写真表現の想像を超えた『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025』の見どころをレポート!【後編】

Culture 2025.05.03

From Pen Online

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レティシア・キイ『A KYOTO HAIR-ITAGE』KYOTOGRAPHIE African Residency Program DELTA|KYOTOGRAPHIE Permanent Spaceが位置する出町桝形商店街には、滞在制作を行ったコートジボワール出身の作家がバナーを展示。

「HUMANITY」をテーマに、京都市内各所を会場として5月11日まで開催されている『KYOTOGRAPHIE 2025』。京都ならではのサイトスペシフィックな展示を繰り広げる国際写真祭の、注目したい展示を前編に続いてさらに紹介したい。


髪を彫刻の素材にする作家・レティシア・キイ

2020年に出町桝形商店街にDELTA|KYOTOGRAPHIE Permanent Spaceをオープンして以来、アフリカの若手現代作家をアーティスト・イン・レジデンスとして迎え、京都のローカルな商店街とアフリカ文化をつなぐプロジェクトを展開してきたKYOTOGRAPHIE。今年の参加作家、レティシア・キイは、「自分のアイデアを現実のものとして形にすること」をコンセプトに、髪の毛で造形を仕上げ、写真に収めることでメッセージを発信する。

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祇園のASPHODELの展示タイトルは『LOVE & JUSTICE』Supported by Cheerio。3フロアにわたって展示が行われており、ジェンダーギャップへのメッセージを込めた社会性のある作品や、自己愛を表現した作品などフロアごとにテーマを分けた構成となっている。

彼女が生まれ育ったコートジボワールでは、ストレートな髪質と明るい肌の色こそが成功と美しさの象徴とされてきた。実際に家族の女性たちは肌を漂白し、髪をストレートに伸ばす施術を行っていたが、キイは16歳の時、薬品による髪の処置に失敗し、ひどいダメージを受けてほとんどが抜け落ちてしまう経験をした。それをきっかけに、自分の自然な髪を受け入れるべく、一度すべての髪を剃り落とし、伸ばし始めることを決めた。そして、植民地支配以前のアフリカの女性たちが彫刻的に髪の毛で表現を行っていたことを知り、女性性についての想いを込めた作品を、SNSを通して発信することを決めた。

展示は2箇所で行われた。ひとつが祇園のASPHODEL。賃金を支払われることなく行われる女性たちの労働について、あるいは性暴力などのジェンダーギャップの現実について。そして、自身を愛し、自信を持って自己肯定することをユーモラスに表現した作品などが並ぶ。そしてもうひとつの会場が、出町桝形商店街。こちらでは、京都を純粋に楽しみ、京都で出会った文化を自分の髪で表現した。社会的メッセージを発信する強さと、柔軟に多様な文化を受け入れて楽しむしなやかさ。2会場の展示で、彼女のその両面を味わってほしい。

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誰もが自己肯定感を持てる世界を夢見る彼女に、自分の最も好きな部分を聞くと、「自分の考えたことをクリエイティブに表現するところ」と答える。SNSのフォロワーが増えたことをきっかけに、世界とつながりたいと考えて独学で習得したという英語のレベルも相当なもの。

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作品で仏教的価値観と対話する、エリック・ポワトヴァン

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エリック・ポワトヴァン『両忘--The Space Between』Presented by Van Cleef & Arpels 会場は祇園の両足院。

フランス北東部のムルト=エ=モゼル県を拠点に写真表現を続けるエリック・ポワトヴァン。完璧に構成された画面で森林を切り取った写真や、スタジオで植物や動物を平面的に写し出す作品のように、独自の様式と時間性、被写体との向き合い方で表現を行うアーティストは、普段のホワイトキューブでの展示とは異なる挑戦を行いたいと考え、展示会場に両足院を選んだという。

「造園された"自然"も、私が撮影した"自然"も、いずれも人の手が加わった人工物だといえます。その対話により、自然の価値について改めて考えるきっかけが生まれたらと考えました」

襖に貼られたプリントは精彩で、什器なども持ち込むことなく削ぎ落とすことの美学を体現した静謐な空間を実現したポワトヴァン。おそらく照れ屋なのだろう。ポートレイトを撮らせてほしいとお願いすると、作品の前でチャーミングにポーズをとってくれた。

