エディター龍淵絵美×青木良文が一夜限りの編集会議を開催。人生を切り拓くパワーワードとは?
Culture 2025.04.22

ファッションディレクターで元フィガロ編集部員の龍淵絵美によるThreads大人気連載を書籍化した『ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある』の出版記念イベントが4月初旬、代官山 蔦屋書店で開催された。弊誌エディターの青木良文を相手に、一夜限りの編集会議が実現。時系列で彼女のターニングポイントを追っていったが、言葉の錬金術師であるふたりの会話には、よりよく生きるためのヒントがいっぱい! そのパワーワードを厳選してお届けします。

「Threadsとは500ワード文学。ひとつのテーマでものを語るのにちょうどいいボリューム」(龍淵)
Threadsを始めたきっかけは、父親の死。人には終わりがくることを改めて認識したことで、ふたりの娘に自分がどういう生き方をしたかを残しておこうと思ったことから2023年にスタート。自分のキャリアを振り返るうちに、後輩たちにも自分の生き方の中からヒントになるようなものがあるかもしれないと思うようになり、やがてターゲットを拡大。自分語りに留まらず、現在ではモード界を取り巻く周囲の人たちへの取材も敢行している。「編集者とかものを書く人ならわかると思うんですけど、300ワードならキャプションにしかならないけど、500ワードは本文としてちょうどいい。書いていくうちにプロ意識がどんどん出てきて、500ワード文学っていうことできっちり書いて、いずれ書籍化しようと何の当てもないのに先に決めちゃったんです」(龍淵)
「運とは運び。運びのいい人は運がいい。自分の運気に乗っている人は、だいたいうまくいっている」(青木)
個性や運気を活かして自分らしく生きるためのアドバイスとして、東洋の占術をベースにした「火」「風」「金」「水」「土」「木」の6つのエレメントに分類して運を見る青木さん。「木」のエレメントである龍淵さんを、「運に乗っている女性」であり「名プロデューサー」と分析。Threadsを始めた2024年は「木」の人にとって、スタートの年に当たるため、奮起してアクションを起こしたことは自分の運気に乗る行為だったと言えるそう。
「いつも自分の欲しいものやなりたい自分に向かって、すごくストラグルしている」(龍淵)
新卒で就職した会社は経営難で、いきなり苦境に立たされたという龍淵さん。入社した95年は天中殺だったと後で知ることになる。「何をやってもうまくいかなかった。そういう時はあんまりジタバタしない方がいい」と当時を振り返る龍淵さんが自分を評したひと言がこちら。とはいえ、「Amyはやりたいことが明確。言霊じゃないけど、それをきちんと言葉にして、確実にキャッチしている」と青木さんが指摘するように、実際に言語化して、現実に叶える力を引き寄せているのは龍淵さんならでは。
「30代からは、働きたい時間、欲しいお金、ライフスタイルの3つの軸が重要」(龍淵)
働く時間については、「1日に8~10時間働く日が週に3日あったとしたら、金曜の午後にはメンテナンスを入れるとか、ビジョンを持つようになった」という龍淵さん。お子さんがふたりになったことで、その考えはより強まったという。「後ろの時間を考えずに仕事をする、子どもから離れる日を月曜と木曜に設定して、とにかく仕事のお尻を気にせず活動する。会食などで着替えが必要な場合は、自宅の駐車場の車のトランクにハイヒールをセットしておき、そこから拾うようにしました。一度帰宅して子どもに会ってしまうと、引き止められたりするので、家には入らず」。ほかにも、朝方で働く、週末は働かない、夏休みはちょっと長く欲しい......など、細かいルールを作り、実際にその通りに動けるように人員を配置するなどセットアップ。「そういうことをすべて実現しようとしたら、会社員じゃ難しくなってきて。で、会社員じゃない働き方に30代後半から切り替えるわけです」(龍淵)

「26歳、31歳、39歳、50歳前後がキャリアの転機」(青木)
会場では、人生のターニングポイントとなる6つのエピソードを披露した龍淵さん。その出来事は、奇しくも青木さんが掲げるキャリアの転換期とも重なっていた模様。龍淵さんの転職、結婚、出産といった人生の節目には、行動を起こすきっかけとなる人物が登場する。詳細は本を読んでいただいて、照らし合わせて欲しい。
