恋愛小説から大人の絵本まで。独自の世界観で、感性を刺激する4冊をセレクト。
Culture 2025.07.06
心を揺さぶる言葉、予想外の道を行く物語、歴史の甘美、そして花の命の詩――ジャンルを超えて、つい手に取りたくなる4冊をお届け。
最果タヒが描く恋愛小説は、エモい言葉の宝庫だった。

『恋の収穫期』
詩人の最果タヒが近未来を舞台に恋愛を描くとどうなるか。この小説はその最適解だ。22世紀には科学技術は東京に一極集中して、軽井沢では通信機器は使用不能。私の通う高校に東京から未来人の転校生がやってくる。設定からジュブナイルの名作へのオマージュを感じる。「私と恋をするんでしょう? それは、一緒に戦うってことだよ!」。恋とはふたりの間に特別な言葉が生まれること。日常が詩になる瞬間が詰まった青春SF小説。
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現代アフリカ文学の最前線は、想像以上にぶっ飛んでいる。

『割れたグラス』
バーの常連客たちのぶっ飛んだ人生の告白を《割れたグラス》と呼ばれる男がノートに書きつけていく。現代アフリカ文学の最前線を紹介する、〈アフリカ文学の愉楽〉第1弾は、現代アフリカ文学随一のヒップスター、コンゴ共和国の作家アラン・マバンクの代表作。酔っ払いの自分語りと思いきや、古典文学の名作を170以上も引用。聞き手が語り手に反転するとハードボイルドな青春小説に。仕掛けに満ちたクセツヨな世界観にハマりそう。
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王妃が愛したお菓子には、華麗なる歴史が潜んでいた。

『マリー・アントワネットのお菓子』
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」、あの発言の真相は!? フランス菓子研究家の著者が王妃の愛したお菓子を辿る。生まれたハプスブルク家には宮廷菓子部門があり、大の甘党。ヴェルサイユ宮殿の地下にも氷室があり、発熱してもフロマージュ・グラッセ(氷菓)を食べたとか。恋の媚薬だったショコラ、素朴なマカロン、ドラジェにクグロフ、お菓子で読み解く歴史は奥深く読みごたえ十分。とっておきのレシピ30品付き。
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儚くも美しい花の一生を描く、大人のための絵本。

『FLOWERBED』
「花を棄てずに未来に繋げる」を理念に掲げ、花のロスをなくす活動を展開するフラワーアーティストの篠崎恵美が、自身のフラワーショップ、edenworks BEDROOMの10周年を記念してアートディレクターの渡邉良重と絵本を描き下ろした。儚くも美しい花の一生を人生の縮図として捉えた篠崎の詩のような言葉と、『BROOCH』『アンドゥ』などロングセラーの絵本を生み出してきた渡邉の繊細な線画。特別な顔合わせから生まれた、特別な一冊。
*「フィガロジャポン」2025年8月号より抜粋
text: Harumi Taki