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離れの茶室にも作品が展示されている(茶会・呈茶の参加者のみ入室可)。
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庭の方向から差してくる光を受けるエリック・ポワトヴァン。

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シャンパーニュの自然が吉田多麻希をインスパイア

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吉田多麻希『土を継ぐ--Echoes from the Soil』Presented by Ruinart 「再生の部屋」に入ると、最初に霧の中の鹿が出迎えてくれる。

2024年にRuinart Japan Awardを受賞した吉田多麻希は、秋にフランス・シャパーニュ地方のシャンパーニュ・メゾン、ルイナールで滞在制作を行った。幾重にも積み重なる石灰岩の地層を抱え、その奥深くに蓄えられた養分がブドウを生育し、シャンバーニュ・ワインが生まれるこの土地の循環に着目。『土を継ぐ--Echoes from the Soil』Presented by Ruinartと題する展示は2室で構成されている。土壌や地面から生える植物を撮影し、プリントした写真をシャンパーニュの土に埋めることでその痕跡を画面に残した作品を展示する「土の部屋」。そして、霧深い森の奥から響く鳴き声を聞き、追いかけて出会った鹿の姿を収め、和紙にプリントした作品が並ぶ「再生の部屋」。

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「土の部屋」では、床面に作品を展示。よく見ると、土に埋めた痕跡が表面に刻まれていることがわかる。

写真は単なる記録ではない。自らがフィールドを歩き、感じた歴史や生命の再生というサイクルを込めることで時間芸術に昇華したアーティストの意欲的な展示会場で、吉田の目線を通してシャンパーニュの空気を追体験したい。

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ファッションも含め商業写真の分野でも活躍する吉田多麻希は、2018年より自然と人との関係の不平等さを見つめ直すべく作品プロジェクトをスタートした。

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壮大な京都絵巻を写真で手がけたJR

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KYOTOGRAPHIEオープニングの前日には、京都駅北側の作品のお披露目として、京都駅長や市長も迎えてテープカットを実施。右から2人目がJR。

フランス人アーティストのJRは、メキシコの壁画家であるディエゴ・リベラ(1886-1957)の作品に着想を得て、2017年より市民参加型の壮大な壁画シリーズ「クロニクル」の制作を開始した。そして2024年秋、JRと彼のチームは京都駅前、京都市役所前、鴨川デルタなど市内8ヶ所に移動式のスタジオを構え、505人のポートレートを撮影。壮大な絵巻を連想させる壁画作品『JRクロニクル京都 2024』を写真のコラージュで手がけた。

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まだ人の少ないタイミングを見計らって早朝に訪れると、駅の利用者と思しき人がじっと見入っていた。

舞妓や茶人、僧侶、職人、ドラァグクイーン、KYOTOGRAPHIE共同ディレクターのルシール・レイボーズと仲西祐介など、被写体となったすべての人物に自分のことを語ってもらい、録音も行った(オンラインで視聴可能)。もうひとつの会場の京都新聞ビルの展示『Printing the Chronicles of Kyoto』を訪れると、その制作プロセスを紹介する展示が行われており、印刷工場跡には圧巻のインスタレーションが展開する。大きく引き伸ばされたポートレイトが立体的に浮かび上がり、その人が語るストーリーが空間に流れる。有名か無名かに関わらず、世界に生きるあらゆる人がそれぞれに物語を持っており、尊ぶべき存在なのだ。恐らく、普段は多くの人が意識していないそんな当たり前のことに気づかせてくれる展示に、心が揺さぶられるに違いない。

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JR『Printing the Chronicles of Kyoto』 京都新聞という会場の背景とリンクした展示を実現。
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京都新聞本社の印刷工場跡に展開するのは、空間の特性を最大限に引き出したインスタレーション。

『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025』
開催期間:開催中~5月11日(日)
開催場所:京都市内各所

075-708-7108(KYOTOGRAPHIE事務局)

開館時間、休館日はプログラムにより異なる

Eパスポート料金:一般¥5,800(紙パスポート料金:¥6,000)
※無料会場あり/一部会場は別途要入場料。詳細はホームページまで
https://www.kyotographie.jp

photography & text: Ryohei Nakajima

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