「インスタグラムの映えとかキラキラには目が行くけれど、真実はそこにはなかなか現れない。私はThreadsの方が本当の自分を出せる」(龍淵)
2012年は、次女の妊娠が発覚した時でもあり、モードどころじゃなかったという龍淵さん。仕事からは手を引き、夫婦仲は険悪に。さらに長女が毎晩2時間泣くようになった時期でもあり、心底孤独を味わったという。「はたから見たら幸せそうに見えても、実際は違う。自分の人生が計画とはどんどん離れていく感じがして辛かったですね。子育てが落ち着いた最近でも、外ではいつもおしゃれな業界の中の"龍淵さん"を演じているところもあるわけだけど、本当の私は、お風呂にも入らないし、キャンドルを焚いて泣く時もある。実態は酷いわけです。真実の自分は全然映えていない。もう50歳にもなったし、キラキラばかりを追いかけるのも嫌になって、ヘンテコな自分を全開にしてみるのもいいんじゃないかって気持ちになりました。実際に書いてみるとThreadsの方が、人生の大切なことや、次の世代に伝えたいことを表現しやすいと気づきました」(龍淵)
「時々は、人は無理した方がいい。無理しないように無理しないようにって平坦な道を行くと、本当に退屈な人生になってしまう」(龍淵)
次女出産後の2013年に、再びモードの世界に復帰。『ハーパス バザー』創刊に携わったが、待っていたのは深夜に帰宅、早朝出社というハードスケジュール。家に残してきた幼い子どもたちをケアするため、当時はシッターが泊まるようにずっと家に待機していたという。「私のお給料以上にシッターさんに給料を払っていたけれど、創刊号に携わったのは人生で最初で最後だったし、無理してでもやってよかったと思っています」(龍淵)
「女らしく生きるより、自分らしく生きることが大切。娘にもそれを伝えたい」(龍淵)
2018年には、長女から贈られた、「ママはいつもファンシーでビューティフル。キャリアがあって、おうちのオーガナイズをして、わたしたちのお世話をして、その上女子旅にも連れて行ってくれる。そんなママは、学校ではママだけだよ。私もママみたいになりたい!」という言葉にジーン。「それまでは、娘たちのそばにいる時間をもっと長くした方がいいんじゃないかと揺れながら働いていたわけですが、長女のひと言でやっぱり続けてよかったなと。働いている女性が普通であるように、自分が見本になって、ある種の教育の一環としてやっているところもあった。娘たちの隣で宿題を見たり、お野菜を切るのも、毎日私じゃなくてもいいと思ってます。私じゃないとダメなことと、私じゃなくてもいいことをリストアップして仕分けました」。そうして適材適所に人材を配置。スキーで骨折した時には、ギプスをものともせず、仕事と子育てに奮闘したが、当時は仕事のアシスタントがふたり、ヘルパー、そして家庭教師の計4名の女性が自宅を出入り。「彼女たちにお給料を払える自分を誇りに思おうって。女性に雇用を産んでいると考えて、歩みを止めなかった。たとえ骨折しても遊びに行ったし、旅行も諦めませんでした」
「40代はいちばん充実している時期。いまよりもっともっと上をという、欲もあった。だから楽しんだ方がいい!」(龍淵)
40代はいちばん楽しい時期とふたりは意気投合。反面、30代は大変だったと振り返る。「30代は仕事の結果を出さなくてはいけないし、責任も生まれてくる。だからって仕事を全部任せてもらえるわけでもなく、上司にお伺いを立てなきゃいかない。さらに結婚や出産が控えている。30代はすごく苦しかったので、戻れるとしても絶対に戻りたくない。40代になるとそこを抜けて、いろいろな取捨選択がひと通り終わっているから、自分らしく生きるしかない。充実しているからこそプロダクティブでいられるし、活力があって、みなぎってた。女性がいちばん輝ける時だと思う」(龍淵)
「落ち込み期には同性のお友だちがいちばん。夫に女の気持ちは分からない」(龍淵)
