型破りな教室』は、小学6年生の子どもたちと担任セルヒオ・フアレス・コレア(エウヘニオ・デルベス)の直球愛の物語。ゴミを売り生計を立てるパロマ、幼い妹弟の世話をするルペ、ギャングの兄を手伝うニコ、物語の主軸となる子ども3人はどこまでが素でどこまでが芝居な のか目を見張るほど自然に映画の中に生きている。『コーダ あいのうた』(21年)でも熱血教師を演じたエウヘニオ・デルベスですが、私は今作のフアレス先生の方が好き! 愛と哲学に溢れた言葉のシャワーをこれでもかと子どもたちに浴びせ、教室の誰ひとり置いてきぼりにはしない。子どもたちを見つめるフアレス先生はまるでクリストファー・ザラ監督の分身のようで、つまり幼き心と体で他者を演じる子役俳優たちへの敬意がちゃんと感じられる映画なのです。いつの日か、子どもをとことん描けたらと願う私にとっては最高のバイブルになりそうです。
監督・脚本/クリストファー・ザラ
出演/エウヘニオ・デルベス、ダニエル・ハダッド、ジェニファー・トレホほか
2023年、メキシコ映画 125分
配給/アット エンタテインメント
12月20日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
https://mimosafilms.com/letmego/
スクリプターとして始動。2006年、自作脚本『酒井家のしあわせ』で監督デビュー。14年『そこのみにて光輝く』が国内外で高く評価される。子育てが一段落し、24年、新作長編『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が9年ぶりに公開。
*「フィガロジャポン」2025年2月号より抜粋