荻上チキが選ぶ、「日本社会のいまを知る」ための本4選。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.1】
Culture 2025.07.18
知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.1は「日本社会のいまを知る」をテーマに、評論家・荻原チキが選んだ本4冊を紹介。日本人とは? 他の国とどう向き合う? そんな問いにヒントをくれる一冊に出合えるかも。
選者:荻上チキ(評論家)
日本社会のいまを知る。
日本社会は、多様なルーツを持つ人々によって構成されています。そもそも「日本人」はどこから来たのか。「日本人」とは誰を指すのか。どんな歴史を経験したのか。他の国とどう向き合っていくのか。挙げた本は、そんな思索を深めてくれます。人は、他者との調整を重ねながら生きていきます。自分とは違うところもある隣の人と、手間暇かけて歩み寄る。仮に折り合えなかったとしても、越えない一線を確保する。そのためには、過去の理解、他者の理解が有用です。読むと世界の風景が、少し変わる。そんな読書体験を、ぜひ味わってください。
『日本人はどこから来たのか?』
海部陽介著 文春文庫 ¥770
「日本人の祖先は太古、陸続きであった時代に、歩いて日本列島にやってきた」。このような定説を、あなたも聞いたことがあるだろう。だが、遺跡やDNAの分析を経て見えてきたのは、「海を渡ってたどり着いた」という説であった。果たしてそんなことは可能だったのか。著者たちは、当時の技術で実際に船を作り、航海実験まで行う。その冒険の先に見えた、日本人のルーツとは? スリリングな探究!
『九月、東京の路上で
1923年関東大震災ジェノサイドの残響』
加藤直樹著 ころから刊 ¥1,980
関東大震災の直後、各所で虐殺が起きた。自警団らは、朝鮮人、中国人、あるいはそうと疑われた日本人を殺戮していった。この歴史は、教訓を得るために向き合わなくてはいけない史実であったが、昨今では、「朝鮮人虐殺はなかった」と主張するような、歴史改竄主義も蔓延っている。殺害の現場となった各所を巡りながら、過去の証言と現代とを結びつける、力作のノンフィクション。
『ふるさとって呼んでもいいですか
――6歳で「移民」になった私の物語』
ナディ著 大月書店刊 ¥1,760
イランで生まれ、6歳で来日。全く異なる文化と知らない言葉に困惑しながらも、一歩ずつ生活していく少女。「在留資格なし」の状況から、学校に通い、在留特別許可の取得を目指し、就職する。「外国人お断り」に傷つき、自分のアイデンティティに迷いながら、自分の「ふるさと」への想いを綴るドキュメンタリー。自分がもし、そのような立場だったら? 視点を交換し、考えるためにも。
『小泉悠が護憲派と語り合う安全保障
「日本国憲法体制」を守りたい』
小泉悠著 かもがわ出版刊 ¥1,540
ロシアによるウクライナ侵攻以降、最も注目されている軍事研究者・小泉悠氏が、護憲派の集会に招かれ、講演、質疑応答、対話を重ねた記録。日本の平和主義、非核主義を尊重しながら、有事に備えるための提案を行う。異なる立場の人同士が、「日本をこれから、どうしていこう」と腰を据えて語り合う。「護憲か改憲か」「平和主義か軍拡か」では語りきれない複雑な問題を、一から考えてみたいという人に。
NPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表、「社会調査支援機構チキラボ」所長。TBSラジオ「荻上チキ・Session」でパーソナリティも務める。近著『選挙との対話』(青弓社刊)ほか著書多数。
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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