50代に入ると、同じ年代の友人であっても、その人の視差によってライフステージが変わってくると龍淵さんは指摘する。子育てや仕事にまだまだ忙しい40代に対し、仕事のゴールが見えて、育児から手が離れる50代のベクトルは、自分の趣味や関心に向きがちだという。「でも私は仕事でもうひと山が欲しいし、子どももまだ小さい。人によっては親の介護をする必要があるなど、同じ50代でも時間に関する考え方が全く変わってくるので、当然ビジョンも違う。そうなると、自分と目線が一緒の友だちが大切になってきます。考え方が近い友だちに話を聞いてもらったり、一緒に運動したり、あとThreadsで日記を書くことで、コロナと身近な人の死と更年期でいちばん落ち込んでいた時期を脱した感じがします。ひとりで解決できることって限界があるから、信頼できるお友だちにいろいろ話してシェアするのが重要」(龍淵)
「これからは『風』の時代。2026年までの2年間で、どれだけ変われるかがポイントに。変わっていくのは大変なことでもあるけど、実は楽しいことでもある。昔と比較せずに新しいビジョンを持って、変わっていくことを楽しんで」(青木)
トークの終盤には、青木さんによる2025年の開運アドバイスも。約200年続いた「地」の時代から「風」の時代に変わっていくのに際し、どのように運に乗るべきかが解説された。本格的な風の時代に向け、「変わっていくことを恐れず楽しむこと」(龍淵)が、運を味方にする唯一の方法だと肝に銘じたい。
「自分にとって大切なのは、インディペンデンスとプライド、アイデンティティ。この3つがないと、私は私でいられない」(龍淵)
これは自分だけでなくすべての女性にとっても大切なことかもしれないと前置きしたうえで、放ったひと言がこちら。次の世代の人たちに、「映えばかりを追いかけず、考え方や自分の経験をバトンタッチしていけるような読み物になっているので、書籍をぜひ読んで欲しい」と呼び掛けた。
「振り返ることも大事。運にのってる人は、過去を参考にしている人」(青木)
運がいい人の傾向として、「過去に執着するのではなく、この時にはこういうことがあったなっていうのを転機の時に参考にしている人」だと青木さんは分析する。「年を重ねるほど、過去は増えるもの。よかったことだけを思い出して、そこから未来に繋げていくのもいい。Amyの書籍にはそういうヒントが書いてあると思います」
「自分のファッション偏差値を上げるには、2週間コーディネートを考える習慣をつけるのが有効。50代なら、靴とジャケットにお金をかけるべし」(龍淵)
質疑応答タイムに、ゲストから服選びのコツについて問われた龍淵さん。若い頃に、2週間分のファッションコーディネートをあらかじめ考えておくことを習慣づけていたと明かした。「毎日アクセサリーひとつでも違うものをつけることを自分に課して、絵型で全部起こしていたんです。2週間経ったら、また次の2週間分のコーディネートを考える。すると、自分のコーディネートがマンネリ化しないし、足りないものが分かる。そうやって自分のワードロープを把握できるから、2週間コーディネートを考えるのはファッションの基礎体力をつけるのにおすすめ」。コーディネートに迷いたくなかったからこそ、朝にあれこれ服装を考えるのは無駄な時間になるとばっさり。「移動の時や人を待っている時に、スマホがない時代だったから、コーディネート帳を常につけていましたね。まさにファッションの筋トレです。それがいまでも役に立っているのかも」。また、50代には、いい靴といいジャケットが必需品だともアドバイス。「50代になると自分がヴィンテージ化してるから、中は安いものでいいけれど、どこかにちょっといいものを取り入れないと、パリッとした人にはならないんです」
「ルール化したり、目標を立てたりと、実際に言葉にすることで頭の中を整理する」(青木)
龍淵さんのこれまでの行動から、そう評する青木さん。「言霊の力ってすごくあるなと思うんですけど、Amyは言葉化することで頭を整理して、実際に運を引き寄せていると感じました。なんとなくやっていると、やっぱりなんとなく生きることになってしまうのが人生。Amyのように目標とか、ちゃんと言葉化してみることが大切ですね」(青木)

『ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある』
龍淵絵美著
集英社インターナショナル刊
¥2,200
text: ERI ARIMOTO